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第1話 4月

 四月。長雨が続いて気温が上がらない東京。春の華やかさには程遠い新宿三丁目の古いラブホテルは、冷たい湿気が廊下やエレベーターの隅々にまで黒い染みのように広がっていた。  少年が手を引かれて連れていかれたのはその一室。  先に少年を部屋に入れた男は、少年の背後で鍵をしっかりと閉めた。  「先に金」     ぶっきらぼうに言う少年に、男は2万円を渡す。 「約束は5万だったろ?」 「ほんとにヴァージンかわかったら残りを払うよ」  少年は、コートの内ポケットに金を入れたついでにコートを脱いで、壁のプラスティックハンガーにかけた。男が自分のコートを渡してくるからついでにかける。  そのままベッドに押し倒された。びくつく少年に、これはほんとにヴァージンかもと男は確信をもってにやついた。 「シャワーとか」 「時間がもったいないよ」 「やめろって」 「2万返してもらうよ?」  男は黙り込んだ少年に馬乗りになるとシャツの中へと両手を入れた。外の空気のまま冷たい手に、熱い肌が体をびくつかせる。  「いいねぇ」と男は舌舐ずりをして、息を荒くした。少年は男から顔を背けるが、体はこわばったままでそれがまた男をそそった。  男は興奮を抑えるようにゆっくりとシャツの上から肌を撫でシャツのボタンをはずしていく。背中を上げさせシャツを抜き取り、タンクトップ越しにまだ固くなっていない乳首をそっと左右に揺らした。性的反応ではなく急な刺激に立ち上がるそれに男は口の端から涎を垂らした。タンクトップにおちる粘った液体に少年は身をすくませる。男の被虐性を煽る反応に、男は脱がせたシャツで少年の両手を素早く頭上でまとめる。  「やめろっ。やっ」  「いやだっていっても、ここはもっと触って欲しいみたいだよ」  両の乳首をつままれ。痛みが走る。痛い、という声と表情に男は興奮を増すが、青年の上から降りて自身の服を脱いだ。黒のボクサーだけをまとって少年の腰に再びまたがった。下着越しにふくらみがわかるが、少年はおとなしく顔を背けていたため、それに気づいていなかったが、腹にその熱さと固さを押し付けられて目を見開いた。恐怖すらあらわすその表情に、男はゆっくりとタンクトップを引き上げた。  なめらかな凹凸の少ない体は普通の少年の肢体で、これから自分がやること全てが少年の初めてになるかと思うと、ぐぐぐと性器に熱がこもり下着の上から少し亀頭ががのぞいた。引き上げたタンクトップの端を少年に噛ませる。   脇毛をさらし、怯えながらも必死に自分を見上げる少年は、まだどこも荒らされていなくて早くこの処女地を暴きたい気持ちを急かされた。胸のいただきには、ふるふると震える乳首がつんと勃っていた。舌を差し出して、その先から唾液が溢れて、乳首の上にねっとりとたまる。「ひっ」と体をびくつかせて歯軋りが聞こえるほど震える少年の胸で、乳首の硬さが増していく。そのまま自身の唾液に濡れた乳首を舌先でなで、左右にくにくにと動かすと、その度に少年は全身を嫌悪感で震わせた。あぁ、いい、と男は乳首を口で覆って、じゅうと吸い上げた。  「あぁっ」  嫌悪感が混じる声に、もう片方も口に含んで甘く歯で噛む。口を離して、両手で薄い胸をもむと、乳輪がふっくらとふくらんできた。 「初めてなのに、乳首が感じるの? 淫乱だね」 「言うなっ」  少年は顔を左右に振って全身で拒絶する。そのまま、脇毛を舌先でかき混ぜるようにして、脇にすいつく。蒸れた匂いと汗の味に興奮してきて、そのままわざと音をたてて吸い上げる。少年はくすぐったさと紙一重の快感に悶える。その股間が少し兆してきたことに男は気づいた。 「ここがいいの?」  脇から肘へのラインを舐めると、少年は反対の方向に顔を寄せて男から少しでも距離をとろうと姿勢を変えた。  両方の脇を舐め上げ、そのまま頬を舐めると少年はびくっと大きく動いて体の位置が元に戻った。そのまま、頬、顎、鼻と口付けをしていき、ゆっくりと唇を重ねた。  かさついている唇。キスも初めてなのだろう。動こうとしないところに思わず、股間を少年のそれに押し付けて動か した。挿入を想像させる、腰のグラインドに少年は強張った体で受ける。  「口開けて」    しばらく逡巡して、すこしだけ開くから、舌を差し込んで口の中を蹂躙するように舐め、自身の唾液を送り込んだ。奥にひっこんだ舌をたぐりよせて、舌全体を包むように撫でると、少年は縛られたまま反射的に殴ろうと両手を下ろしてきた。それを片手で止めて、腕を掴みながら男は器用に片手で下着を脱いで少年の体にもう一度またがった。  嫌がる唇に先走りの溢れる肉茎の先をおしつけて、唇に先走りを塗りつけるように左右に動かした。蒸れた匂いに眉間に皺をよせる青年に「残りの金が欲しいなら、なんでもするんだろ?」と、脅し、亀頭を無理やりおしつけていくうちに、キスをしたとき同様少しだけ開いた口に無理やり勃った肉茎を押し込んだ。  熱い口内が気持ちいいが、我慢してゆっくりと口内を何度か出し入れした。だが、ただ口を開けるだけで舐めるなどの性技の反応がない少年の顔にまたがって、フェラチオを強要した。 