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第17話 でかける話

 カナタは昼には帰宅して、一緒にお昼を食べた。  その席で、カナタが僕に告げた。 「ねえねえ、音耶。ハンターの資格試験なんだけど」 「だからダメだって言ってるだろう。ハンターは危険だし、何も死に急ぐことなんてないんだから」  そう僕が言うと、カナタは頬を膨らませて不満げな顔になる。 「なんでだめなの」 「危ないから」 「じゃあなんでその危ない仕事、音耶はやってたの?」 「それは……金になるしそれに……海と遺跡の光景が好きだから……かな」  海抜五十メートルの地域が水没し、高層ビルが水面から生えている光景は、どこか現実味を感じさせない。  その光景が僕は好きだった。 「いいなぁ、俺もそれ、見てみたい。タテバヤシの港から行けるんでしょ?」 「あぁ、でも、海には海物(かいぶつ)が出るから危険だよ。だから海に近づくのは制限されてるだろう」  海のモンスター、海物の存在は人類にとって脅威だ。  幸い、彼らは地上での活動には制限があるらしく、海から出てきて人を襲うことは殆どなかった。  だけど海に入れば話が変わる。  彼らは容赦なく船を襲い、人を喰う。  そんなものと対峙することになるハンターになりたいと言われて、止めないわけがない。 「そうだけどさぁ。俺、音耶とずっと一緒がいいんだもん」  そしてカナタは口を尖らせた。  一緒がいい、と言われると心が揺れる。 「っていうかもう高三の六月だし、今さら進路変える気ないからね」 「推薦の募集はまだだろう? 僕としては考え直してほしいけど」  そうは言ったものの、たぶんカナタの説得は無駄だろう。  昨夜、僕を抱きながら言っていた言葉。カナタは僕と一緒にいたい、と何度も繰り返していた。  きっとそれは本気だろう。  でも、ハンターは危険すぎる。  それで僕はルシードを失ったんだから。  そのことを思いだして、僕は思わず口を押えた。 「……音耶?」  心配げな声が遠くに聞こえる気がする。 『生きろ!』  ルシードの声が、今でも耳の奥でこだまする。  僕の時間はずっと止まったままだ。  百年前のあの日から、ずっと。 「音耶」  いつの間に後ろに立たれたのだろうか。  カナタが僕の名を呼び、後ろから抱きしめてくる。 「大丈夫?」 「……大丈夫、だから」  言いながら、僕はカナタの腕をそっと外そうとする。  だけどその腕はびくともしなかった。 「ねえ音耶。俺は異形だよ。人類の進化形。だからきっと音耶の役に立てるよ。ねえ、せめてハンターの試験だけでも受けさせてよ。夏休み明けにあるから。まだ俺、学生だし、音耶のサインないと、受けられないんだ。それで大学は……えーと……推薦について先生と話すから。お願い」  それは、カナタの精いっぱいの妥協、なのだろうか。  僕としてはハンターになってほしくない。だって、まだ、死んでほしくないから。  できれば大学に行って、就職してほしいのに。  けれどそんな人生、カナタには無理なのかな。  考えて僕は、顔を上げてカナタの顔を見つめて言った。   「わかったよ……そうだ、ねえ、カナタ。明日、海に行こうか」 「え? 海って。さっき危ないって言ったじゃん?」  カナタが驚きの表情を見せてくる。 「クルーズ船。観光用の船があるよ」  海が危険なのは確かだ。けれど人類だって海物に対してなにもしていないわけじゃない。  貿易船や漁業の船には必ず武装船の護衛がつくし、海物の多くは浅瀬にはあまり近づかない、とも言われている。なのでタテバヤシ近海であれば比較的安全に航行できる。  だから遺跡を遠くから眺める観光船は、気軽に乗ることができた。 「マジで? いいの?」 「あぁ。遠出なんてしばらくしていないし」  カナタが幼い頃は、小さな遊園地や動物園に連れて行っていた。  とにかく資源不足で、古い遊具を修理して使っている遊園地だったけれど、カナタは楽しんでいたと思う。 「海は、行ったことないだろ?」 「うん……ないかも。でもほんとにいいの?」 「大丈夫だよ」  昨日受け取った臨時収入もあるし。  という言葉は飲み込む。 「じゃあ行く。何時に出るの?」 「あぁ……えーと、電車を使うから、タテバヤシまでは一時間弱かかるかな。だから十時前には家を出ようか」 「わかった。楽しみにしてる」  言いながら彼はぎゅうっと僕を抱きしめた。   

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