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第1話 黒塗り高級外車
「ねぇおたく、何年生?」
弓道部の練習試合の帰り道、黒塗り高級外車の運転手男に声をかけられた 夜霧満月 は、警戒しながらも返事をした。
「二年です」
「それ弓道の弓が入ってるヤツだよね?アンタうちの若の話し相手になってなってくれない?」
黒塗り高級外車の運転手男は見るからにガラの悪そうな見た目をしていた。
「自分は今弓道が楽しいんです。話をする時間があるなら練習したいので、他をあたってください」
「なんだとっ?若がアンタ指名してんだ、断るってのか?!……アァン?!」
ガラの悪そうな男は車から降りようと手を掛けたが、後部座席から人の声がした。
「あぁ、話したくないならそれでいいよ。ごめんね~、……おいコラ田中、一般人に喧嘩売るなよ」
「ハイ、すいません若っ!!」
後部座席からガラの悪い男を叱る声は、よく通るテノールだった。
「弓道頑張ってね」
その声が聞こえると同時に、外車のエンジンが掛かり、勢いよく発進していった。
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