「いいよ、いいよ」    嫌悪感を隠さない表情に、無理やり犯しているという気持ちが高まって、腰の動きも早くなる。  「出すよ。目を閉じて」    言われた通りに目を閉じる少年の頬や瞼などに大量に吐精した。  男は自分でも驚きながらもそれを少年の顔になすりつけるうちに、また勃ちあがっていた。  少年が顔射をされたことに茫然自失をしているうちに、うつぶせにして、ズボンと下着を一気に脱がせた。白い、運動すらしていないと感じる尻と太もも。腰を上げて自身の精器を尻の穴へと塗り込んだ。少年は腰をよじって暴れるが白い尻が振られる様子は煽られているとしか思えなかった。少年の動く腰を片手で掴み、絞られている穴のまわりを濡れた亀頭でなでまわした。強張った体に興奮が止まらない男は少年の背中へと腰を倒し、頸から背骨沿いに唇を落としていく。その都度小さな悲鳴が聞こえるから楽しくてしょうがない。男は時間はたっぷりある、と少年の腕の拘束をとき、床に下ろすとその前に大股びらきですわり、半分ほど固くなっている自身へと少年の頭を鷲掴みにして、無理やり顔を寄せた。    「きれいにして、大きくしろよ」  男の白い精液にまみれたそれはあまりにもグロテスクで、少年は怯えた表情で顔を振るが「やるんだよ」と、男は少年の後頭部を引き寄せて自身をくわえさせた。両手で小さな頭を持ち、自身のリズムで少年にフェラチオをさせる姿は視界からの刺激もあいまって、すぐに勃起した。だんだん腰を動かす回数が増えていき、少年の喉まで先端でつくように腰を強く動かす。固定した少年の頭を両手で挟んで、何度も口の中を犯して、今度は少年の口に大量の精液を吐いた。頭を抑えながら何回か扱いて、精液をすべて口の中に吐き出したところで、少年は咳き込んで全てを吐き出すついでに、床に胃の中のものを全部吐き出した。  えづく少年に、男は笑いながら「まだ何も始まってないよ」と笑いかける。  「無理、だ。金はいらねえ」 「ここでやめるなら、逆に金をもらわないとな。契約不履行でね」 「金なんてねぇ」 「だから、立ちんぼしてたんだもんね」  うつむく少年の顎を、男は足の指で無作法にあげる。逃げるすべがない少年は睨み上げるが、精液を顔に残し中途半端に脱いだ姿は色気すらあって男は生唾をのみこんだ。  「金、ほしいんでしょ?」    ニヤニヤと笑う男に少年は口元をぬぐい、「口を洗ってくる」と一度バスルームに逃げ込んだ。香りのきつい洗浄剤の匂いに吐き気がこみあげる。ひびの入った洗面台で勢いよく水を流し口をゆすぎ、服を正して部屋に戻る。男は枕元で何かをさがして背中を向けていた。少年はコートと扉の位置を確認し、コートを捨てて逃げることにした。幸い靴はまだ脱いでいなかった。ぐちゃぐちゃのシャツを掴みそのまま玄関扉へ向かう。  「自分が吐いたもの掃除しなね」    呑気に話す男にかまわず解錠して、目についた非常階段の扉を開けた。  そとは豪雨だったが、躊躇する暇はなく階段を駆け降りた。  男は全裸だったため、すぐにはおいかけてこないだろうが、口に生々しい男のペニスをくわえた感触が残っていた。思い出すだけで吐きそうになる。足がもつれて、手すりによりかかりながら駆け降りて雑踏へとまぎれこんだ。    少年は十分以上走り、どこにいるのかわからないが、もう追いかけてこないだろうと思ったところでようやく足を止めた。  たたきつけるような雨の中、靴の中までぐっしょり濡れていた。  春先の雨は冷たくて、これからどうしていいのかまったくわからなかったが、さっきの男に触れられたところが清められているようで気持ちよさも感じていた。  小さな公園の東屋の柱に隠れるように座り込んだ。  とこれからどうするか考えるだけで震える肩を抱く。髪の毛の先からもしずくがいくつも落ちていく。体温が下がっていくのが自覚できる。寒い。これからどうしたらいい? 少年は膝を抱えて項垂れることしかできなかった。 「金、欲しいか?」    さっきも聞いた言葉。ただ、低く不思議に聞きやすい声がかけられた。  のろのろと顔をあげると、外国人と思うほど彫りの深い男がいた。一目で上等だとわかるコートとスーツを身に纏った男。面識がないその男を少年は見続ける。  「金が欲しいならついてきなさい」    あまりにもタイミングが良すぎる。そして、うまい話には必ず裏がある。少年は最大の警戒をしながら言葉を投げる。   「――金は欲しいが、知らないあんたにはついていけない」 「そうだろうな。おまえが野垂れ死しようが私は構わない。ただ、チャンスを提示するだけだ」    主導権の争奪に失敗した。だが、イエスと言ってはいけないと頭の中に警報が鳴り響く。  にらみつけながら、「――話を聞いてから決めてもいいか?」と限りなくNoに近いYesを絞り出す。  「――特別に許そう」    どうやら笑ったらしい男の背後にいた男が少年にタオルを差し出す。それである程度拭き、公園の入り口に停車していたリムジンの後部に乗り込んだ。

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