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第2話 恐れていた日が来た、それだけだ
カーマインのツンツンした真っ赤なくせっ毛も、情熱的な真っ赤な瞳も、健康的な浅黒い肌も、笑った時に見える真っ白な歯も、全部好きだった。
そのひとつひとつのパーツも、くるくる変わる表情も、しっかりと目に焼き付けておこう。
胸のじくじくとした痛みは見せず、俺はカーマインに笑って見せた。
「うまくいくといいな」
「おう! 祈っててくれ」
「頑張れよ」
苦笑しつつ立ち上がり、自分の槍を手に取る。金をテーブルに置いてから、もう走り出そうとしているカーマインに声をかけた。
「彼女にも質のいい防具が要るだろ。アッガスの店で待ってる」
「分かった!」
待ちきれない様子で走り出すカーマインを見送って、そのまま飲み屋の二階に上がる。この三ヶ月俺たちが根城にしていた部屋で身支度をして落ち着いた俺は、少しだけ考えてカーマインに宛てて手紙を書いた。
俺は口下手だから、言葉だけではうまく伝えられないかも知れない。
カーマインが俺のことを気にせずに、先に進めるように。大切な人と幸せに笑って過ごせるように。
願いを込めて俺にしてはかなり長文の手紙をしたためテーブルの上に置いて、守護石を重石がわりに置いてみる。俺達が初めてデカい討伐で得た報奨のひとつで、俺達にとっては特別な品だ。全属性の加護がついていて、パーティーを守ってくれるという、二人の宝物だった。
これからも、カーマインと彼の大切な人を守ってほしい。
守護石にそんな願いを込めてから、俺らの全財産を握りしめて質の良い武器と防具を幅広く取り揃えているアッガスの店に向かった。
宿はあとひと月は泊まれるだけの支払いを済ませてあるし、それなりに蓄えもある。これまで俺の装備はいつだって後回しにしてきたから、最後にきちんとした槍を買わせて貰おう。後はカーマインが好きに使ってくれたらいい。
アッガスの店でそろそろ買い替え時だった槍を見繕っていたら、先端が刃になっているソードスピアを見つけた。刺突だけでは限界があると思っていたところだ、ちょうどいい。ついでに使い勝手の良さそうな小ぶりなナイフも買った。これくらいの装備はさすがに必要だろう。
支払いを終えてソードスピアとナイフを装備したところで、勢いよく店の扉が開く。
「ライア! エリス、仲間になってくれるって!」
振り返ったら輝くような笑顔のカーマインがいた。その後ろに隠れるように、恥ずかしそうに微笑んでいるエリスが見える。見るからに可憐で身体も心も柔らかそうな少女だ。
「そうか、良かった。カーマイン、これ」
金の入った袋をカーマインに渡す。なかなかにずっしりと重い、俺たちのパーティーが蓄えてきた全財産。貯めておいて良かった。
「え? 金?」
「ああ。エリスの防具を揃えてやった方がいいだろう。使うといい」
「いいのか!?」
「もちろんだ。装備は命を分ける、ケチるなよ。宿代もあとひと月分は払ってある。よほど無駄遣いしなければその後の生活も暫くは困らない筈だ」
「あ、あの! 私まだ一度も戦闘に加わっていないのに、そんな……買っていただくわけには」
慌てたようにエリスは言うけれど、見たところ彼女の装備は町人レベルだ。そもそも金がある冒険者なら、初心者だとしてももう少しマシな装備を身につけているだろう。
「君の防御力がペラペラに薄い紙レベルだとカーマインが戦闘に集中できない。パーティーは総合力だからな、気にする事はない。君の防具は最重要だよ」
そうして俺は冗談めかしてカーマインの肩を軽く小突いた。
「心配しなくてもカーマインは君に結構いい防具を買ってやれるだけの甲斐性はある男だ。ちゃんと選んで、身を守れて動きやすいものを買ってくれ」
「あ……ありがとうございます!」
感動したような顔で思いっきり頭を下げてから、エリスはローブが並ぶコーナーへと駆けていった。素直ないい子だ、さすがカーマインが気に入るだけはある。
早速真剣な表情で防具を選び始めたエリスを眺めながら、俺は隣に立つカーマインに囁いた。
「エリスはまだ駆け出しなんだろう? 暫くは日帰りで経験を積ませるためにエリスとお前、二人でダンジョンの三層くらいまでをメインに動いた方がいいかもな」
どこの町の近くにも、初心者が潜れるようなダンジョンがあるもんだが、ここのダンジョンは結構デカくて、地下三層くらいまでなら初心者でも問題なく進める。
だが、それより深くなると一層毎に敵の強さは格段に増していく。中堅から上級者まで幅広く挑める代わりに判断を誤ると一気に死が近づくような、そんな怖さがある場所だった。
「二人で? なんで?」
「カーマインが守ってやれば、彼女からも頼りにされるんじゃないか?」
「そりゃそうかも知れねぇけど、でもライアは?」
キョトンとするカーマイン。もっと喜んでくれると思ったが、やっぱり初心者と二人では少し不安なんだろうか。でも、俺ももう気持ちを変えるつもりはない。
「俺は『聖騎士の塔』に挑むつもりだ」
「聖騎士の塔って、この街にある?」
「そうだ。いつか挑もうと思ってたんだ」
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