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俺たちは豪華絢爛な金ピカ、鮮やかな色とりどりな装飾が柱にまでほどこされている寺院のような、壮美なお城――「海神の宮」にやってきた。
……というのはさ――俺たちはたしかになりゆきでぶらりと初めて綿津見の国に来たわけだけれども、だとしても、まさか天津神 もわりかし高名な祖父たちの孫・両親の子神として、海神の王にご挨拶もしないで帰るわけにはいかないし――何よりセオリツのお姉さんは、その国王の娘・トヨタマヒメ様とは昔からの友だちらしくて(だからアポ無し、かつ「一見 さん」の俺たちがいても国に入れたし、こうしてお宮にも入れてもらえたのだ)、するとお姉さんとしてもせっかく綿津見の国まで来たし、ちょっとトヨタマヒメ様の顔を見てから帰りたいなーって。
というわけで俺たちは、屈強な八尋 ワニの門番――ちなみに「八尋」っていうのはめちゃくちゃ長いってこと、つまりめちゃくちゃ背が高くて、体つきもガッチリと太いふたりの門番――が守っていた、王宮の豪華で大きな両開きの玄関扉を(セオリツのお姉さんの)顔パスでくぐって……、
そして、広々とした玄関で出迎えてくれた召使いのワニの女性が、――セオリツのお姉さんも含め、俺たちは「こんにちは」という挨拶以外は何も言っていないというのに――「国王と姫様がお待ちです。さあどうぞこちらへ…、謁見 の間 にご案内いたします。」とほほ笑みながら、広ーい豪華なお宮のなかを先導して歩いていくのに着いていって……、そうして俺たちは、海神の宮の謁見の間にやってきた。
その広くて天井の高い謁見の間は、何本もの白い柱で支えられた円柱型の部屋だった。
ちなみに天井はまん丸にくり抜かれていて、そこから射しこむ日のうちで一番明るい時間ほどのたっぷりの光は、そのまん丸な天井に湛えられた透きとおった水を通して、この謁見の間を明るませている。
またその水の天井から落とされる、幻想的なおだやかなゆらめきの美しい水影が映っているのは、まず出入り口から見て対面、かつこの部屋の一番奥にある、大きなコーラルピンクの珊瑚でできた王座――その王座は藤壺 やヒトデがぽつぽつとついた堆 い大岩のてっぺんに置かれている――、そしてその王座を乗せた大岩のまわりをとり囲む、海の浅瀬のような場所だ――廊下の床と水平になるくらいまで溜まっている、その美しい透明感のある青い海水からは、大小の岩礁 がその濡れて黒くなったゴツゴツとした岩肌を覗かせている――。
で、その謁見の間の珊瑚でできた王座には、海神の王…――ではなく、トヨタマヒメ様がしとやかな姿勢で座していらっしゃった(ちなみに彼女おひとりしかここにはいなくて、王の姿はどこにも見えない)。
それこそ浦島太郎の乙姫様のイメージそのもの、って感じの桃色と黄色の衣裳 を身につけている彼女は、その青みがかった銀髪も飛仙髻 といって、要は頭の高いところで二つの輪っかを作っている、やっぱりこちらも乙姫様といったら、な髪型をしていた。――そして彼女のお顔立ちは、というと、お肌は名前にも「玉」があるように、宝玉くらいつやっつやの褐色肌(美肌の女神でもあるから、さすがって感じの超美肌)、そして頬にはぽつぽつと髪とおなじ銀色のうろこがついていて、またそのつやのある褐色の肌には、両方の耳たぶにつけられた大粒の白い真珠の耳飾りがよく似合っている。
あと、特にその透きとおった海みたいな薄いエメラルドブルーの瞳が印象的、なおかつ目のつくりも大きくてくりくりと丸っこいから、とても可愛らしい美女って感じだ。
そしてトヨタマヒメ様は、俺たちが謁見の間に入ってすぐ、パッとその大きな目を輝かせながらスッと立ち上がると、
「きゃあーーリッちゃんっ! 久しぶりぃ〜!」
とか――完 全 に 女 子 ノ リ で ――歓声をあげながら、その高いところにある王座からすーーっと、可愛い笑顔を前に突き出すようにしてこちらへ飛んできたなり――そのとき彼女の羽織っている水色の羽衣 はひらひらと優雅にたなびいていた――、「トヨちゃん久しぶりぃ〜っ」とか、こちらもキャッキャッしているセオリツのお姉さんにぎゅうっと抱きついて、…そうして固く抱き合ったふたりは、そのままぴょんぴょんと跳びはねる。
