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第9話 告解――Roi
二日に渡る動画講義を済ませた刹那は、アナルプラグを継続的に入れながら部屋で体を休めていた。
動画講習で酷使した視神経を含む肉体を回復する日だと聞いていたため、自室でベッドに横になっていた。
昼食時にサンドルから、「夕食後に玲がアトリエに帰ってくる」と伝えてられた。
三日会わなかっただけなのに、長期間会っていなかった気がした。
最初に話したリビングで、刹那はパソコンを前に戸惑いを見せていた。
「申し訳ないのですが、パソコンを使ったことがありません」
自然と敬語を話す刹那に「そうか」とだけ、玲は頷いた。そして、手元に置いてあったスマートフォンを刹那へと滑らせた。
「それは使えるな」
「はい」
「指紋と音声認証を登録しろ」
起動させ、指示されたことを行う。
「お前のものになる。今後の連絡はすべてそれを使う」
「はい」
「黒に王冠のアプリを起動しろ」
玲はソファの背に預け、シガーに火をつけ吸い始める。その甘い香りを深く胸に吸い込みながら、刹那はカメラや電話以外に目立つ王冠のアイコンのアプリを起動させる。
6つのメニューアイコンが現れた。
「上から説明する。羽ペンのアイコンのラポール。封蝋のアイコンのオルドル、星はエヴァリュアシオン、本がビブリオテック、彫刻の横顔がプロフィル、薄い色の鞭のサンクシオンだ。まず彫刻をタップしろ」
言われた通りにタップすると、刹那の名前に続き、一昨日の日付、顔と体の正面・横の写真が入っていた。続いて、身長など体の各サイズ。体脂肪率などが現れた。ペニスまではっきり写っている写真に刹那は目を見開く。
「おまえの個人データがそこに蓄積されていく。次に本のアイコンだ」
映画カメラのアイコンが2つ並んでいた。
「昨日と一昨日、おまえの見た動画がここに入っている。繰り返し見て完璧に習得しろ。次に、星。そこはこれからお前の評価が入っていく。星5が最高の評価だ」
そこにはまだ何もなかったが、おそらくここに今後の評価が並べられるのだろうと刹那は推測した。玲はメニュー画面に戻るよう指示をした。
「封蝋は、私やサンドル、要、柏木からの業務連絡がここに入る。仕事の依頼もここに入るので見落としをしないよう気をつけろ。最後に羽ペンだ」
刹那は言われるがままに、羽ペンのアイコンをタップした。
ラポールというフランス語の意味は、レポートを表すが刹那はまだフランス語を理解していなかった。そこは1つのボックスが表示されていた。
「行為を全てそこに記録する。手始めに、昨日の要へのマスターベーションについて記録しろ」
刹那は目を見開いて玲へと視線を移す。
「パソコンが使えなくても、スマホ入力や音声入力はできるだろう?」
「どんな行為もすべて、ですか?」
「全て、だ」
ボックスをタップすると、[2025/04/03 17:20~40 L'Atelier 要]とすでに日時・場所・相手が入力されており、自慰、拡張というチェックボックスにチェックが入っていた。
「行為の音声や動画をAIが判断し、それらの記録は自動的に行われる。そこに、お前が自分の行動を記録していく。まずは、どういうポーズをしたか?」
刹那は必死で昨夜の姿態を思い出す。口を開こうとする刹那に玲が指示をする。
「マイクボタンをタップしろ」
慌ててマイクボタンをタップして、「膝立ちでした」とスマートフォンに向かって話す。
「どういう気持ちだった?」
「新鮮さを求められていたので、恥ずかしくて、ぺ……性器を触れないけれど、授業でならった会陰をみつけて、そこを刺激しました」
「なぜ、ペニスではなく、会陰を?」
「新しい知識を披露した方が、要さんには新鮮に感じていただけると思いました」
「会陰を押して、ペニスを自分で扱いたんだろう?」
「――はい、右手で会陰をさぐり、左手で陰嚢ごと揉み込んで、勃起してきたので、竿をしごきました」
