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「いっ…ててててて……」
俺は今片ひざを立てて座り、その自分のふくらはぎに巻きついている、棘 つきの薔薇 の蔓 をそお…っと少しずつ引きはがしている。
なんでって…――。
俺はさっき、ウワハルがこの謁見の間から――まるで俺から逃げるように――走って出ていこうとしているとき、兄のその白い狩衣の背中がまだ見えるうちに、
『ちょっ…! 待てってばっウワハ…ッ!』
と兄を引き留めよう、追いかけようと、自分も走り出そうとした――けど、…一歩足を前に踏みだしたところで、俺はすぐさま下を見ながら踏みとどまるしかなかった。
それは、――その一歩前に出た足にも、そうではない足にも、たちまちニュルニュルニュルッと俺の足の裏からわき出て、ぞわわわ…っと絡みついてきた、
『ぃッでェァ、!? い゛っ…! 〜〜〜っ!』
そう……(言うまでもなく、ウワハルが俺の行く手を阻むために発生させた)びっしりと猫の爪みたいな棘が生えた薔薇の蔓のせいで…――それが何本も俺の踏んでいる敷布から伸びてきて、まずは俺の足袋 も何も履かない足の甲に、敷布に俺の両足を固定するようにぐるぐるぐるっと巻きつき、…さらには足首、ふくらはぎにまで伸びてきたそのつるは、キリキリと肉にくい込むくらいキツく絞 め上げてきて、…
そうしたら当然、俺の肌にはその無数の棘が次々ブスブスブスッと深く刺さってくるわ(しかも悪いことに、俺は敷布に上がるからと草履 を脱いでしまっていた)、そもそもその蔓に拘束されていちゃあ足をとられて、これ以上前には進めないわで、――足を持ち上げようとしてみたり、つま先で何かを払うみたいに振ってみたり、とにかくその蔓を千切ろう、振り払おうとせざるを得なくなった(ただ、何をしても敷布が持ち上がってしまうだけで全然駄目だったけど)。
で…――そんなこんなしているあいだに、ウワハルはもうこの謁見の間から去っていた。
『〜〜っ! こ、こんのヤロ、――おいッウワハルぅ!! 待てって、いいから一旦戻ってこいよ!!』
ただ俺は兄が憎らしくなって、バターン…とその両開きの扉が閉まるか閉まらないかの瞬間にそう叫んだけど、――もちろんウワハルがそれで戻ってくることはなかった。――
……というわけで……しかめっ面の俺は今、一旦また座布団の上にあぐらをかき、借りた糸切りバサミで、自分の両足に食い込むほどキツく巻きついた薔薇の蔓を苦労して切ったあと、それをそお〜…っと引きはがし…というのは、――俺も本当はさっさとこれを取り除いて、今すぐにでもウワハルを追いかけたいところなんだけど…――それこそ俺の肌にブッスリと、ほとんど根本まで深く刺さってしまっているそのつるの棘、それを抜くときの尋常じゃない痛みから(だって猫の爪みたいに先端がちょっと曲がっているのだ、)、どうしてもそうやってゆっくりと慎重に剥がしていく、…というか棘を抜いてゆくしかなくて……、
「……いて…いててて…、っはぁ、っとにもぅ、…」
あいつ何なんだよほんと、…とそうしながら、いろんな意味で眉をひそめる。――ここまでするってことはいよいよ激怒してんじゃん、…いやなんでだよ、せめてなんで怒ってんのかくらい言ってから逃げろよ、ほんと、…
「……、…」
てか……そういえば俺たちがまだ小さい頃、――仲良しだったおツルさん夫妻に枇杷 の収穫を頼まれたとき、身なりのいい俺たちのことを襲おうとした(で、子どもだと思ってあなどっていたウワハルにこてんぱんにされた)――山賊のおっさんは、この棘つきの蔓を男 の 大 事 な と こ ろ に巻きつけられたんだよな…、……うわ恐ろし…、今になって思うと背筋が凍る……。
「……、…、…」
とすると…俺のほうがまだマシかも……(まだ優しい…のかも……?)。
「……、…っはぁーー……」
まあ何にしても、やっとつるは取り除きおえた。
でも当然だけど、棘を抜いたあとの俺のあめ色の肌はその棘の楕円形 にぽっかり真っ赤な穴が空いて、血が流れ出ている。それが足の裏から側面から甲からふくらはぎまで、あちこちにポツポツとあるんだから、なかなかひどい有り様だ。
そしてその傷口があんまりズキズキと痛むので、俺はふぅーー…っと治癒の春風を軽くすぼめた唇から吹きかけて、その傷を癒やしながら…――でも、その傷口よりもよっぽどズキズキする胸に、思わず心の中でこう悪態をつく。
「……、…」
てか俺と結婚しないって、何。
なんでそうなったの。ムカつく。結婚したくないって、は? 意味わかんないんだけど。俺が何したっていうの。――いきなり不機嫌になって、いきなり「お前みたいな好色な男神とは結婚しない」とか、めちゃくちゃな宣言までして、…勝手なこと言うなよ、なんだよそれ、…俺だって結婚したくない…けど、あんなやつとは御免、でも、…でもあんまり勝手だ、――とこのときの思春期男子の俺は特 有 の 結構矛盾したことを思ってたけれども、つまりショックだったのだ。なぜって、今に思うと俺は(無自覚だったけど、)やっぱりこのときからウワハルに惚れていたから――。
ていうか、好色な男神って何?