「…会いたかったああーっ!」
「わたしもーー!」
ただ、ここでセオリツのお姉さんがトヨタマヒメ様の顔を見て、「あれっ?」と嬉しそうな笑顔をちょっとかしげる。
「ていうかトヨちゃんちょっと痩せた?」
「全然! 全然だよー。」とトヨタマヒメ様は笑いながらも眉尻を下げる。
「でもまあ…、うーんまあ、…でもねー、たしかに最近忙しくって。なかなかちゃんとご飯食べられてはないかもー……」
「…ええー、それはだめだよーちゃんと食べないとぉ、健康に悪いからー…。…でもトヨちゃん、なんだか綺麗になったね。――もしかして…いい人できた…?」
「えっ違う、もう〜〜。ほんとに忙しいだけ。ほんとに。…もう男はコリゴリ!」
「「だよねー。あはははははっ」」
「…………」
「…………」
で、…このふたりの女子ノリには男の入る隙も見つけられなければ、そもそもついてもいけない男子ふたり――つまり俺とウワハルは、この女神ふたりの華やかでいきいきとした雰囲気に、多少の居心地の悪さは感じつつも、ただぼーーっとふたりを眺めているだけだった(てか、それしかできなかった)。
ただ、ふたりで久々の再会を一しきり歓 びあったあと、セオリツのお姉さんはトヨタマヒメ様に、俺とウワハルのことを紹介してくれたので、俺たちもトヨタマヒメ様にご挨拶をして――そうしたらトヨタマヒメ様は「ウエちゃんに…シタちゃんね。せっかくだからちょっとお茶していって。大したおもてなしもできないけれど、お近づきのしるしに」と愛想のいい明るい調子で言うなり、その細い腰をひねって背後にふり返ると、…見下ろした岩礁に片手のひらをかざした。
するとその黒いゴツゴツとした、でも比較的に平坦な岩肌が、ズズズズズ……と少し震えながらおもむろに上がってゆき――そうして岩の小島ができると、(なぜか)直後に入ってきたさっきのワニの召使いの女性が、その小島に青い敷布や、人数分の座布団やお膳 やをてきぱきと用意してくれて――で俺たちは、ウワハルと俺が隣りあい、向かいにはセオリツのお姉さんとトヨタマヒメ様が隣りあい、って二・二で向かい合うようして、そのお膳の前についた。
ただ、まあたしかにお茶といったらお茶…といえるものは出てきたんだけれども、それは湯のみに入ったこんぶ茶で――まあたしかに「お茶」だけど、でもどっちかというとそれは味的にはお出汁 で…――、しかも、それに合わせた「お茶菓子」として出されたものは、刺し身盛り合わせとタラバガニの殻 つきの脚のむき身と、海藻の和え物、あとこんぶ飴…とか、全部しょっぱいか甘じょっぱいやつ、そして(まあ当然だけど、)全部海由来のものだった。
なんだろ…カルチャーショック? ――俺はこの時、この一見海鮮料理屋に来たのかな、みたいな目の前の光景に、「お茶」の概念を覆 されたのだ。けど、
「……ぅんまっ!!」
全部、目ん玉飛び出るくらい美味 かったのだ。
こんぶ茶はほとんど塩味はつけられていない――ほんとに添える程度だった――けど、地上や高天原で飲むものよりも旨味 があって、緑茶みたいにあっさりしているのに、これ単体でも美味しく飲めるような味だった。
そしてお刺身もカニも生臭 さなんてちっとも感じない、身が引き締まっていてみずみずしくて、でも水っぽくはなく旨味が凝縮されていて、ほんと上等な魚 の捌 きたてって感じの味――ちなみに「お茶」だけど白米が欲しくなっておねだりしたら、ほかほか炊きたてのそれも大盛りで出してもらえた――、それに海藻の和え物も、わかめや紅藻 類のほかに、ぷちぷちとした海ぶどうってやつが入っていて、それがまた甘酢の味付けにものすごくよく合うし、何より面白い初めての食感だったから、俺はついおかわりまでしちゃったくらいだ。
でも、…こんぶ飴だけは最初はちょっとびっくりした。――「飴」というからてっきり硬いのかな、と思っていたんだけど、それが何とふにゃふにゃだったのだ。
たとえるなら餅 とか求肥 とかに近いやわらかさだ。…ていうかまあ、そもそもこんぶを飴にする…? ってところから、ちょっとびっくりではあったんだけどさ。
で味は甘くて、でもほんのり醤油っぽい風味があって――甘じょっぱいけど甘味のほうが強い――めちゃくちゃ甘いこんぶの煮付けって感じ?
