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第4話 俺の師匠は俺だけの花

『まずは黙って出ていくことを許してください。できれば笑って手を握ってお別れを言いたかった。けれどそんなことをしたら決意が揺らいでしまうので、このような置手紙で済ませてしまうことを詫びます』  師匠の手紙はそんな文面で始まっていた。 『あなたが立派に育ってくれて私はとても嬉しい。あなたの勇者の素質は本物です。それは誇っていい。こんなにも早く魔王を倒すための力が溜まったのを私も驚いているのですよ』  魔王を倒すための力が「溜まった」。初めて聞く表現だった。師匠は今までそんな言い方をしたことがなかった。どういうことなのか。先を読む。 『ずっと隠していたことがあります。私はこの世界の住人ではありません。そしてある特殊能力を持っています。それは「勇者の素質のある者と交わることで体にその魔力と力を蓄積する」という能力です。あなたは私を抱きながら、よく「俺を誘っていた」「抱かれたくてそんな恰好をしている」と言うようなことを言っていましたね。その通りです。私はあなたが私に懸想するように、欲情するように仕向けていました。だからもしあなたが師匠を乱暴に手ごめにして無理やり言うことを聞かせてしまっているという罪悪感のようなものを抱えているとしたらそれは捨ててもらって構いません。それは私がそう仕向けていました。あなたは被害者です』  手に嫌な汗をかいていた。手紙を捲る指が紙面に貼りついた。 『私はいろいろな世界を渡り歩いては、魔王やそれに準じる存在に脅かされている世界にとどまり、その世界の勇者を誘惑してその力を身体に蓄積し、その力で魔王を倒す。そしてそれが済んだらまた次の世界へ渡っていく、そういう存在です。今までの勇者たちもあなたと同じく、私の体の虜になり、私に勇者の力を惜しげもなく注いでくれました。私はあなたたちを誇らしいと思っています』  手が震える。息が荒くなった。でも、ちゃんと読まなきゃいけない。 『だからもう私のことは忘れてください。私はこの手紙を書く筆を置いたらすぐに魔王の城へ向かいます。この世界の王があなたを魔王を倒した勇者として扱うように根回しはしてあります。一生働かずにすむだけの報奨金があなたに与えられるはずです。それをもって、今まであなたの人生を私の目的のために振り回して台無しにしたあがないとさせていただきたい。あなたはまだ若い。どうか幸せに。元気で。私の可愛い弟子、セーガン』  読み終わるやいなや、俺は駆け出した。修行しながら旅を進めていたので、魔王の城はもう近くだった。前線の街は砦として魔王城と人間の領地の間を隔てていた。俺がそこを通ると、背後で人々の声が聞こえた。 「勇者様が現れた! 勇者様が魔王を倒しに行きなさるぞ!!」  俺は走った。ただラムフェルを追って。魔王を倒しに行くわけじゃない。なのに人々の歓声は止まらない。 「ラムフェル、ラムフェルーッ!!」  魔王の城への道は魔物の死骸が敷き詰められていた。全部ラムフェルが蹴散らしてしまったのだろう。俺が注いだ勇者の力で。ラムフェルは本当に一人で魔王を倒してしまうのだ。それは。 「そんなのっ……勇者じゃないかッ……おとぎ話の……ッ、ラムフェルが……勇者ッ……!」  ドンッ……!!!! 「ラム……フェル……」  俺の目の前で、巨大な光の柱が天を衝いた。その柱はとても大きくて、魔王城を丸ごと包み込んでしまう。その衝撃で俺は後ろに吹っ飛ばされる。眩しくて、たまらず目を閉じた。 「……ああ……」  俺は気を失ってしまったらしい。気が付くと、すべてが終わっていた。魔王城は跡形もなくなっていて、そこには抉れたような地面が残っていただけだった。とぼとぼと街まで引き返した俺を、人々は魔王を倒した勇者として歓待した。  果たして、師匠の言い残した通り俺は勇者として表彰された。王様からは一生遊んで暮らせるほどの報奨金をもらった。俺は呆けた顔のまま隣に誰もいない凱旋パレードに参加したが、死闘で疲れてしまったのだろうと誰もが勝手に納得してくれた。人々は俺に女をあてがおうとしたり、領地を与えようとしたり、銅像を建てたりしたが、どれも俺の心の空虚を埋めてはくれなかった。 「ラムフェル……俺はラムフェルだけが欲しかったんだ……」  俺は、別の世界へ渡る方法を探すことにした。そのためだったらいくら金を使っても構わないと思った。最初は俺のことを気にかけていた人々も、脅威の去った世界を発展させていくのに忙しく、いつの間にか俺のことを忘れて行った。何度も嘘やまやかしを掴まされ金を失いながらも俺はその方法を探し続けた。そして、それから何年もたったある日、俺の目の前に「夢商人」と名乗る男が現れた。 「信じられないかもしれないが俺は夢魔でね。もう何度も別の世界を行き来してる。どうしてもでかい金が要るんだ。俺はあんたに有り金はたく覚悟があるなら別の世界に渡る方法を教えてやってもいいぜ」  もう諦めたほうがいいのではないだろうかと思い始めた矢先だった。これが嘘ならもう俺にその方法を探す術も、そのために費やす金もなくなる。最後にどかんと金を使って解放されるのも悪くないのじゃないかと思った。どこまで行ってもこの世界から出られずに、ああ、馬鹿だったと踵を返す。それでいいんじゃないかと思った。  しかし、違ったのだ。男が金と引き換えにくれた方法は、本物だった。 