何だよそれ、…いや、何度思い返してみても俺、別にさっきは誰かに色目なんか使ってなかったじゃん? ――ほんと意味不明、助平とか好色とか、…そんなこと言われるようなこと、俺は何も……。
………いや、結局本人に直接聞くのが一番だ。
「……、…」俺はむっとしながらも、すっかり傷の癒えた足で厚い座布団を踏み、すっと立ち上がった。
とにかく追いかけなきゃ。
どうせ追いかけなかったら追いかけなかったでもっと不機嫌になるんだろうし、…何より、なんであんなに本気で怒ったのかウエに聞かないことには、こんなのあんまりにも納得がいかない。
そうして俺はお姉さんたちの存在も忘れて、背後の出入り口に向かおうと、まずはふっと顔をなかば後ろに振り向かせた。――けど、そこで、
「待ってシタちゃん、今は追いかけないほうがいいわ」とトヨタマヒメ様が俺を引き留める。
見下ろすと、彼女はお膳の前にきちんと正座したまま、落ち着きはらった真顔で俺を見上げていた。
「ウエちゃんならば大丈夫。今はひとりにさせてあげましょうよ。…本人も言っていたとおり、今はその時間が必要よ。」
「……いやでも、…」
そんな悠長なことを言ってもいられないよ、だってあるいはどこに行っちゃうかもわからないし、…まあウワハルも軍神の孫だ、何かあったって別に自分の身は自分で守れるだろうけど、…だとしても、――俺は結局、やっぱり兄が心配なのだった。
でもトヨタマヒメ様は、俺を安心させるようにふっと笑って、
「安心していいわ。ウエちゃんが今どこにいるかというのは、この海にいる限り、わたくしの父が完璧に把握してるから。…それにきっと、ウエちゃんのことはもう、父が引き留めているにちがいないもの。」
「……え…?」
どういうこと、…と目を見開いた俺に、彼女はおもむろにその顔を上へ――天井の水の湛えられた円形の穴へ――向ける。
するとそのつやつやとした美しい褐色の肌や、青緑の澄んだ大きな瞳は、その水越しに燦々 と射した光に明るんでなおつやめき、彼女の優しい微笑みをより慈しみに満ちたものと見せる。
「――父王は、〝海〟なの。」
「……海…、……」
てことは…まさか…俺もおもむろに顔を仰向かせ、天井に湛えられた水を見上げた。けど、そこから射し込む光があんまり強いせいで、まぶしくなって目を細める。
「そうよ」とトヨタマヒメ様がやわらかな声で言う。
「父は天津神のような姿をとることもできるけれど、本来の姿は〝海〟なのよ。――だから、…ふふ、もしかしたらあなたは驚くかしらね、…つまり…」
「……っ、…」
俺はあっと思って、慌てて顔をうつむかせた。
そしてトヨタマヒメ様はちょっと俺をからかうように、こう言ったのだ。
「父王ははじめからずっとあ そ こ で、わたくしたちを見守っていたの。」
「……そ、そうなんだ、…」
と気まずい返事をした俺がさっき顔を伏せたのは、海神の王に失礼だと思ったからだ。――彼は「海」――つまりこの謁見の間の天井に湛えられたあ の 海 水 こ そ 、海 神 の 王 そ の ひ と なのだ。
となると、俺は今彼 を見上げながら、その光のあまりのまぶしさに目を細めてしまった、…つまり一国の王を(わざとじゃないとはいえ、)まるで睨みつけているみたいになってしまっていたと、慌てたのだった。
「……、…」
というか、そっか…きっと、だ か ら だ っ た んだ。
俺は今さっきまで強い光を見ていたために、チカチカしている両目を強くしばたたかせながら、合点がいったと腕を組む。
