78 / 79
第78話
「あなたは——」
ビュン——!
女が何か言おうとしたその時、風を切り裂く音がした。
清蓮はすぐさま女の前に立ちはだかると、短剣を大きく盾に振りおろした。
パキッと言う音とともに、何かが地面に落ちた。
それは一本の矢で、清蓮は暗闇をものともせず、短剣でその矢を真っ二つにしたのだ。
清蓮は飛んできた矢の方角を向いたまま、女に言った。
「早く行きなさい、早く! 」
清蓮の声は落ち着いてはいるものの、有無を言わさぬ迫力があった。
女は余計なことは言わず、身を翻し走っていった。
その瞬間、無数の矢は清蓮と逃げる女めがけて放たれた。
清蓮は短剣ですべての矢を振り払いながら、木に身を潜めた。
(花街の男たちではない、追っ手だ、宮廷から追っ手が来たんだ! 一、二、三、四——ざっと十人! )
「まとまって来られると厄介だな」
相手の力量もわからず、持っている得物も短剣のみだ。
森の中で追っ手と対峙した時は、接近戦にうまく対応して逃れることができた。
だがまとまって攻められたら、苦戦するどころか、捕らえられるか、その場で始末されてしまうかだ。
「せめてこの短剣が、別の得物だったら。少しでいい、剣先が伸びてくれれば——、頼む、ここで捕まるわけにはいかないんだ! 」
清蓮は藁をもすがる思いで短剣を握りしめ、念じた。
「剣よ、伸びろ! 」
すると握っていた短剣が自ら発光し、剣先がみるみる伸び始めた。
清蓮は驚いて思わず手を離した。地面に落ちた短剣は元の大きさに戻っていた。
「今のは何だ⁉︎ なにが起こったんだ⁉︎ 」
清蓮は地面に落ちた短剣を手におさめ、くまなく調べるが、特段変わったところはない。
いつも身につけている短剣だ。
緊迫したこの状況で、清蓮は頭を全力で回転させ、納得する答えを探した。
考えている間、清蓮は無意識に首にかけている水晶に手をやり、指で無造作に転がしていると、ふとある場面を思い出した。
それは成人の儀で光聖と出会ったときのことだ。
清蓮は成人の儀で暴徒化した観客に襲われた際、足を挫いて身動き取れなくなっていた。
危ういところで光聖が迫り来る観客から清蓮を救い出し、その後光聖は、控えの間で清蓮の挫いた足の手当てをしてくれた。
清蓮が光聖の仙術を賞賛すると、光聖はこう言ったのだ。
「あなたもできるでしょう——」
清蓮は修練中に高熱を出したことがきっかけで、仙術を辞めざるを得なかった。
それは清蓮にとって辛いことで、悔いの残る出来事であった。
あと少しで、あともう少しで、そびえ立つ山の頂に手が届こうとしていたのだから。
清蓮はそれ以来仙術を諦め、剣術や接近戦での格闘術など、仙術以外の学び得る武術を熱心に取り組み、今まで過ごしてきたのである。
清蓮はもう一度、短剣を強く握り締め、伸びろと念じた。
「! 」
剣先は少しずつ伸びていく。
清蓮はさらに念じた。思った通り、剣先は伸びていく。
剣先だけではない。
刃面も大きく、重量感も増していく。
手に馴染んだこの感触、この重量、この剣先——。
それはまさしく、成人の儀の演武で使用した愛剣そのものではないか!
清蓮はその場で大剣と化した得物をぶんぶんと振り回し、その感触を確かめた。
「これならいける! 」
清蓮は確かな手応えを感じると、大剣を握り締め、追っ手の前に飛び出した。
ともだちにシェアしよう!

