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第1話 プロローグ…人魚の肉 

 人魚の肉を食うと不老不死になれる。  それは大昔から語られるおとぎ話だ。  けれどその幻想を追い続けている者はとても多い。 「ぐあぁぁ!」  ガシャン、と割れる食器。  かつて人であったそれは、背中が盛り上がり口が獣のように突き出している。 「う、あ……」    両親がみるみると怪物へと変わるのを見ながら、少年カナタは床に尻をつき震えていた。  珍しい肉が手に入った父親が言い、母親がそれを調理した。  六歳であるカナタにはまだ早い、と笑いながら言われ、焼いた鶏肉を出され、両親はその珍しい肉を食べた。  その直後にそれは起きた。 「うぅ……ぐぁぁ……!」  かつて親であった化け物は、ゆっくりとカナタのほうに向く。  絵本で見たサーベルタイガーのような長く鋭い牙からヨダレが垂れ、カナタの方へと歩み寄ってくる。  逃げなくちゃ。  そう思うのに全然身体は動かないし、ただひたすら震えるだけだった。  ドンドンドン!  と、ドアを叩く音が響く。  その音に思わずビクン、と震えると、バキン! と何かが激しく壊れる音がした。  そしてリビングの扉をぶち破り入ってきたのは、黒尽くめの青年だった。 「あ……お、音耶……兄ちゃん……」    この集合住宅の隣りにすむ青年で、顔を合わせれば話をする程度の仲だった。  彼は短い刀を手にして、怪物を見つめた。 「あぁ……食ったのか」  呆れたような声で言い、彼はすっと一直線に怪物へと向かっていった。 「ぐあぁぁ!」    かつて母だったそれは、血を吹き床に倒れていく。 「ひっ……」  カナタが悲鳴を上げると、もうひとりの怪物は、太くなった腕を振り上げ音耶へと襲いかかっていく。  彼はそれをさっと避け、刀を振るう。 「ぎゃ!」  と声を上げ、それは一瞬怯んだようだった。  その隙を見逃さず、音耶は刀を突き出した。 「ぐあぁ!」  かつて父だったそれも、血を噴き出して床に倒れていく。  誰かが呼んだのだろう。  サイレンの音が遠くから聞こえてくる。  カナタのところまで血が流れてきて、彼は大きな悲鳴をあげた。    

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