あのワニの召使いの女性は、たとえば俺たちが来たときもそうだった、俺たちが何かを言う前にこの謁見の間に案内してくれたし――お茶をしようという話になったときもそうだった、あっという間にここへ来て、すばやくお茶の用意を調 えてくれたけれども――それはきっと全てを見ていた海神の王が先回りして、彼女にすばやくそれらを言いつけてくれたから、だったんだろう。
それこそ海神の王が海なら、そもそも俺たちが綿津見の国に入る前から、俺たちがここに来ることはわかっていたはずだし――お茶のときだって、あの天井の穴から全部見ていたわけだから、そりゃあ知っていたに決まってる。
で――となったら当たり前、ウワハルが今どこにいるのかなんていうのも、たしかに海神の王は完璧に把握しているはずだ。
だって綿津見の国の空は海になっている。――つまりこの国は、すっかり海神の王に包み込まれている、みたいな状態なのだ。
そして仮にウワハルがこの国から出たとしても、やっぱりその先は海――いずれにしても海神の王の体のなかというか、領分というか、なのだから。
「……、…」
まあ、だとすればちょっとは安心だ…けど、…だからってほんとに追いかけなくていいのかな、とも迷う。――でも…今は追いかけるべきじゃない、とは大人のトヨタマヒメ様の言うことだ(俺たちより経験も知識も豊富な大人には従っておいて損はない)。
それに、あいつがなんで怒ってんだかは知らないけど、まあたしかに、今の兄にはちょっとひとりで頭を冷やす時間が必要なのかも…とは俺にも納得できることだし。
…ということで俺は、たしかに今はひとりにしておいてやったほうがいいかなと判断し、足下の座布団に、おもむろにまたあぐらをかいて座りなおした。
すると俺がそこに座ってすぐ、セオリツのお姉さんが「ねえシタちゃん」と、優しいながらも叱るような調子で俺に話しかけてきた。――見ると、俺の斜め前に座る彼女は、そのタレ目の甘やかな美貌を、やっぱり俺をちょっと叱るように曇らせている。
「さっきウエちゃん…なんて言ってたと思う…?」
「……いや…わかんない…」でも俺は眉尻を下げながら、ふるふると首を横に振った。
まあ彼女のいう「さっき」の見当ばかりはついているんだけど…――それはウワハルが俺の太ももを叩いてきたあと、口の中でぼそぼそと何かを言っていた、あのときのことだろう。
なぜって兄はそれ以外のときは、いつも通りかそれ以上にはっきりとした声でものを言っていたから、まさかお姉さんもそのとき以外の兄のセリフを指して「なんて言ってたと思う」とは聞かないはずだ。
ただ、…と俺は唇を尖らせる。
「だってウエ、あのときものすごくぼそぼそぼそぼそ言ってたから、俺、ほんとに聞こえなくて……」
本当だ。
でも、するとセオリツのお姉さんは「もうっ」とその黒い柳眉 の端を少しつり上げた。
「というかシタちゃん、ウエちゃんの心の声聞こえてるんじゃないの? またそうやってとぼけて、…お姉ちゃん怒るよっ」
「ちが、…違うよ、とぼけてなんかないってば、」と俺は慌てて否定する。
「俺たち確かにお互いの心の声は聞こえるけど、〝蓋〟してんの、最近、お互いに、」
「……? 何 蓋って……」するとセオリツのお姉さんが、言い訳してるんじゃないでしょうね、と疑わしげなままそう聞いてくる。
「あ、あーそっか、だから、だからさ、…」
俺はそっか、「蓋」なんて言っても俺とウエにしか伝わらないんだ――でも思ったら当たり前だ、そんなのあくまでもふたりの間だけのことなんだから――と気がつき、こう説明する。
「つまりお互いの声が聞こえないようにしてんの、魂に〝蓋〟して、そういうのお互いにできるようになってさ、…なんか気持ち悪いっていうか嫌で、だって心の声まで全部誰かに筒抜けとか、正直誰だって嫌 でしょ、…」
「……なるほどー…、…ふーんそうなんだ…」
