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掃除屋さん
1 茅島伊桜吏
お掃除屋さんをね、してたんですよ。
小さいもので言えば床に吐き捨てられたガムとかね…あとはそやね、大きいもんで言ったらまあ…人、とかね。
まあなんでもね、依頼主が"ゴミ"言うんならお掃除しますよってそういうお仕事なんですよ、ええ。
まあそれで…いつやったかな…5年…くらい前やろか。
なんや……小学生や中学生のガキをよーさん集めて、大人相手にエロいことさす、みたいな…まあ要は児童買春ですわ、それをやってる組織がヤクザさんに目つけられてしまいましてね。
まあ自分らのシマで好き勝手商売されたんで迷惑やったらしくてね、それでお話では解決出来ず、まあ"お掃除してください"てなことでね。
それでまあ俺の出番ですよ。
うちの掃除屋は優秀な…ほらなんて言うんやろうね、事前に…"ゴミ"のことよー調べるような係のもんもいますからね、その人らの言う通り、俺はお掃除をするだけなんですよ。
掃除の仕方までご丁寧に指示があるんでね、俺はほんまにその通りにやるだけですわ。
後片付け…ちゅうんかな。
床磨いたりとか…"ゴミ"を廃棄したりするんは、また別のもんの仕事ですけど。
そんでまあ…あの日もいつも通りにお仕事してね。ええ、上手くいったと思いますよ。
けどねぇ、あの日は困ったことが色々とあってねぇ…。
困った、ゆうか…腹立つこと、やな。上司の言う事に腹立つ事、お兄さんもあるでしょう?……いや、お兄さんはここのオーナーさんか…?やったら…まあ…お兄さんが腹立たれる側かもしれんけどねぇ…。
まあ、その腹立ったこと言うのがね、そこにいるガキもまとめて"掃除"してくださいね、っちゅうことやったんよ。
いやあね、俺もね、"ゴミ"なんやったら"掃除"しましょう言うんは分かるんよ。けどねぇ…"ゴミ"じゃないもんは俺だってそんなね、嫌ですよ。
…俺だって人の心くらいありますから。
10人くらいかなぁ…部屋で震えてなぁ…そうそう…あの日は特に寒かったし…それだけが理由やなかったかもしれんけどね。
俺も"掃除"したすぐ後で汚れてましたしね、それ見てまあ…わんわん泣いてる子ぉもおったね。
やけども…なんかねぇ……
一人…なーんにも震えてへんでね、ただじっーと…ぼーっと…三角座りして床見つめてる子ぉがおったんよ。ひょろひょろに痩せててね…あの時で…中学生くらいちゃうかったかなぁ?
なんや俺ね、無性にその子のことすごい気になってね。しばらく髪切ってへんのか…肩くらいまで伸びて長くて…女の子かと思ったんやけどもまあ違ってね。
髪だけやなくてね、ちょっと顔上げさせたら、まあすごい綺麗な子ぉやったんよ。目くりくりしててね、鼻もスーッと通っててまあべっぴんゆうたら男の子やのにあれやけども…。
ほんでなんや…ちょっと猫みたいな…ね?ツーンとした…そういう顔やねんな。
俺なぁ、猫好きやねん。
かわええやろ、猫ってなあ?