実はこんぶ飴に関しては、最初はすぐには「美味しい!」とはならなかったんだけれども――まずくはないけど初めて食べたものすぎて、ちょっと考える時間が必要で――、でもなんか二個目くらいから癖になってきて、次々無意識に手が伸びて……で、気がついたら出された分を完食していた。
「うんまああ…っ! 最高!」
それで…俺がうまいうまいと箸とお茶碗を両手それぞれに持ち、出されたものを喜んで食べて(がっついて)いたら――俺の対面に座るトヨタマヒメ様がそれを見てニコニコしながら、
「ふふふ、まるで子どもね。可愛いんだから」
なんて微笑ましげに言ったので、俺は――やべ、たしかに子どもみたいについがっついちゃってた、と――照れくさくなり、箸を指にはさんだ手で後ろ頭をさすりながら「へへへ…」と笑った。
「ごめん、美味しすぎてついがっついちゃいました。」
「いいんだよ? おかわりも自由にしていいからね。たんとお上がりなさいね。」
とトヨタマヒメ様が慈愛たっぷりににこっとする。俺は「ありがとう!」と喜んでお礼を言った。
すると彼女は、その大きな目をもっとやわらかく細めて微笑む。
「うふふ…もう、ほんと可愛いねーー♡」
「…えへへ、…」
俺は初めて会った女神に「可愛い、可愛い」と言われて、…照れくささとどうしたらいいかわからないのとで、とりあえず甘えるように笑った(年上の神に気に入られるための俺の得意技)。そうしたら、
「おい、浮かれるな。」
と俺のわき腹をぐっと、俺の隣にあぐらをかいたウワハルが肘で小突いてきた。
見ると、兄はムッとして俺を軽く睨んでいる。――兄も「蓋」をしているから、本当のところはわからないけど――だらしなくへらへらするな、恥ずかしいだろ、って言うんだろう。
でも、
「いや、別に浮かれてなんかないってば。」
俺は今浮かれてたんじゃないっつーの。まだどういう反応をしたらいいのかわからないから、困ってただけだって。
「…どうだかな。……」しかし兄は疑わしげに目を細めて俺を見たあと、ぷいっと俺から顔を背ける。
「何が〝どうだかな〟だよ? ほんとだって。俺、別に浮かれてなんか……」
「ふふふ…」
で、そのときその優しい含み笑いを聞いた俺は、また自分の前にいるトヨタマヒメ様を見た。――すると俺たちを優しいまなざしで眺めているトヨタマヒメ様の、その薄い青緑の瞳と目があう。
でも彼女は俺と目が合うと、優しいなかにも少し寂しそうな目つきになって……、
「……何だか、陸に残してきてしまったあの子を思い出しちゃうわ……」
とぽそり、こぼす。
……そっか…、彼女はホオリ様とのあいだにできた子どもを、陸で出産後、そのまま地上に住まうホオリ様のもとへ残して、綿津見の国に帰ってきたんだと、シオツチのおじも話していた。…というか――だから彼女の「可愛い」はきっと、若い神の俺に、というか俺たちに、その子の影を重ねて言っていることでもあるんだろう。
「……、…」
……俺はつい彼女の顔をぼんやりと眺めてしまった。――何かを言って励ましてあげたいけど、大人の、特に恋愛事情というものは、俺にはまだあんまりよくはわからないから、むしろこれでよくわかってもいないくせに迂闊 なことを言ってしまうほうが、よっぽど彼女を傷つけてしまうかもしれないし……。