するとセオリツのお姉さんは目を大きくしてコクコクうなずき、…つまりそれは信じてくれたみたいだ。
「じゃあさっきウエちゃんが何言ってたのかも、ほんとに聞こえてなかったってこと?」
「…っだからそうだってば、もうー…っ!」
じゃなかったら俺は、ウワハルがさっきなんであんなに怒ったのか、もうちょっとわかっているはずだ。
するとセオリツのお姉さんは、「そっか…」と沈んだ声で言いながらふと目を伏せて、「じゃあ教えてあげるけど、実はさっき…ウエちゃんはね、まず……」
「〝何が、可愛いだ〟…って、君に怒ったの…」
「……、…」
俺はぽかんとして固まった。
ていうか今さらかも、だけど、…なんであのときのウエのぼそぼそぼそ…な言葉、お姉ちゃんには聞こえてたんだろ? 真隣にいた俺にさえよく聞きとれなかったのに…――いくらウワハルの対面に座っていたとはいえ、…お姉ちゃん、本当に聞こえてたの?
「でもごめん、ちょっと…な、なんで聞こえたのお姉ちゃん…、思い込みじゃないよね? だって俺、俺にはあんまよく…ウエの真隣にいたのに…」
するとお姉さんはむっとして上目遣いに俺を睨みながら、早口でこう答えた。
「女 は こ う い う こ と に 関 し て は 地 獄 耳 な の 。」
「……、…、…」
え、そうなの…だとしたらなんか怖……。
そしてセオリツのお姉さんはまた目を伏せ、「それで。そのあとウエちゃんは、こう言ってたんだよ…?」とまた暗い顔をして兄の言葉を再現する。
「〝君、僕にはちっともそんなこと…、君には僕という将来の夫がいるだろ、それも隣に…、それなのに、求婚されないのか、一目惚れ、…一目惚れされないのかと聞くだなんて、…それも君、よりにもよって僕の隣で、…僕なんか一目惚れされようもないのに、…君こそが彼女に一目惚れを、…それでまさか君、後釜 でも狙って……〟」
「……、……?」
……は? 俺はきょとんとする。
一目惚れ…とかもそうだけど、後釜…って、――後 釜 って何?
いや意味はわかるけど、…まさかそんなわけないじゃん、…俺があのときトヨタマヒメ様の容姿を褒めながら「求婚されないの?」とか聞いたのは、あくまでも寂しそうにしていた彼女を励ますためだ――多くの女性は容姿を褒められるといい気分になるし、それに事実彼女は可愛い顔をしてるから、何となくいろんな神に求婚されてそうだと思って、…つまり新しい恋愛をする機会はいくらでもあるんじゃないの、なら過去の恋愛なんかもう忘れちゃえ、多分その子(トヨタマヒメ様の子)もお母さんの幸せを願ってるよ、的なことを言おうとしたら、…途中でウエに叩かれて、まあそれも結局は言えずじまいになっちゃったけど――。だから、それ以上の何かなんてちっとも……、
セオリツのお姉さんはさらに伏し目のまま、ちょっと眉をひそめながらこうつづける。
「〝そもそも、さっきからずっと彼女に見惚れてばかり…、隣にいる僕のことなんか見もしないで…――いいや、僕より豊玉姫 様のほうがお綺麗だものな…、…僕なんかよりうんと色っぽくて、美しくて、可愛らしくて…大人で……この耳飾りだって、きっと……〟――ね。もうわかったでしょ、シタちゃん……」
そこでつとセオリツのお姉さんの紫の瞳が上がり、俺のことを責めるようなじっとりな眼差しで見て――そして、彼女はこんなことを言ったのだ。
「つまり…さっきやきもち妬 いたんだよ、ウエちゃんは。」
「……、は、…」
まさか、と俺は目を見開いた。
それから、こう叫んでしまった。
「……ぃや、やきもちいぃ…っ?! いやっ、あのウワハルがっ?!」
嘘だろ、あの高慢ちきで自惚れ屋のウワハルが?!
