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第3話 仕事
グンマ県マエバシ市。
首都機能をもつこの町には多くの政治家や富裕層が暮らしている。
そんな上流階級を相手にする娼館がひっそりと存在し、ホテルに娼婦たちを派遣していた。
こういう仕事は本来夜が中心だが、僕には需要があり午前中でも客から連絡が来る。
「職場」からの連絡用のスマホにメッセージが届く。
それにはホテルの名前と部屋番号だけが書かれている。
ホテルの名前だけ見てすぐ相手が誰かを悟る。
そのホテルは政治家が愛用する高級ホテルだ。
僕のような娼夫が出入りしても何も言わない。
タカサキから電車でマエバシに移動して、僕は娼館へと立ちよりシャワーを浴びて準備をする。
ホテルに行けばすぐに行為が始まるから、仕事の前にここで綺麗にしていくのが常だった。
「お前、夜も働ければもっと稼げるのにねぇ」
準備をして娼館を出ようとする僕にそう声をかけてきたのは、この娼館「クリザリッド」のマスターである女性、リイナだ。
腰まで伸びた真っ黒な髪に、瞳孔のない真っ赤な瞳。
受付の、高そうな黒い椅子に腰かけて足を組み、煙草を片手にじっとこちらを見て微笑んでいる。
「それは無理だ」
そう短く答えて、僕は帽子を被る。
「ほんと、もったいないねぇ。十二年も経つのに変わらない見た目。珍しい人の姿。売れる要素しかないのにねぇ。お前のためにわざわざ有給まで使ってるやつもいるんだよ?」
などと言い、リイナは煙草を口にする。
「その分高い金、とってるだろう。一日何人相手にしていると」
多いときは四人、相手にする時がある。
僕は男であるし妊娠することはない。それにいくら傷つけられてもしばらくすれば傷は癒える。
だから成り立つ。
「確かにねぇ。おかげでうちは助かってるよ。まあ今日も頼むよ」
そう、妖艶に笑うリイナに背を向けて、僕は娼館を後にした。
太陽が眩しい、午前の通りには仕事へと向かうたくさんの異形たちが行き交っている。
その多くが人の形に擬態しているが、耳が尖っていたり、肌の色が異様に白かったり、青かったりと異形の痕跡がある。
彼らが旧人類に擬態するのは、その方が生活しやすいからだ。
異形には色んな姿がある。
羽根を持つ者、角を持つ者、関節が多い者など。そのそれぞれに合わせた家や服を作るのは不可能だ。
人の姿の方が生活しやすい、という理由から、皆擬態する。
だがやはり本物の人とは異なる。僕が悪目立ちするのは当たり前だった。
指定された高級ホテル、マリオンに着き、僕は上階へとエレベーターで向かう。
一〇〇三号室の扉の前に立ち、僕はドアを三回たたいた。
すると鍵が開いたので、僕は中へと入る。
「やあ、オト。会いたかったよ」
そう言って微笑む異形の青年。
蓮華院 、といっただろうか。中性的な顔立ちで、胸元まで伸びた真っ黒な髪と白磁のような肌。目の色は金色でどこを見ているのかがわからない。
てっきり議員かと思ったら違っていた。
彼はいわゆる大富豪だ。
僕の常連客のひとりであり、週に二度は相手をしている。
「ごきげんよう、|蓮華院《れんげいん》様」
言いながら僕は帽子を外す。
彼はすでにバスローブ姿だ。ということは準備万端ということだろう。
彼は僕の手を取り、
「おいで、オト。早く君の体温を感じたい」
と告げて僕を部屋の奥へと連れて行った。
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