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オランピア

「ごきげんよう、ノア。ねえ、今日は何の本を読んでいるの?」 「えっ……」 急に落ちてきた明るい声に、驚いて本から顔を上げる。 マリーよりも黄みの強い金髪の巻毛を揺らしながら、一つ歳下の幼なじみのラウラが、にっこりと笑って立っていた。 「ねえ、何の本?」 「え……えっと、……オランピア」 「ふうん。面白いの?それ」 「……まあ」 繰り返し読んだホフマンの名作。宝物だ。 「どんな話なのよ?」 こちらの物思いなどどこ吹く風で、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。 「えっ……と、自動人形に恋することを仕組まれて、破滅する男……の、話?」 ざっくりとしたあらすじを言うと、ラウラはブッと吹き出した。 「なにそれ、変な話!」 そう。確かに変な話。 でも僕は、主人公の青年が気の毒でならない。 だって恋した相手が実は人形で、その上、それが仕組まれたものだったなんて、あまりにも――。 「じっとしてるとお腹が減っちゃうわ。座っていい?」 僕の許可を得るまでもなく、座り始めるラウラ。 いいけど、ここ、マリーの墓の前だよ? まあ、いいけども。……

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