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第28話 幸せ?
もうすぐクリスマスがやってくる。
神など信じてはいないけれど、カナタと暮らすようになってから僕はその日のためにプレゼントを用意したりごちそうを準備している。
カナタが高校に入ってから、プレゼントは現金になったけれど。
少し前、夕食の席で僕はカナタに尋ねた。
「今年もお金でいいの?」
と尋ねると、カナタは小さく首を傾げて言った。
「うーん……お金もいいけどさ、どこかに行きたい!」
と、目を輝かせる。
「ショッピングモールもいいけどなんか遠出できないかなって思ったけど……どこか行ける?」
彼は僕の様子を伺うような顔で言った。
洪水以来資源不足であるため、使える公共交通機関は限られている。
新幹線はかろうじて走っているが、電力供給が安定していないため本数も少なく値段も高い。
ガソリンも高額であるため車はソーラーカーが主流だし、それだと長距離の移動には向かない。
なので旅行と言うと近県への移動が主だった。
「うーん……夏前に海に行ったよね」
「あぁ、うん行ったね」
「海にあった壁の向こう側、トウキョウに水上都市があるのは知ってる?」
そう問いかけると、カナタは目を瞬かせつつ頷いた。
「あ、うん。知ってはいるけど……」
トウキョウの町は洪水の為、水の底に沈んだ。
今、スカイタワーと呼ばれる六百メートル以上のタワーの周囲に水上都市ができていて、貿易の中心地となっている。
その都市ができたのは僕が生まれるはるか前の事だ。
資材不足の中で、少しずつ大きくなって今は十万人以上が住む都市となっている。
「そこに行こうか。船で行けるし、観光地でもあるからホテル予約するよ」
「え、まじで? 水上都市に行くの? え、嘘」
そんなに驚くことだろうか。
ちなみにトウキョウにはいくつかの水上都市がある。その中でも一番大きな都市が、スカイタワーの周りにあるスイレン市だった。
「スイレン市ならタワーにものぼれるし、観光施設があるから楽しいと思うけど」
「いいの? 本当にいいの?」
言いながら、カナタは身を乗り出してくる。
「いいよ。っていうか他に何も思いつかないし」
僕がそう答えると、カナタは箸を置いて、両手を真上にあげた。
「やったー。ありがとう、音耶」
そうなるとホテルを予約しなければ。
僕はスマホを手にして、スイレン市にあるホテルの情報を調べた。
クリスマスの旅行の日。船の時間まで時間があるから、僕はひとり、海を見つめていた。
カナタは買い物をしてくる、と言って売店へと行っている。
冬の海は静かに水面を揺らすだけだった。
空を海鳥が飛び、海の中に飛び込んでいく。
その様子を見ながら僕は呟く。
「僕は、話すべきかな」
カナタの両親は人魚の肉を喰い化け物になり、死んだ。
けれど僕は、不老不死を得た。
八百比丘尼の伝説はしょせん伝説でしかない、というのが今の通説だが、僕のような存在が他にもいるのかは知らない。
だから国の機関が僕のことを知れば何をされるかわからない。
僕は自分が何をしても死ねないのか試したことがある。
死ななくても痛みや苦しみはあり、精神がおかしくなりそうだったからすぐにやめたけれど。
「死ねない体なんて見つけたら、色々と試すよね」
自嘲気味に笑い、僕は海を見つめる。
餌を手に入れたらしい鳥が海面から飛び出して、地上に降り立つ。
ピチピチと跳ねる魚をつつき、鳥はそれをぱくっと飲み込んだ。
カナタが僕の事情を知れば巻き込むことになる。
だから僕はこの秘密を胸にしまい続けるしかないだろう。
もし、僕の秘密が公になったら、僕がした実験を第三者が容赦なく実行すると思う。
身体はいい。いくらでも再生するから。
けれど心は壊れ続けてしまう。
それはさすがに避けたかった。
「こんなの呪いだよ、ルシード」
そう海に声をかけても何も答えは返ってこない。
ずっと一緒にいられないのに、僕はカナタといっしょにいていいのだろうか。
「ずっと一緒になんて無理なのにね」
呟き僕は首のチョーカーに触れる。
してなくてはいけないわけじゃないのに、僕は仕事の時以外ずっとこのチョーカーをつけている。
僕自身、カナタから離れたくないのだろうか。
引き取り育て、セックスまでするような関係になった以上、僕は覚悟しないといけないのかもしれない。
願わくば、彼が僕から離れ巣立ちの日を迎えて欲しい。
その時がきたらいいけれど。
「おーい、音耶! そろそろ時間だよー!」
カナタが叫ぶ声が、背後から響く。
僕は振り返り、叫ぶカナタに手を振った。
そして海に向かって声をかける。
「また来るよ、ルシード」
海に眠るかつての相棒に言い、僕は海に背を向けて歩き出した。
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