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第5話 日本人との遭遇
「日本人!!」
俺は、儀式を見に来たのだろう彼らを見て思わず指をさしてしまった。
興奮しながらアルバールを見ると、彼は首を横に振る。
……え?
どこからどう見ても、日本人な気がするんだけど?
不思議に思っていると、アルバールは 「मेरेニホンジ、セイヤकेवल」と言う。
うん……?
俺は日本人だけど、あの三人だって……?
俺は恐る恐る、「……日本人……」と指差したまま再び口にしてみる。
すると、アルバールは「कोण है वोह?」と理解出来ない言葉を発しながら鬼の形相になった。
今まで一度も怒らなかったアルバールがこのタイミングで怒るとは全く考えてもおらず驚く。
そして同時に、不思議に思った。
何故アルバールは、彼らを日本人だと言っただけで怒ったのだろう?
日本人、という言葉はアルバールにとって、特別だったとか?
いや……、もしかして……
俺は、やっとその可能性に気付いた。
もしかして、アルバールの言う「ニホンジ」は、「日本人」ではなくもっと別の意味だったのだろうか。
それに気付けば、今までのアルバールの不可解な行動が何となく府に落ちた。
そうだ、なんで俺は聞き取れた言葉を何故日本語に変換してしまったのだろう。
アルバールは日本語を全く話せないのに!
もしかすると、アルバールも同じように俺の言葉を自分の言語に置き換えて、誤解した事があるのかもしれない。
日本語の「掘った芋いじるな」が、英語では「今何時」に変換されるんだから、他の言語で同じ事が起きておかしくないんだ。
言葉の通じない異世界でホイホイ口を開いて、言葉が通じた気になった自分はバカだ。
ジェスチャーだけにしていれば、少しは違ったのかもしれない。
けれどもジェスチャーだって意味が違う事は当然あるだろう。
ともかく、言葉にしろジェスチャーにしろ、絶対的に正しい意味で通じていると安心しきっていたのは何より愚かだ。
アルバールとお互い誤解している言語について相談したいと思ったが、彼はこの後の儀式の準備で忙しい。
であれば先に日本人の三人との交流を図るべきだと、彼らに近付いた。
三人は社会人っぽい男の人達で、俺は自分が緊張している事に気付く。
……そう言えばすっかり忘れていたけど、俺は引きこもりなんだった。
アルバールとこの世界に翻弄されてここ数日は積極的に動けていたけれど、それはアルバールが俺に優しかったから。
人の悪意に敏感な俺が、アルバールからそれを全く感じなかったから出来た事だ。
初対面の人達に自分から話し掛けるのは本当に苦手だったが、俺は意を決して話し掛けた。
……のだが、三人は俺を無視して、会話を続けている。
しかし、高校でされた悪意のある無視とはちょっと違う気がした。
……なんだろう?
実家で感じた透明人間というより、正真正銘の透明人間になった感じ。
俺は、三人の目の前で手を振ってみた。
三人とも無反応だった。
普通、目の前に掌が突き出されたら必ず反射的に瞬きをするものなのに、そうした行動すら見られなかった。
「あの……」
じゃあ、見えなくても感触を感じたら彼らはどう感じるのだろうと思って肩を叩こうとした。
驚く事に俺の手は、彼らを通り抜けていって呆然とする。
……もしかして、俺って幽霊みたいな感じになってる??
「セイヤ」
俺が呆けていると、アルバールが声を掛けてきた。
俺は苦笑するしかない。
アルバールは三人に全く頓着しなかったが、こうなる事を予感していたのだろうか。
「アル……」
バール、と返事をしようとして、彼の不穏な雰囲気に怖じ気づく。
……なんだ?
笑っているけど、怒ってる……?
いや、怒っているのとはちょっと違う感じがする。
アルバールは瞳に危うい光を帯びながら、俺の腕をぐいと必要以上に強く引っ張って三人から俺を引き剥がした。
「ちょっと待っ……んんっ」
強引にアルバールに唇を奪われ、言葉を紡げない。
ここには、他人もいるのに。
俺の頭は焦りでパニックになりかかったが、その三人の会話が聞こえてきて少し落ち着いた。
『この隠しイベント、結構長いって聞いたからメシ食ってくるわ~』
『じゃあ俺、風呂入ってくる』
『スマホでゲームやりながら何か変化あったら呼ぶわ』
『了解、よろしく~』
『さんきゅ、またな』
そうだった、今の俺は透明人間。
三人は、目の前で激しくキスをする俺達が見えていないらしい。
けど、俺がVRで儀式イベントを見た時は当然アルバールの姿も見えていたのに、今はアルバールさえ見えていないという事だろうか?