「ふふ、なあに? そんなにじっと見て。わたくしの顔に何かついてるの?」とトヨタマヒメ様がおかしそうに笑う。
と俺はハッとして、ひとの顔をじーっと見ていただなんて不躾だったと、「あ、ごめんなさい」と謝る。でも、ただちょうどそのとき、――そうだ、と思いついた。
「やっぱ豊玉姫 様、綺麗っていうか、可愛い顔してるなあと思って。――ほんとに好きなひといないの? いや、まあそうじゃなくても、豊玉姫 様に一目惚れしてくるひととか絶対いると思うんだよね。…求婚とかされない? だってこんなに可愛いッテぇ、!」
俺は自分の太もも――あぐらをかいて開かれた太もも(厳密には内もも)――の痛みに叫んだ。
そして俺のそこを突然バンッと叩いてきた、真隣のウワハルを睨みつける。
「……っ? な、何、?」
「……、…、…」
兄はムッとした顔をふるふると震わせ、俺をキッと睨みつけたまま何にも言わない。
「何 だよもう、なんで叩くわけ、…」
「……な、何が、……だ、…」
「…んあ?」
なんて? ――俺は聞き取れなかった。
本当に。…でもそのムッとした顔をうつむかせたウワハルは、ぶつぶつとこう、やっぱり不明瞭な声でつぶやく。
「……、…僕という将来の夫が…それも、隣に…、求婚……一目惚れ、……僕より……僕なんかより……」
「……? 何、ごめんウエ…聞こえな…」
「っ別に! 別に何でもない!」
ウワハルは俺を見ないままそうほとんど怒鳴 った。
「ちょっと…」とそこでセオリツのお姉さんが心配そうな、焦った調子でいう。
「違うよウエちゃん…、多分シタちゃんは今、別にそ う い う 意 味 で言ったんじゃ…」
「何て馬鹿な弟、」しかし険しい顔をうつむかせたまま、わなわなと震えている兄にはきっと聞こえていない。
そして、
「いい。別に、別にもういい、…僕だってお前なんか嫌いだ、……」
と俺を突き放すような調子で言ったウワハルは、自分の片耳に着けている翠玉の耳飾りを、まるでヤケになったみたいに荒っぽく外し、
「はあっ? なんでそうなんのウエ、…俺、俺今なんか悪いこと言った?」
って意味がわからないと慌てている俺を無視して――俺は今寂しそうなトヨタマヒメ様を励まそうとしただけなのに――、すっと立ち上がる。
兄はそのままスタスタと早足でトヨタマヒメ様のところまで行き、彼女の近くに上品な所作で正座すると、ムッとした顔で彼女を見ながら、「どうぞ」と手のひらの上にのせた耳飾りを差し出す。
「……? くれるの……?」――彼女はびっくりした顔をして、受け取ろうとはしない。
ウワハルはふとうつむき、固い声でこう答える。
「…はい…、豊玉姫 様の方 が、よほど僕なんかよりこれがお似合いになるかと思って。」
「……、はは、」するとトヨタマヒメ様はややあってから、あたたかくも困ったように笑い、
「いいえ頂けない。だってそんなことないもの。…ねえ。」
……今彼女が「ねえ」とチラリ見たのは、…なんでか俺だ。――しかも、トヨタマヒメ様の隣に正座しているセオリツのお姉さんも「そうそう」と言いながら、俺を見た。
「ウエちゃん、その耳飾りすごく似合ってたよね。…ね? ウエちゃんったら、すっごく綺麗だったよねーシタちゃん?」
「……、…、…」
な、…なんでふたりとも、俺に同意を求めんの?