「乾いたままで擦って気持ちが良かったか?」
「要さんがじっと見ていて、くれたので、乾いていることには気づきませんでした」
「――私をみなさい」
羞恥でうつむいてスマートフォンを握る刹那は、命令の一言に顔をあげる。自分の言葉に感じてきたのか、刹那の膝は離れ、玲からシャツの奥が見えてきた。
「はしたない。膝を閉じなさい」
はっと膝を寄せる。きざしていた男根が太ももに挟まれて、びくんと体を震わせる。その刹那に構わず、玲は質問を続ける。ぎゅっと太ももを閉じることで、刹那は自分自身で刺激を与え続けることになるが、ペニスの場所をいま動かすわけにはいかなかった。
「要の反応はどうだったか?」
「――繰り返し、要さんの名前を呼ぶと、表情が柔らかくなった気がします」
「そのときも膝で立っていたか?」
「――はい、膝を大きく開いて要さんへペニスを突き出していました。まるで、……セックスをしているように、腰を激しく動かしました」
「どうやって射精した?」
「要さんに、イケと命令されました」
自分の太ももでペニスを締め付けながら、自慰行為を順序よく思い出されて、刹那は完全に感じていた。呼吸が荒くなるのを止められない。
「玲さん、俺の、を見てください」
「不要だ。やりすごせ」
いやらしい自分を見たいのではなかったのか? 刹那は絶望に体を震わせる。
「私はそれを許可しない。ラポールに戻る。最後、射精のときはどこを見ていた?」
「か、要さんを見つめながら、射精しました」
「ペニスの刺激だけでか?」
「はい――いいえ、乳首をつまみました」
「理由は?」
「その方が、要さんに感じてもらえると思いました」
玲は大きく頷き、スマートフォンで要を呼び出した。
「明後日から、:Néant(ルビ )に出てもらう。――要、今夜は刹那の両手を縛っておけ。自慰行為は禁止する」
自室でおもいきりペニスをしごこうと耐えていた刹那は、この状態で一晩過ごすことを考えて驚愕の表情を見せた。
拘束具を手にした要は、刹那を立たせてシャツを脱ぐように命令した。
のろのろとシャツを脱ぎ、刹那の動きに合わせてぶるんと揺れる勃起したものには目もくれず、刹那の両手首を革の手錠で拘束した。手錠から伸びるチェーンの端を首輪の輪へつなぎ、刹那の両手は胸の上で固定された。
「あとは頼む」と、玲は卓上のクリスタルの灰皿でシガーを捻り消して、リビングを出ていった。革靴の硬質な音が遠ざかっていく。
刹那は身体中を渦巻く性欲にさいなまれながら、要に促されるまま自室へと歩き出す。要の靴音と、自分のぺたぺたとした足音に初めて気づいた。そういえば、自分だけ裸足で歩かされている。秘書のサンドルも磨かれた革靴を履いていた、と自分の立場を思い知らされた。
要にベッドに横たわるように促された。
壁際の窪みにスマートフォンを置き、何か操作をすると刹那の正面・天井に昨日から見慣れた動画講座が現れた。
ハメ撮りのセックス映像だけが流れ始める。ナレーションも文字のスライドもなく、延々と動画だけが流れていく。男たちの荒い呼吸音、ローションと性器が擦れるねばついた音、パンパンパンと腰が打ち付けられる音、続く喘ぎ声。アナルの拡張とそれを行われるプロダクトたちの甘い嬌声。
「いかなる自慰行為もしないように」
要の命令を受けたものの、勃起したペニスからは先走りが溢れ始めている。腰を空に突き上げるもなんの摩擦もない状態で改善はなく、しかし、部屋中にセックスの気配が満ちていく。音に包まれて、刹那は何度も映像のように喘ぎながら虚しく宙に腰を突き上げた。
射精したい、という原始的な欲求を解消することで頭がいっぱいになっている。
アプリに告解することで、脳に自身の行為を反芻して刻み込んだ結果、体の反応が止められない、ということには刹那はまだ気づいていなかった。
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