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第1話 長い長い片想い
俺の想い人は、昔から夢みがちな男だった。
子供の頃から「すげー冒険者になって、たっくさんの人をこの腕で守るんだ!」って口にして「お前も手伝えよ!」って俺を巻き込んで。
毎日クタクタになるまで二人で素振りして、その辺で拾った木切れで作った剣を交えて……。
いつだってカーマインは俺の親友で、ヒーローで、大切な家族だった。
底抜けに明るくて、アホなくせに頑張り屋で、夢みたいなことばっかり言うくせに、いつの間にか本当になってる……そんなカーマインの側でなら、なんだって出来るような気がしてた。
何度か想いを伝えてみた事はあるけど、はぐらかされてばっかりで……それでも二人、冒険者として楽しくやれてたからそれでいいかって思ってたんだ。
なのに。
新しい冒険の拠点に移って三ヶ月、この街にもそろそろ慣れてきた、そんな時分だった。宿の一階に併設された酒場で昼飯を食べながら次の討伐依頼を検討している時、急にカーマインが顔をグッと近づけて、楽しげな笑みを浮かべた。
「なぁ、ライア。昨日ギルドで会ったエリスって子、覚えてる?」
「ああ、冒険者として登録したばかりだと言っていた……金髪のヒーラーの子だろう?」
カーマインが好きそうな子だと思ったら、案の定早速声をかけてたからな。そりゃあ覚えてる。
「あの後オレ、ちょっと話したんだよ。ホント可愛くってさ、ちょっと褒めたくらいで頬染めちゃって初々しいったら」
「確かに冒険者にしちゃ珍しい、おとなしそうで純粋が服着て歩いてるような子に見えたな」
「ライアもそう思うだろ! オレさぁ、ああいう子が好みなんだよなぁ。パーティーに入ってくんねぇかなぁ」
思わず真顔になる。
目の前が暗くなるような思いだった。
幼馴染でまだ孤児院にいる時からずっと二人きりでやってきたパーティーだ。
俺もカーマインも冒険者の子供で、ある日突然親が帰って来なくなって孤児院に引き取られたっていう境遇が同じで、孤児院に入る時期も年も近かったせいか、自然とよく一緒に行動するようになった。
遺伝なのか孤児院の子供ら中でも特別に剣の才に秀でたカーマインと、剣の腕は普通ながら魔力もほどほどにあってシスターの指導で簡単な回復魔法くらいは習得できた俺が、手っ取り早く稼げる手段として冒険者を志すのはごく自然な流れだっただろう。
冒険者カードを発行できる最低ラインの12歳で初めて共に冒険に出たあの日から、街を転々としながらもう六、七年は経つだろうか。これまでずっと二人で問題なくやって来れたと思ってたけど、カーマインは物足りなかったんだろうか。
「そろそろまた拠点も移したいしさ。エリスみたいな回復特化がいれば安心じゃないか? エリスも入れてくれるパーティー探してるって言ってたし、あの子みたいな素直で可愛い子がいてくれたら旅も賑やかになってさ、さらに楽しくなるじゃん」
「そうか……そう、だな」
屈託なく笑うカーマインが、いっそ憎らしい。こんな時、俺なんてカーマインの眼中にもないんだと思い知らされる。
こんなにもカーマインが好きなのに、俺じゃカーマインの唯一にはなれないんだ。
もうかれこれ十年は片想いし続けている。想いを告げる度にいつだって笑って流されるけど、俺が男だからダメなのか、それとも俺だからダメなのか……どちらにしろ俺はカーマインの冒険者仲間にはなれても、それ以上にはなれないらしい。
これまでも町娘のあの娘が可愛い、娼館の誰が好みだった、なんて話を嫌と言うほど聞かされてきたけど、それでも我慢できたのはそれが街の女達だったからだ。一歩街を出れば討伐の間はカーマインを独り占めできたし、拠点を移せば女達との縁も切れる。
だが、ついにこの日が来てしまった。
好きなら出来る限り時間を共にしたいと思うのなんて当たり前だ。カーマインがいつか冒険者仲間に安らぎを見つける日が来るのを恐れてはいたが……それが思っていたよりも早かっただけだ。
好きな人が目の前で他の人と愛を育む様なんて笑顔で見ていられる自信なんかこれっぽっちもない。そんな日が来たら潔く身を引き、カーマインの前からも姿を消そう……そう漠然と考えていた事が、現実になろうとしている。
来るべき日が来たのだと、俺は痛む胸をそっとおさえた。
いや、そのタイミングがこの街で来たってのも、もしかしたら神様の思し召しというヤツかも知れない。
「……確かに、剣士とヒーラーは組み合わせとして抜群だ。彼女が他のパーティーに決めてしまう前に、誘ってきた方がいい」
「やった! ライアならそう言ってくれると思ってたぜ!」
嬉しそうにエールを煽って、カーマインは勢いよく席を立つ。
目がキラキラしてて、すごく嬉しそうだ。
この素直な感情表現が好きだった。元気のいい子犬みたいで、興味のある事にはどんどん首をつっこんで、よく泣くけどよく笑う。ここ何日かで一番の笑顔が他の人の事だって言うのは少し寂しいけど、でも最後にこの顔が見れて良かった。
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