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第79話

追手の中央に立つ男が軽く手を挙げると、それを合図に追っ手が一斉に弓を放った。 ビュン—— シュッ—— 清蓮は空を切り裂く弓の音を頼りにすべての矢を真っ二つに切り捨てていく。 追っ手は次々に弓を引くが、清蓮はそのすべてをことごとく斬り捨てる。 「やめろ」 束の間、男が軽く手を上げ制止した。 松明を掲げたその男は武人としてはやや小柄で、目には異様な光を宿し、鼻は天を向き、逆に両端の口角は地に向かって下がっている。 唯一、その男は清蓮にも劣らぬ若者らしい、張りのある肌をしていたが、その表情は常に不満と皮肉、怒りを内包しているようだ。 実のところ、その男は清蓮とたいして変わらぬ年であったが、若者らしからぬ陰鬱さのために、かなり年上のように見えた。 「謀反人、反逆者、逃亡者、国に仇なす愚か者・清蓮! いや、これは失礼。我らが麗しき皇太子・清蓮様! 今宵は一段とお美しいお姿で。 月もあなたの美しさには嫉妬してしまうでしょうに。あぁ、申し遅れましたが、私は道連将軍の配下の者で、忠孝(ちゅうこう)と申します。殿下、ずいぶん沙汰をしておりましたが、私を覚えていらっしゃいますか? 」 まるで舞台で芝居をしているかのような、仰々しい口調で忠孝と名乗った男は清蓮に挨拶した。 (まったく……。散々弓を放っておいて、しれっと挨拶するなんて。前置きが長いし、大根役者の酷い芝居を見せられているようだ。悪くは言いたくはないが、この男は友人になれないだろうな……) 清蓮は頭をぽりぽりと掻いた。 関わりたくはないのはやまやまだが、向こうがそれを承知しないだろう。 それにどんな相手でも、聞かれたからには答えるのが礼儀というものだ。清蓮はため息まじりに言った。 「覚えていない。申し訳ないが——」 清蓮は礼を失わない程度に、正直に答えた。 「なっ! 」 忠孝は怒り心頭、顔は真っ赤になり、握った拳はわなわなと震えている。忠孝は怒りのあまり、天に向かって血反吐を吐くのではないかと思えるほどだ。 どうやら忠孝は期待していたのだ。 清蓮が、『あぁ、あの時の君か! 君のことはよく覚えているよ、懐かしいな! 仙術の同門の友、忠孝だろう? 元気にしていたかい? 』 そう言って、清蓮が自分を懐かしんでくれることを。 (まずいことを言ったかな? でも、本当のことなんだから仕方がない) だからといって清蓮は詫びるつもりもなかった。 どうしたって覚えていないものは覚えていないのだ。 清蓮は記憶力が抜群で、短時間でも相対したことがある人はすべて覚えていた。 どんなに小さな役職の者でも、宮廷に出入りする商人や職人、宮廷で働く者など、少しでも会話をしたなら、後々まで名前も顔もちゃんと覚えていた。 それが覚えていないということは、清蓮が幼少で、記憶が定まらない時期に出会ったということだろう。 決して意地悪で言ったのではないのだが、忠孝には分かるはずもない。 忠孝はなんとか怒りを抑えると、再び話し始めた。

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