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甘い香りは、秘密のはじまり①
「はい。これでミントの葉を飾れば、完成です! 今回のレシピもとっても簡単なので、ぜひ皆さんも作ってみてくださいね。本日もご視聴いただき、ありがとうございました!」
つい先ほど完成したばかりのレアチーズケーキをアップで映しながらいつものように締めの挨拶をして、録画終了のボタンを押した。
僕が考えた、誰でも作れる簡単なスイーツのレシピ。
それを顔出しなしで配信している動画チャンネル『PM3時の魔法使い』は誰でもスーパーで手に入れられるようなごく普通の材料しか使わないシンプルなレシピがうけて、おかげさまでチャンネル登録者の数はつい最近20万人を超えたばかりだ。
それをありがたいことだと思う反面、地味で目立たない平凡な素の自分との差を考えると、なんともいえない複雑な気分になってしまうというのが今の僕の正直な心境だ。
佐藤 |理人《りひと》=人気動画配信者でスイーツ研究家の『りとる』なのだという事実は、家族と幼なじみの太陽以外、誰にも知らせていない。
……なのに同じクラスの本物の王子様みたいにキラキラしたあの男にあんな形で僕がりとるだとバレることになるだなんて、この時の僕はほんの少しも考えてはいなかったんだ。
***
「おはよう、理人! 例のブツ、持ってきてくれた?」
昨夜作ったばかりの、フルーツとグラノーラがたっぷり入ったクッキー。
そのレシピ動画はすでに公開済みなのだが、視聴者のみんなのためにさらに作りやすいレシピをと思い、改良版を現在試作中だ。
そして大食いで大の甘党な幼なじみの太陽は、僕の新作の試食係を担当してくれている。
中が見えないように梱包した紙袋をリュックから取り出して、彼にこっそり手渡す。
すると太陽は、嬉しそうにニッと笑った。
「サンキュー、理人。あとで感想送るから!」
「こちらこそ、いつもありがとう。よろしくね」
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