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第2話 トラウマ

 自分のクラスの写真を見ていたら、仲の良かった友達、斎藤亮介(さいとうりょうすけ)の顔。今度はモヤモヤした気持ちが沸き起こった。  思い出したくない過去の、ふたつめは、ついこないだ。  中学の卒業式の後。クラスで集まって、カラオケで楽しく卒業パーティーをした帰り。  親友だと思ってた亮介と二人になって、歩いていた時のこと。  不意に、「一目惚れだったんだ」と言われた。  一瞬、冗談かと思ったけど、亮介の顔は、真剣だった。  一目惚れという言葉に強張ってるオレには気付かず、亮介は続けた。 「会った時から、好きだったんだと思う。付き合って、みてくれないかな」 「一目惚れって……顔が好きってこと?」 「え?」  亮介は、オレの質問に、不思議そうな顔をした。 「確かに一目惚れではあったけど」  別に男同士とかの偏見はない。びっくりはしたけど、問題は、そっちじゃない。オレのトラウマ、なんで抉ってくるのかな、と泣きたい。  ――なんで「一目惚れ」?  中学の入学式で話してから、ずっとクラス一緒で仲良かったのに。それで告白するって時に最初に言うのが、なんで「一目惚れ」? 「……オレの顔が、これじゃなかったら、好きになってない?」 「え、だって、翠は、その顔だし。って、別に顔だけが好きな訳じゃないけど」  亮介、困った顔してる。亮介に思うことを伝えたい。でも何と言えばいいのか、自分でもよく分からない。  一目惚れという言葉に対しての嫌悪感が、急にむくむくと心の中にいっぱいにあふれてしまった。 「――ごめん。亮介。付き合えない」  そう言ったら、亮介は、一度唇を噛んだ。それから。 「分かった……はは。まあそうだよな!」  亮介は、少し黙った後、急に明るく笑った。 「高校、別れちゃうからさ。ワンチャンあるかなって思って、言ってみたけど。無いよな。分かってた」  最初のトーンとはだいぶ言い方が違う。なんだかめちゃくちゃ軽くそんな風に言って、ケラケラと笑う亮介に、オレはなんだかムッとしてしまった。 「だよなー。ごめんごめん。冗談。軽く言ってみただけ」 「冗談になってないし。亮介、しばらく顔見たくない」 「はは。まあ――なかなか見れなくなるだろ。学校違うと」 「そうだけど」  少しの沈黙。オレは、咄嗟に言った自分の言葉を後悔しながら、なんだか耐えられなくなって、口を開いた。 「つか、皆で遊べばいいじゃん。学校、違っても」 「まあそうだよな――」  そこで、いつも別れる場所にたどりついた。  亮介は、ふ、と息をついて、それから。 「翠、元気でな?」  なんだか改まった感じで、そう言われた。 「亮介も……って、どうせまたすぐ会うでしょ」 「ん。だよな。じゃあな、翠」  一応頷いて、またね、と別れて歩き出す。気になって振り返ると、亮介もこっちを見てて、目が合った。バイバイと手を振られて、オレも振り返す。  歩き出して――オレは、だんだん俯いた。  亮介は、本当はどんな気持ちだったんだろう。  好きだったって、本気だったのかな。最後、気まずいから冗談にした? それとも、顔が好きで、ほんとにワンチャン、とか軽く? そんな奴じゃないと思いたいけど、もう何がなんだか分からなくなってくる。  いや、でも、一目惚れって、結局は顔ってことだよな。そんなの、大した好きじゃないよな?  つか、三年間、ずっと仲良かったのに、卒業式が終わって出てきた言葉が一目惚れって。  家までの道を一人、歩きながら、少しずついろいろ思い起こして。  オレは、首を横に振った。  その拍子に、ぼろ、と涙が零れた。すぐに手の甲で、ごし、と拭う。  ずっと、仲良くしてたし、これからも仲良くしていけると思ってた。  でも、亮介の最後の顔。  ――もう今迄みたいには居られないのかな。なんか、そんな気がした。  親友だと思ってた奴と、最大限に気まずくなって別れた、卒業の日だった。  ――思い出すたびに、なんかすごくモヤモヤする。  結局、春休みに何回か、花見だ遊園地だってクラスで集まった時は、亮介は来なかった。  たまたまかもしれないけど、今まではそういうの、全部に参加するような奴だったから、他の友達も「亮介が来ないの珍しいね」なんて言ってた。  オレのせいかな、と、また泣きたい気持ちになった。  「彼女より可愛いって言われて振られた」事件の詳細は、彼女が誰にも言ってないみたいだから、オレも言わなかった。だからあの件は、オレが初デート後にただ振られたってことになってて、可哀想にっていう話になってる。  だから、一目惚れという言葉や、可愛いと言われることが、どれほどオレの神経を逆なでするか、皆は知らない。  でもさ。一番に一目惚れって、言わなくてもいいじゃん。  顔なんて、外側だし。  はーもー、ほんとよく分からんけど。  ……この顔、いらん。  どうせちょっと整うなら、超カッコいいイケメンにしてくれたら良かったのにな。 「可愛い顔」なんて、アイドルになるなら使えるだろうけど、一般人の男に、使用用途は無いんだよ。  くそー。これで背が高ければまだ見る目も変わるかもしれないのに、ちっちゃいからな、オレ。やっとこないだ百六十超えたけど。でかい奴に比べたら、女子みたいなもんだろうし。  オレの日課が、筋トレと牛乳とカルシウム摂取なのと、高校もバスケ部に入るって決めてるのは身長を伸ばしたいから。マジ、頑張ろ。

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