ずーっと飼いたいなあ思っててんけどなあ、うちの掃除屋さんの寮はな、ペット禁止やねん!でも猫やのうて人やったらええんと違うんかな?思てね、ほんで連れて帰ったんよね。
あ、他の子供らはね、俺のお知り合いに"リサイクル"さしてもらうことにしてね。まあこれは社長には内緒やけどもね…。まあまあ、上手いことやるのもこの歳なったら覚えるわ。
その子らのその先のことは分からんけど…まあ俺も仕事やからね。あの日からのその先は業務外のこととしてね、時には割り切らなあかんからね。
ほんでまあ…そのさっき言うた子をね、寮に連れ帰ってんけども。
なんも言わんとだまーってついて来てな、今日から俺のペットや、なんて偉そうに言うてみてんけど。
やけども、まあなんも言わんのよ。
それへの返事とかやなくてもな、ほんまに一言も、なーんも喋らんねん。うんともすんとも。名前聞いてもじーっと目見てなんも答えへんのよな。
子供らにはなんや足首にな、GPSみたいなん仕込まれてる足輪みたいなんがついてたんよ。まあ逃げ出したりした時用やったんやと思うんやけどな。
そこにな、「C」って書いてたんよ。
やから試しに「C」って呼んでみたらパッてその子がこっち見るんよな。「C」って呼ばれてたか知らんけど…あはは、偉い酷い扱いやんなぁ?もうちょい立派な名前つけたったらええのにとは思うてんけども、まあ馴染んだ名前なんやと思ってな、その日から俺もその子を「しぃ」ってな、呼ぶことしてんな。
あれよ?アルファベットのCやなくて、ひらがなのしぃ、よ。これはちょっとこだわりやからね。ほら、なーんも喋らんでずっーと静かにしてたからね、その「しぃー!」っていう…静かにしろの合図あるやろ?まあそういうのから取ったっていう…後付けの理由はいくらでもあるけど。あはは。
あ、でもでも…あとから分かったことやけどね。
汐生 って言うんよ、本名な。
やからまあ本人には「知ってたよ」なんて言ってみたりもしたんやけど…まあお見通しかもしれんね、知ってからやっと汐生言うて呼んでるしな笑
――
来たばっかりの頃はほんまになんも喋らんくて…まあ今もあんまり喋る子ぉやないけどな。
これしろあれしろ言って命令せな何もせえへんのよ。飯食えとか風呂入れとか、言わな何もせえへん。
でも代わりに、言ったら何でもするねん。
俺もまあ…ちょっと最初はな、興味本位でまあ…「どんな仕事してたんか俺にしてみせて」言うて…ほら…やらせたりとか…。
いやいやもう時効やと思てるんやけど…まあね、そう…普通に従ってなあ…それがまた…上手いねん…!
俺ちょっとハマってもうてな いやいやでもタダでとちゃうよ!?ちゃんと、その対価は支払ってたねんで。してくれた代わりにこれ小遣いや、言うて 結構払うてたよ?!…それに俺すごい可愛がってた自信もあるよ。
よーいろんなとこ連れてったわ。
あれや…何やガキは好きなんちゃうんかと思ってな、遊園地とか…あとはほら、水族館とか…何や思いつくところ色々連れてってな、まあ大体シラーッとした顔して何も楽しそうにせんかってんけどな笑
それでもなんや…ほら、耳あるやろ?ほらネズミのな?そうそう…そういうん付けさして…欲しそうにもないぬいぐるみ買い与えたりして…まあ俺が楽しんでるんやけど…。
飯もいろんなとこ行ったわ。一人やったらよう入らんようなな、なんやファミリーレストランか?寿司回るとことか…。
反応良かったんは焼肉やな。