くちゅ、くちゅ、とアルバールに舌を絡まれながらそんな事を考える。
舌先からじんじんとした痺れと、背筋にゾワゾワした感覚が広がって思考が纏まらない。
『あれ? さっきまでいたNPC、何処行った……?』
一人の男の呟いた。
その呟きが聞き取れる程近い距離で、「んっ、は、ぁ……」アルバールの舌に翻弄されながら、彼の両手が頬を抑えながら指先で耳を擽られる。
ええと、その男の呟きから察するに、先程まではアルバールの姿が見えていたのに今は見えていないという事だ。
つまり供物を捧げて儀式の準備をしていた時は、アルバールは見えていたのか。
さっきと今の違いは……
「んん……っ」
アルバールは、俺の腰を引き寄せて硬くなった自分のちんこを押し付けてきた。
俺の息子もグリグリとアルバールの太腿に刺激されて、熱を帯びてくる。
「……アル、バールっ……っ」
なんで。
昨日は、俺の様子を見て、自分の欲望を抑えてくれたのに。
気持ちが通じたみたいで、嬉しかったのに。
「ぁ、やぁっ……」
アルバールが、男達の目の前で俺の衣装をまくりあげ、臀部を晒して中心の窪みに指を添える。
その先を連想するのは容易で、俺は執拗に舌を絡ませるアルバールの顔を手で押して抵抗した。
「だ、駄目っ……!」
相手から見えていないとわかっていても、彼らの目の前で性的な行為をするのはハードルが高すぎた。
身体を捩った俺を、アルバールはくるんと後ろ向きにしたのでわかってくれたのかとホッとしたのも束の間。
「え、うわっ」
アルバールが俺を軽く押したので、俺はつんのめって前に跪く。
すると次の瞬間には、ぐいん、と後ろに引っ張られ、俺は両膝に腕を入れられて抱き上げられた。
ぷらんとした足を左右に大きく開かせられて、捲れた服から俺のちんこがポロンと飛び出し主張する。
「う、嘘、うそ……っ!!」
自分の急所を目の前の三人から思わず隠す俺。
でも本当に隠すべきなのは、そっちじゃなかった。
「うあっ……!!」
丸見えになった俺の後孔に、俺を抱えたまま座るアルバールの先端がずぶりと差し込まれたのだ。
「あ、あ、あっ……!!」
身体を支える物もなくすがれる物もない俺は、ただただ自分の重みでずぶ、ずぶ、とのめり込んで来るアルバールの肉棒を追い出す事が出来ない。
──目の前に、三人の男がいる前で、俺はアルバールに後ろから貫かれている。
それを意識した途端、身体が芯からかあっと熱くなり、俺の後ろの穴はひくひく蠢いてアルバールを締め付けた。
「いやぁ、やら、らめぇ……っっ」
全く慣らしてない穴に急に異物が侵入してきて壁が引っ張られ、ピリピリする。
なのに、どこか気持ち良く感じてしまう自分がいて、それに恐怖した。
嫌なのに、気持ち良い。
気持ち良いのを、認めたくない。
認めたくないけど……認めれば、楽になるのだろうか。
ばちゅん! どちゅ! どちゅ! どちゅん!!
「あ♡ ああっ……♡♡」
儀式の時間なのに、その男達の前でそのままアルバールは何度も体位をかえ、見せ付けセックスで延々と俺を貪った。
『なんかNPCがいなくなって、そのまんまだわ』
『んだよー。今回こそ隠しイベント発生したと思ったのにー』
彼らがいなくなっても、アルバールは執拗に俺を追い立て、絶頂を促す。
ふと見た彼の表情は寂しそうで、悔しそうで、哭きそうで……泣きたいのは俺の方なのに、何故か慰めたくなった。
彼は何をそんなに心配しているのだろう?
……言葉が、通じれば良いのに。
朝の光を感じながら、俺はそんな事を願った。
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