そもそも普段から一貫してそんな感じの兄が、まさかそんな「僕なんて」みたいな卑屈なことを言うはずがない。――だって、ついさっきも『僕はこんなに美しいのに!』とか憤慨していたようなやつだぞ。
てかやきもちって、…たしかにトヨタマヒメ様は美貌の女神だけど、…ウエ、そんな、誰かの美貌に嫉妬するなんてこと、いままで一度も…――それこそさっきも『(セオリツ)お姉ちゃんの美貌も 侮辱するなんて!』と兄はプンスカ怒っていた通り、自惚れ屋ではあるけど、誰かを下げて自分を上げる、みたいな自惚れ屋ではないのだ。
誰かもとびきり美しい。でも自分もとびきり美しい。――自分と誰かの美貌を見比べる必要はない。見比べたってすばらしいものがただ二つ並んでいるだけだ。
間違ってもそこに優劣などない。ただそれぞれの美しさの種類が違うだけなんだから。
そうして誰かの美しさも、決して卑屈にはならずに、ありのまま認められるウワハルが…――やきもち?
「はは…」俺はまさか、といっそ笑ってしまった。
やっぱりお姉ちゃんの思い込みじゃない? ――このときの俺はまだウワハルの気持ちに気がついていなかった。つまりや き も ち の 種 類 が 違 う ことにも、まだ気がついていなかったのだ――。
でも、セオリツのお姉さんはやっぱり俺をじとーっと見ながら、
「疑ってるでしょ。…でもほんとなんだからね。」
そして「ねっ?」と隣のトヨタマヒメ様を見る。とトヨタマヒメ様は「うんうん」と真剣な顔をしてお姉さんに頷いて返してから、俺を呆れたまなざしで見る。
「だから自棄 になって、わたくしに耳飾りをくれると言ったのよ。…まあ、あ な た っ て 本 当 に 可 愛 い のねシタちゃん、全く……」
「……、…、…」
今の彼女の「可愛い」は明らかに呆れてのそれ――若くて未熟な神だ、という意味――だとは、さすがに俺にだってわかる。けど、セオリツのお姉さんはまたじとっと俺を見て、
「鈍感って意味だよ。おバカって意味。褒められたんじゃないんだからね。」
「いやっ俺だってそれくらいわかってるってば、……」
わかっては…いるけど…それは…――と俺はうつむく。
「だ、だけどなんでウエ、俺が後釜狙ってるとか思ったわけ、…そんなのおかし…」
「お か し く ない。」とセオリツのお姉さんが強調的な低い声でさえぎる。
「ちっともおかしくないわよ。」とトヨタマヒメ様も呆れた感じで追撃してくる。が、彼女は「でもまあ…」
「シタちゃんがそのつもりじゃなかったことは、わたくしもわかってはいるのよ。――ただ…なんていうのかしら…、あれだと…ねえリッちゃん……?」
「ねえー、あれじゃあちょっと…、うーん……」
「……、…」
俺はちょっと卑屈になりながら、言 外 で 論 外 だ と言ってるその女神ふたりを上目遣いで見た。彼女たちは呆れたような笑顔を見合わせている。
「…何…俺わかんない…、お バ カ で 鈍 感 な 青 二 才 だ か ら …、どいうこと……?」
「……、だからね」するとトヨタマヒメ様が、諭 すような目つきで俺を見る。
「あなた、許婚 の前であんな、…あれじゃあまるで…わたくしに特定の恋人や許嫁がいないかどうかを探って、もしそういう神がいなかったならしめしめと、自分が求愛や求婚をしてやろう…なんて下心をもった男神、みたいに思われかねない言い方だったのよ。――つまりウエちゃんには、あなたのあれがわたくしへの口 説 き 文 句 に聞こえたんだわ。」
「……っはあぁ!? いやっ俺、まさかそんな、」
「ふーー…」トヨタマヒメ様はもう結構、もうそれ以上何も言うな、というふうにため息をつきながら、目を伏せる。
「……全く、しょうがないわねぇ…――それじゃあ、わたくしが特別に、仲直りの方法を伝授してあげる。」
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