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第1話 バ美肉やくざ②
世界中どこでもエロ、薬、酒は金を生む。だからこそ、どこの国でもアンダーグラウンドな組織のシノギにはこれらが利用されてきたし、国家はこれらを人々に売る行為に法で規制をかけてきた。AVの結合部や性器にモザイクをかけるのも、そうした軋轢の中で最終的に決まった妥協点だ。
「つっても……昨今のSNSじゃあ、ダダ流しだけどなぁ」
染谷はボヤく。
いかにして法に隠れてエロい画像を手に入れるか。飽くなき欲望に導かれた人間の涙ぐましい努力の切磋琢磨が、デジカメ技術にめざましい進化をもたらした。その技術はカメラという枠を超えスマートフォンに引き継がれ、誰でも気軽に、どんな画像でも世界中どこからでも大多数の目に触れさせられるようになった。やがて承認欲求が新たな市場の鉱脈となり、閲覧数が金を生むようになると、SNSには無修正のエログロ画像が簡単に垂れ流されるようになったのである。染谷がやっているような「モザイク消し」された作品を有料で買うメリットは、もはや薄れていた。
「生きにくい世の中になっちまったなあ」
イヤホンからは、まぐわう男女のあえぎ声が絶え間なく聞こえている。最初の頃こそすぐに反応してしまって困ったこともあったが、最近は飽きてしまった。大概どんな過激なシチュエーションのものでも、染谷のナニはピクリとも反応しない。エロ系のメディア職の定着が悪いのは、こうなってしまった結果、鬱に陥る人が多いせいらしい。
こんな商品は早晩廃れるだろう。
SNSの過激さに比べればワビサビが過ぎる。人は飽きてしまうのだ。細々とでもこの商品が続いているのは、「モザイクの向こう側」にあるかもしれない、さらにすごい世界への妄想を抱く世代が固定客についてくれているからだ。その世代が消えたら、たぶんなくなる。それはつまり、染谷の死活問題でもある。
染谷を管理している兄貴やその所属する事務所は、なかなかしっかりしていた。染谷がいくらを売掛金として借金し、それを組がいくらで買い取り、現在どの程度の時給労働で今月はいくら返済したかを、毎月末に明細でくれる。そのあたりを曖昧にしていると、国家権力へチクられてしまう恐れがあるからだ。
その明細に基づくと、染谷が借金を完済する頃には、一般社会で嘱託勤務を終える年齢になっている。なんなら、さらにもう数年残る。下手すれば兄貴のほうが先に逝ってしまうのではないかという年月がかかる。
もともと出不精な方ではある。だから設備の整った一室に監禁同然で飼われることに不満はない。だが、少なくとも兄貴が死ぬまでに借金を返しきらないと、たぶん染谷はラーメン屋の店長と同じ運命を辿る。その予感が、ありありとしていた。
副業が必要だ。
そう考えて動き出したのは数ヶ月前。反社の影がちらつく身分である以上、どこかの組織に所属する形はとれない。あくまでも「個人事業主」として稼がなくてはならない。その場合、個人宅配や日雇い警備員などは無理だ。部屋から自由に出られないから。
ではどうするか。
染谷はスケジュール的に十分なノルマを終わらせた後、モザイク作成ソフトを終了させた。そうしてPCの電源を切らないまま、別のソフトを立ち上げた。
画面にはケモミミ、眼鏡、巨乳の3Dアバターの女の子がたたずんでいる。染谷は耳をすっかり覆うイヤホンをつけ、コンデンサーマイクとアバター動作Webカメラをオンにした。
「みんな~こんばんわ~」
33歳の冴えないおっさん声が、少し鼻にかかったような高めのアニメ声に変換される。染谷が手を振るとアバターも手を振った。
鳥籠 ユメミ。雑談系動画配信者。
それが染谷の副業時の源氏名だった。
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