何も喋らんねんけどな、焼肉は黙って食うねんけどなんやいつもよりスピードが早いねん。どんどん食べてな。「もっと食うか?」言うたらコクンって頷いてなぁ。いつも反応とかほんまないねん!命令も黙って聞くばっかやったから。せやけど初めて自分から"うん"ってな、頷いてな…。あれは可愛かったなあ笑
美味いんやあって嬉しかったなあ。
あとはあれや、映画館な。
映画もよう連れてったんやけど…何やつまんなそうやねんいつも。せやけどな、車のアクションの映画あるやろ?あれは…あはは…思い出したら笑うてまうけど…あれってシリーズもんやねん。
ほんでな、ある日新作が発表されたらしくてな。
小遣いも渡してるし一人で外出たあかんなんか一言も言うて無いんに、あかん思てたんやろうな、でもその新作の映画見たいねんな、ほしたらその日の夜な、ずっと俺のことチラチラ見てんねん。いつもはもうほんまスーンってしてるのに…あはは。
ほんであまりにもチラチラ見てくるから「どしたん?」聞いてもやっぱり何も言わんねん。けどまたずーっとチラチラ見て来てな…。
「何や飯食いに行きたいんか?」聞いたらスッと俯くねん。あー違うんか?思て…「ほなどっか遊びに行きたいんか?」聞いたらパッと目合わせてジーっ見てくんねん。
あ、どっか行きたいんやと。
「ほなどこ行きたいの?遊園地?水族館?服買いにか?映画?」…っ…あはは…思い出したらわろてまうけど…「映画?」言うた瞬間もうな、目の色変わるねん!"行きたい行きたい!"みたいな目ぇしてな笑 あはは…俺も笑うてしもて。「行きたいところあるんやったら言うたらええやんか」って。まあほんでほんなら映画行こうかって連れてったんやけど。
「どれ見たいん?」聞いても何も言わんねん。でもな…視線はずっとその車のアクション映画のポスターに注がれてるわけ。俺もうおもろくてちょっと意地悪してな。「これ見よか?」って別の映画言うてチケット買いに行こうとしてな…でも汐生、その場から動かんのよ。じーっとポスター見たまま、動かんでな…笑
俺はもう可愛いてな、それが…。けたけた笑いながら「これ見たいんやろ?ほな言ってくれたらええやんか」って。「俺もこの映画好きやしこれにしようか?」言うたらパッてこっち見て、もう大きい目キラキラさせてな。汐生ってな、ほんまに可愛ええねん。
――
まあそれが1年とか2年とか…それくらい経った時くらいかなぁ…。
そうやってちょっとな、意思表示みたいなんするようになって…ほんでな、それまではちょっとの物音でもビクって起きてな、なんや…怯えてる言うんか…まあ安心できる場所じゃなかったんやろうけど…。それくらいから多少の物音やと起きんなってなぁ…。
最初は小さく丸まって寝てたんがもう大の字よ、あはは… 背ぇも伸びてただでさえ一つのベットで狭いのに…あはは…。
え?ああ…そりゃ同じベッドよ。
毎晩そういう事してそのまま寝るんやから。
…え?いやいや…ええやんか?あかん?いやあ…無理よ、俺だって男やし…。
あれやで?最初から綺麗な子ぉやったけどな、どんどん磨かれていく言うか…髪も切り揃えてええ服着せてご飯食べさして…ツヤツヤやねんで?若い子おって…そりゃ唆られますよ、それはまあ飼い主としてまあ勘弁してもろてええ?
いや、今はそういうんやないよ、俺の恋人やからね。
…まあ前に生きてた場所で随分仕込まれてたんか知らんけども…上手やねん。相手が喜ぶような事知ってるんよ。それナチュラルでするから…そりゃ俺も最初の試しの一回では終わらんって…。
いやいや、お兄さんも試してみてほしいわ!あ、汐生ではあかんよ?まあ…そういうこっちの道もぜひね。女とするんとはまた違う良さがありますから。
――
ん?寮?ああ…住んでる家の話?
