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第77話
女たちは驚嘆した。
清蓮 のあまりの素早い動きは女たちを圧倒した。
清蓮は地面に伏した女を起こしてやると、不意にあるものを女の手のひらに置いた。
「みんな、ここから一刻も早く逃げて、安全な場所で暮らすんだ。
きっと、これがあれば少しは生活も楽になるだろう」
「こ、これは——」
清蓮は短剣の天然石の一つを外すと、女に手渡したのだ。
それは小さな宝石ではあるが、女が数年、不自由なく暮らしていけるだけの価値はあった。
「あの……、あなたは……」
女は戸惑いの言葉を発した。
突然、女が暗闇から現れたかと思うと、ほんの一瞬で自分たちの窮地を救い、挙句に燦然と輝く天然石までくれるというのだ。
暗闇とはいえ清蓮は十分に女に見えた。
ただ、言葉遣いは、「女」のものではなかった。
清蓮は女たちを助けてやりたいというその一心を行動で示しただけだったが、安堵感からか普段の口調で話してしまっていたのだ。
天然石を渡された女だけではない。
その場にいた女たちの目に安堵とともに困惑と動揺が同居しているようにも見えた。
清蓮は女たちの懐疑的な視線に気づくと、軽く咳払いの後、声を少しだけ高くして言った。
「貴方たちが馬車に乗せられるのを部屋から見かけてね、追いかけてきたの。剣山のことは話に聞いていたから。男たちを懲らしめてやろうと思って。まさか、こんなにうまくいくとは思っていなかったけど……。あっ、これは、楼主の部屋から拝借してきたの。ふふっ、私、いけないわね、手癖が悪くて! 」
そう言いながら、その場にいた女たちに天然石を一つ、また一つと渡していく。
「男たちが戻ってこないとなったら、楼主は貴方たちを追いかけてくるかもしれない。だから今のうちに逃げて」
清蓮は地面に落ちた火の消えた松明を拾い上げると、それに念を込めた。
「さぁ、行きなさい——」
清蓮は女の一人に手渡した。命を吹き込まれた松明は煌々と赤く周囲を照らした。
「あ、ありがとうございます……」
女たちは口々に礼を述べるが、その中に自分には身寄りもなく、行くあてもないと言って泣き出す女がいた。
すると、ついいましがた礼を述べていた女たちも、それぞれの事情で帰る場所がないと言い始めたのだ。
考えてみればそうだろう。そういった女たちの行き着く先が花街なのだ。
花街から出たとしても、そもそも彼女たちに帰る場所はないのだ。
清蓮はなんとか助けてやらねばという一心で女たちを助けたが、その先どうするかまで考えが及ばなかった。
命さえ助かればなんとかなると思っていたが、そうではないのだ。
「そうね……。確かに、貴方たちの言うとおりだわ」
すっかり女の口調に慣れた清蓮は細長い指を軽く顎に当て何やら考え始めた。
「あそこなら……」
少し考えた末、清蓮は女たちにある場所を教えた。
そこは尼寺で、身寄りのない女たちを預かり、面倒を見ていると聞いたことがあった。
おそらくそこに行けば、彼女たちは安心して暮らせるだろう。
それを聞いた女たちは希望の光が見えたのか、清蓮に何度も何度も頭を下げ、感謝の言葉を言うと、連れ立ってその場を去って行った。
清蓮は女たちが闇に吸い込まれるようにして消えていく姿を見守っていた。
パキン——
清蓮が振り返ると、女が一人。
自分の世話をしてくれた女だ——
清蓮はごくりと生唾を飲み込んだ。
手に握りしめていた最後の天然石を女に渡した。それは短剣に付いていた中で、一番大きな天然石だ。
「あの、これを……。本当に申し訳ない……。どうか、元気で……」
清蓮が女に対して言える、やっとの言葉だった。
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