ていうか…――セオリツのお姉さんのその紫の瞳からも、トヨタマヒメ様のそのあわい青緑の瞳からも――なんか、やたら『そうだと言え、ここはそう言っておけ、そう言っておいたほうが身のためだぞ』的な、からかいと忠告とが綯 い交 ぜになった、あ る 種 の 圧 を感じる…んだけど。なんでか……。
……でも、ウワハルはこと自分の誇る美貌においては、とかく面倒くさい。――たとえば俺が「綺麗だ」と言ったら、兄は「自分のどこがどう綺麗なのか」を求めてくる。…で俺がそれをうまく言い表せないと、兄は「所詮てきとうなことを抜かしたんだろう、この馬鹿弟!」なんて、…それはそれで不機嫌になる。
だから俺はほんと、それこそ迂闊な褒め言葉なんて言えたもんじゃない。
だったらまだ正直なところを言ってしまったほうが、よっぽどマシ…っていうのは、俺の今までの経験則。――ってことで今度も、
「まあ…ね…、んーまあ…、でもごめん…正直俺、ウエに何が似合うかとかは、いまいちよくわかんn…」
「シ タ ちゃん 。」するとセオリツのお姉さんが(なんか怖い笑顔で)圧をかけてくる。…何 か し ら の 圧 を……。
「え……?」
な、なんで…どいうこと……?
……で、今このときのトヨタマヒメ様は、というと…――近くに座るウワハルの顔を心配そうな笑顔でのぞき込んで、
「もう、…もう放っておいたらいいのよ、ね。シタちゃんはまだ子どもだから、まだウエちゃんの美しさがわからないんだと思う。…でもいつかは絶対わかるはずだし、…それにね、わたくしはこの耳飾り、あなたのほうが似合うと思うわ。だから…」
と兄を励ましてるっぽい…んだけど、兄はムッと意固地になった顔で「別にいいんですもう。」と言う。
「ありがとう。お姉さんたちの気持ちはとても嬉しいが、――こんな馬鹿な弟のことなど、僕だって大嫌いですから。…もうどうだっていいんです。本当に。……」
そしてウワハルは不機嫌まるだしな低い声でそう言うと、翠玉の耳飾りをトヨタマヒメ様のお膳にそっと置いてから、またすっと立ち上がった。
そして兄は俺を怒った鋭い目で見下ろすと、
「いくら豊玉姫 様がお綺麗だからといっても、だらしなく鼻の下を伸ばし切って、…恥を知れ、もう少し慎みを持て、…この助平 め!」
「…はっ? いや俺、別に鼻の下伸ばしてなんか…!」
と俺もいきおい立ち上がった。
けど、ウワハルはお姉さんたちを申し訳なさそうに見下ろして、「申し訳ないが」
「先に帰ります。――ひとりになりたいから。…っというか、」
と兄は俺をまたキッと見開いた目で睨みつけながら、ビッッと俺を指差す。――お姉さんたちは「えっ」とか「待って、」とか慌てているが、
「こんな馬鹿弟とは一緒にいたくもない、いいや顔も見たくない! ――だから、帰る。…もう。帰ります、僕は! ――いいか、二度とその間抜 け面 を僕に見せるなシタハル! 家にも入れないようにしてやる!!」
「……はああ゛っ?!」
な、な、なんで!?
そしてウワハルは俺に、更にこう怒声を浴びせた。
「――いくら運命られた夫とはいえ、…っお前のような好色な男神とは、絶対に結婚などしてやらない!!」
「……、な…なんで、つか、なっなんでお前、そんなぶち切れ……」
……とか俺が(一瞬頭が真っ白になっちゃったあと、声をふり絞って)言っている間にも、ウワハルは「それじゃあ。」とお姉さんたちにだけぺこりと頭を下げざま、バッと走り出し――たちまちこの謁見の間から出ていってしまった。
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