そう…うちの会社…"掃除屋さん"はね、寮があるんよ。社員は必ず寮に住まんと行けんくてね…まあなんや、うちの社長が「俺たちは家族だ」なんや言うようなタイプでね…まあ悪いやつやないんやけども。ころ…あ、いやいや、掃除屋にしては、珍しいタイプやわ。
寮や言うてもなんや、ほんまに広めのただの一軒家よ。なんや洋風の…ちょっと洒落た感じ。
それぞれ一室が与えられてて、9人おるよ。汐生入れたら10人やな。…まあ汐生はペットいう程やけどな。個室がな、9部屋しかないねん。社員の入れ替わりはまああるけど…急におらんなるし、その理由は基本明かされへんから。まあ大体もうこの世におらん…みたいな事やろうけどね。たかが"掃除屋"やけどまあ、それなりに危ない仕事やねんな。気づいたら補充されて、まあ大体9人はおるね。
汐生も来たばっかりの時はずーっと俺の部屋から出やんかったみたいやけども、まあ変わり者やけど気の良い奴らばっかりやから、次第に馴染んだんか…今は寮の掃除やらなんやら手伝ってるみたいよ。
ある事があってから今はぼちぼち喋るようになったけど…昔は社員…ああ…こう言ったら社長に怒られるわ、家族、な、家族のみんなは初めて汐生が喋った時は驚いてたわ、「喋れたんですか?」
言うてな あはは…。
――
ある時なあ…汐生が来て4年くらい経った頃やろかね。
俺が仕事で大怪我してもうたんよね。
まあ"掃除屋"はほら、危ない仕事やねん…な?ほんでまあ…ああこれ死んでまうかもなあみたいな…。まあ今生きてる言うことは死なんかったんやけどね?笑
うちお抱えのお医者さんがおるんよね。まあ口が固い…その分随分ボラれるわけやけども。古〜い廃墟ビルみたいなとこでちんまりやってはるわ。…あんなにぼったくるならもっと綺麗な施設にしてくれたら嬉しいんやけども…まあ色々とあるんやろうな。
俺はそこで治療してもらって入院ってことなってなあ。
"家族"のみんなも甲斐甲斐しく見舞い来てくれて…あはは、みんな社長に連れられてって感じやったけど。まあドライやねんな。悪気はないんよ。まあでもすーぐ帰ってもうたわ笑 えらいあっさりやなあと思ったけども。
やけどもしばらくしてな…お医者さん…まあ俺らはクスノキって呼んでるんやけど…あ、本名か知らんけどな?
クスノキが病室きて「お前のペットがうろうろして邪魔や」言うて…。
汐生だけ帰らんとな、病室のまわりうろうろうろうろしてたらしくて…あはは…可愛えやろぉ?
帰らんとずっーとおったらしいわ。
そんなん部屋入って来たらええのになぁ?
いや入ってこれへんとこがかわええねんけどな…?
ほんで「おいで」言うてベッド入れてな。いつもよりもずっと狭いベットや。ぴとっとくっついてじーっと俺が息してるんを聞いてんたんかなぁ…。とにかくじーっとこっちを観察してるねんな。
俺は「大丈夫や」言うて。「心配いらんよ」って。
俺はその時なんや…まあこう言うことこれから先もあるかな、思てなぁ。もしかしたら助からん時もあるかも思うて。汐生一人で残してまうこともあるかもってな、その時に言うてんよな。
「もし俺がおらんなっても、しぃはうちのみんなもおるから大丈夫や。一人になることはないわ」「変な奴らやけどな、気のいい奴らやから」って。
そしたらじーっと黙って聞いててな。何も言わんかったけど… 一晩中ずっと離れんかったわ。
そん時は思ったな、随分懐いたなぁって笑
最初の頃を思えばほんまに…懐いたゆうかまあ…愛おしいなって…そうやな…愛おしいって思ったんよな。
愛おしいってこれのことかなってな、俺に教えてくれたんは汐生やねんな。
――