「……なんてこった……。俺は、まだラムフェルを追える……?」  他の世界というのはいくつもあって、真っ黒な空間に飛び飛びに存在していた。ラムフェルはおそらくその世界を救い終わるまで立ち去らない。だからまだそう遠くへは行っていないはずだった。俺は手当たり次第に近くの世界に渡った。ある世界はもう滅んでいた。別のある世界はもうラムフェルが救い終わった世界だった。俺はそれぞれの世界の元勇者と話をした。ラムフェルの名前を出すとどいつも血相を変えて食いついてきて、滂沱の涙を流していた。こんなにもたくさんの勇者の人生をぶっ壊して、本当に性悪なババアだ。あいつは。 「絶対逃がさねえぞ……クソババアがよ……」  そして、俺はとうとうラムフェルの手掛かりを得た。奴はこの世界でも相変わらずあの非常識なコスチュームで男を誘いながら歩いているらしい。勇者の素質のある男児を探して様々な孤児院を訪れていると聞いて、俺は次に奴が行きそうな孤児院のある街に先回りすることにした。 「……はあ、少し歩き疲れましたね……宿を探すとしましょう」  ラムフェルはあの頃から全く変わらない美貌のままで、えぐく切れ上がった裾から覗くケツをぷりぷりさせて人気のない道を歩いている。俺はそっと後ろに忍び寄った。もともと俺は暗殺者か狩人に向いていると言われていたんだ。間抜けなババアはまだ気づいていない。 「オラッ!」  ずぶんッ♡♡ 「ほぉお゛ッ♡?!!」  俺はラムフェルのスカートをまくり上げ、懲りずにノーパンを貫いているはしたないケツにいきり立った男根を思い切りぶち込んでやった。 「あ゛ッ!? なにっ? 誰なのですッ!! な、なりませんよっ!?」 「なりませんじゃねえっ、人の性癖をめちゃくちゃにぶち壊しておいてのうのうと逃げられると思ってるんじゃねえよっ!! こんの、クソババアがッ!!!!」 「えっ……その呼び方……まさか、あなた……はぁんっ♡♡」 「思い出せるか? クソババア……」  俺はずっぷりと根元までねじ込んだまま、ラムフェルの顎を捻り振り向かせて、俺の顔を見せてやった。澄んだ瞳に映る俺の顔は昔よりもずいぶんオッサンになってしまった。だが、ラムフェルはその面影を見出すことができたようだ。目が大きく見開かれた。 「せ……セーガン……、お、追ってきた……のですか……私を……そこまで……どうして私にそんな執着を……?」 「うるせえ。お前は俺の便器嫁だって言っただろうが。俺はそれを撤回した覚えはねえんだよ」 「そ、そんな……あなたはもう自分の世界で安穏と暮らせるはずなのに、どうして私なんかに……」 「好きだからだ。俺はお前が好きだからだ。もう離さないぞ。次の世界にも俺はついていく。俺を看取るまで逃がさねえ。お前は俺だけの……俺の嫁だ」 「せ、セーガン……」 「口開けろ、舌出せ、キスするぞ、はむっ」 「はふっ♡」  れろれろっ♡ むちゅちゅっ♡ じゅるるるっ♡  口の中に舌を差し込んで舐めまわしてやると、眼鏡の向こうの瞳がどんどん潤んで蕩けていった。固くなっている前にも手を回して掴んで扱いてやるとその瞳がぐるんと上を向いた。 「はぁあぁ♡ なりません、こんな外でぇ♡ なりませんんン……♡♡」  パンッ♡ パンッ♡ パンッ♡ パンッ♡ パンッ♡ 「何言ってんだ、外で犯されるの好きだろ? ケツがトロトロになって喜んでるの、バレてんぞ」 「あっ、あっ、あひッ♡ そ、それはセーガンが外でいっぱい犯したから……っ♡」  路地裏の壁に手を突かせて、後ろから突きまくってやると、ラムフェルのケツは俺のチンポをキュウキュウと締め付けて喜ぶ。 「ほう? ほかの奴は外ではヤらなかったのか?」 「せ、セーガンが一番変態的でしたッ……どの子も嗜好はごく一般的でッ……」  パァンッ♡ 「ほぉうッ……♡」 「他の男の話なんかしてんじゃねえっ! 俺はあんな腑抜けどもと違うんだよ。ここまでお前を追ってきたんだ。俺以外に今まで追ってきた奴なんかいたかよ?」 「い、居ませんでした……っ、ふ、くぅッ♡」  ケツを叩いて赤くなったところを撫でながらも俺は前後運動を止めない。ラムフェルも迎えるように激しく腰を振っていた。絶頂が近い。 「ほら、出すぞラムフェル。何年ぶりの中出しだろうな。他の奴の力なんかもう入れさせねえ。俺の勇者の力を腹いっぱい注入してやるよッ……、ぐぅっ……」 「ああ゛ッ、あぁあッ♡ あぁあぁあぁ~ッ……♡♡」  俺はラムフェルの奥の奥まで先端を押し付けて、絞り出すように精液をくれてやる。全身をビクビク震わせて耳を真っ赤にしている後姿は、俺がもうずっと夢見ていた眺めだった。もう離さない。 「はあ……、はあぁ……、はっ……私もっ、もう、潮時という……ことでしょうかっ……♡」 「……愛してる。ラムフェル」  膝を折り、崩れ落ちるラムフェルをいつかのように俺は抱きしめる。射精が終わっても、ラムフェルは俺の腕から逃げることはしなくて。  その日、ラムフェルは本当に俺のものになった。そして俺が死ぬ最後の日まで、俺の目の前からいなくなることはなかった。  俺は、ラムフェルと一緒に一生を終えられて、幸せだった。俺が最期に見たものは、ラムフェルの慈愛に満ちた花のような笑顔で。俺の人生は、ラムフェルに壊されて良かったのだと、そう思いながら。俺は目を閉じたのだった。

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