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マリー ※
「っ、……くっ、……ぁあっ……」
喘ぐ僕を栗色の瞳に映しながら、君はベッドを軋ませる。
ここが弱いね。
繋がったまま、僕の耳に触れ――愉しげにじらすけれど、
君が触れたところは全部、
もう全部弱くなっているんだよ。
悪魔のように美しい君。
この手がなければ――
僕はもう、一秒だって眠れない――――。
**
安息日の昼下がりには、妹のマリーの眠る墓にもたれて好きな本を読み耽る。それが近頃、僕の習慣になっている。
十も歳下の小柄なマリー。熱病にうなされて、たった6歳で逝ってしまった。
遠い異国の地で父さんが戦死した報を受け取った日から数えて、わずか四日目の夜のこと。
医者を呼ぶお金も、薬も食べるものもなくて、僕と母さんにはどうすることもできなかった。
風の強い日だった。
命の灯の消えたマリーの睫毛に、窓から吹き込む雪の花が舞い落ちて、溶けて涙のように頬を伝い降りていったとき。
それまでじっと唇を噛んで耐えていた母さんが、わっと堰を切ったように泣き出した。
僕は母さんが泣くのを、たぶん生まれて初めて見たのだと思う。
父さんの訃報を受け取った時でさえ、母さんは泣き叫ぶ僕たちの肩を強く抱いて『母さんが側にいるわ』と囁いた。
母さんは金色に輝くマリーの髪を何度も何度も掻き分けながら、一晩中、咽び泣いた。……
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