退院してまあ仕事復帰してな、しばらくは汐生はなんや…心配やったんやろうな、じーっと起きて俺が帰るん待つようなってな。「寝ててええし寝てなあかん」言うてんのに…言うこと聞かんようになってもうて。昔やったら命令しか聞かんかったのにな笑
でもまあ…そうやってな、俺を頼るゆうか…そういうんは嬉しいけどな、でもまあさっきも言ったけど…この先のことは…分からんやんか?俺も色々と考えてな…汐生がこの先生きていくのに道標…してやらなあかんかもなってすごい思ってんな。
俺は別に学がないけどな…学校なんてろくに行ってへんしな?でもまあ…ほら…俺が言うんも何やけど…学校行った方がええって言うやん?そういえば汐生は学校とか…いつから行ってへんのやろうなって…て言うか…今何歳?とか…まあそん時はしぃ、呼んでたしな、本名とか知らんかったし…そもそも戸籍とかあるんやろうか、とか…家族のこととかね、そう言うのを…調べてみようかなって。
結局、結論から言うとな、戸籍は存在しててん。
名前はそんときわかったんよね、泉汐生 、言うて …ええ名前よな?俺もすごい気に入ってるわ。綺麗な汐生にピッタリの名前やねん。
歳はその時で18、かな やから俺が拾った時で大体14とか…。せやせや、明後日は汐生の20歳の誕生日やねん。祝えるんが嬉しいなあ…。
まあそうそう…それで…母親がおるらしい言うのが分かってな。随分迷ったんやけど…汐生に言うてんよな。「お母さんに会える言うたら会いたいか?」って。
そしたらちょっと止まって…考えてたんかな、でもしばらくして首横に振ってな。…でもほんまのところ分からんからな、「ここに住んでるらしいから」言うて、住所の紙を渡したんよ。「持っとき」って。
「一人で外出て会いに行ってもええんや」言うて。そん時にほんで…言うたんよ。「ここにおりたくないって思ったらいつでも出て行ってもええねんで」って。そしたらまあ、何も言わんかったけどね…。
なんや…社長からな、ふざけてか知らんけどよう言われてたんよ。「知ってますか?誘拐犯に対して誘拐された子供が依存して好意を抱く現象があるらしいですよ」言うて。「しぃくんは"掃除"業務に関わってないですから、この家に居続けなくてもいいんですよ」言うてきて。
俺はその度に「誘拐犯扱いかよ」言うて笑ってたけど、いやまあ状況考えればまあ…そうやんか。どうしようもない状況の汐生引き連れて…そりゃ大切にはしてたつもりやけどまあ…まあ…まあ色々としてもらってもいたし…嫌…やったかもなぁとか…思ったりもな…して。
そんでまあ…それでも変わらん毎日やってな。
けどあれは…汐生の19の誕生日の日やったわ。誕生日知って初めての日や、うちの会社は誕生日はもう…ほら、"家族"やからな、盛大に祝うんよな。
家族らも何故か張り切って…準備してて…なんや汐生も…表情には出さんけどもや…嬉しそうやったわ。なんやそわそわしてな、あはは…。
けど…みんな仕事終わって夜や…。
さあパーティの始まりや、言う時にや…ガジャン!言うてもうそりゃ大きい音してなぁ。窓ガラスの割れる音や。
まあ銃弾…やな。打ち込まれて。
後から聞いた話やけど…社長もな、敵多いで。潔癖な人やから"掃除"は丁寧やけど、完璧っちゅうのはないから。恨みもよう買うてるねん。社長を狙って来たんやな、お客さんが。1人やなくて…4〜5人で来てたんかなぁ。いろんなとこから入って来てやな、かなり計画的やったと思うわ。
まあでもうちも手馴れが多いからね。
しかもこっちはパーティのために家族フルメンバー集まってたわけや。そりゃあっという間に家の"大掃除"始まってな。
けど…汐生はな、そんなんしたことないやろ?
身の振り方も分からんわけや。あっちにしてみれば恰好の餌食やわ。腹2発撃たれてな…。俺が部屋戻った時にはもう…血の海や、壁際にもたれて座り込んでてな。
俺はもう…驚いて…ゆうか…もう…動揺…って言うんかな、何したらええんかもう分からんくて…どうしていいか…社長が気付いてすぐほら…お抱えのな、クスノキに連絡入れてくれてな、しっかりせぇやなんやの…社長のが随分俺より年下やのになあ…あはは…ピシャっと言われてしもて。
必死に声かけても汐生は虚な目して…ああ…どうしようって俺もうな…血の気ひいて…ほんまに凄い量の血が出ててな…あかん…って…そん時は…思ってしもうたな。
…クスノキはなんや言うても凄腕やねん。なんや…令和のブラックジャックや言うてな…自分で言うくらいや、ほんまにそうやねんで。けどそんなクスノキも汐生のことな…血とか…撃たれた腹とか見て一言「あー死んだらごめん」とか言うんやで。俺もう…足に力入らんかったわ…。
けどまあ…ほんまにな…凄腕やねん。どれくらいか…終わったんが昼前くらいやったから…10時間はゆうに超えてたな、「ギリ生きてる」みたいなん言うて出て来て…。
それから2日…とか…ずっと起きやんくてな、仕事もほっぽらかして…まあ社長がええよ言うて…みんな仕事やってくれててな、俺は1人ずっと病室におってんけど。
やっと目ぇ開けた時は俺はもう叫んでもうて。涙もドバドバ出てな、あはは…あんなん大人なってから初めてやわ。止まらんかったわ、涙な。
汐生、俺が泣いてんの見てなんか言うねん。
でもほらあれ、酸素マスクつけてるから何言うてるか分からんから。俺必死や、取ったらあかんねやろうけどマスク取ってな、何?何!?って必死で聞いて。
そしたら汐生が言うたねんな。
「死ねなかった」って。
俺はもう…色んなこと頭よぎって…。
ほんまは俺といるんとか…俺らと暮らしてることとか…なんや…そういうのもほんまは嫌でな、逃げ出したいって思ってたんかもって…やから…助けんかった方が…そもそも…拾わんかったほうが良かったんかもしれんとか…色々な…。
ほんで言葉に詰まった挙句、それで聞いたんや。「死にたかったんか?」って。
そしたら初めてやな…汐生が小さく笑ってな、言うてん。
「先に死なれるよりはそっちがいい」って。
俺はそれ聞いて…「俺が?」って聞いたら、「うん」って。
もう俺はな、わけわからんなってな、ぶつぶつ…いや、デカい声やったわ。「あかん!順番がある!俺のが歳上やから俺から死ぬねん!」とか…なんや色々言うてな…。汐生はそれにまた笑っててな…ああ…なんや…そんな笑った顔とかな…見たことなかったし…それになぁ…初めて言葉にしてな…喋ってくれたんとか…もう色んな気持ちがブワーって込み上げて…。
まあほんで酸素マスク外してもうたからな、ほら、なんや身体の管通してる機械がピィピィなってもうて、クスノキが慌てて来て俺はもうめちゃくちゃ怒られたりしてんけど…まあまあそんなんはええねんけどな…。
――
まあそれで…色々あってんけど…。今日な、さっきまで…そう、"掃除屋"の送別会、やってんよ。殉職者はようさんおるけど退職者は初めてや、言うて…あはは。
どうしような?俺下手なことしたら社長にいつか"お掃除"されてまうかもやわ。まあ分からんけど…そこはまあ…信じるしかないんやけど。あ、ほんまにこの話はここだけの話にしといてな?
なんでか…こんな喋ってもうたん初めてやわ。
汐生のこと…俺は養っていかなあかんなあ…とかな…どうしような?俺は…"掃除"しかしてきてないし…何出来るんやろうな?コンビニのレジとか…?まあ貯金はようさんあるけど…しばらくはまあ…新しく借りたとこで贅沢はできん…ひっそり二人暮らしやわ。
汐生は先に家帰ってるわ。「送別会も来るか?」言うてんけど…「家におる」って言うてな…「ほな行かんとこかな」とか言うてんけど…なんや話すようになってからピシャッともの言うようになったんよ。「1人の時間も欲しいですけど」言うてな。あはは…。そりゃそうやな思うてな。退院してからも俺はべったりやったからな。まあ心配やけどな…まあまあ…護身はあれから叩き込んだし…俺も汐生のこと信じてな…これから離れて1人にする時間も多いし…俺も働かなあかんしね。
……ああ…でもこんな時間や。
そろそろ帰ろうかな。
話聞いてくれてありがとうね。
うん、また来るよ。凄い居心地も良かったし…お兄さんイケメンやしなあ?え?浮気ちゃうよ!俺は汐生一筋や?あはは…。
うん、うん、また汐生も連れてね。ほいならね。
1 茅島伊桜吏
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