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第8話 大量学習・後編

 初めてのアナルプラグは、それまでの刹那の人生で感じたことのない緊張を体に強いた。  痛みがあるわけではないが、押し広げられている感覚に慣れないということ、そして常にそこを意識を向けさせられてしまう。例えば、歯痛。激しい痛みではないが、そこに痛みがあることで何も手につかない。あの感触に似ていた。  シャツだけを羽織り、浴室から学習室へと移動するのも時間がかかった。落ちそうで落ちないプラグが気になり、尻の穴に力を入れながらゆっくりと歩く。プラグの先が腸内を刺激するだけで歩が止まる。要はそんな刹那を急かすでもなく、背後からじっと眺めていた。ようやく拘束椅子の前に到着するも、椅子に座ることがどうしてもできなかった。 「何が気になる?」 「落ちそうなことと、正直、気分が悪いです」  血の気が引いた刹那の表情に、要はなるほど、と一人ごちて再度バスルームへと戻った。  プラグを出すのかと刹那は期待したが、浴室への扉ではなく別の扉を要は開けた。    中は清々しい香りと柔らかいスチームが部屋を満たしていた。  浴室と同じタイル貼りだったが、床下暖房なのか素足でふみこんだときにやわらかい暖かさに包まれた。部屋は薄暗く壁の下から青系の照明が部屋を照らしていた。深呼吸をすると、微かに香木の香りが肺の隅々まで行き届くようだった。アトリエの個室や学習室のような無機質さと違い、刹那のこわばっていたこころは意識せず解けていった。  部屋の真ん中に、ル・コルビュジエの黒い寝椅子があった。シンプルな骨組みに優美な曲線を描くカーブに体を横たわらせると膝下が胸ほどの高さになり、まるで無重力のような心地よさを感じられる。  刹那はアナルに気を配りながら、そろそろと横になった。  椅子の背が柔らかく体全体を受け止めた。アナルに集中していた意識を解き、その心地よさに目を閉じた。   「……楽に、なりました」 「立つと重力でプラグが下がる。それが不快感の原因だ。そうやって体を水平にし、括約筋の力を抜くことを覚えなさい。異物を排除しようとするのではなく、包み込むイメージが大事だ」  刹那が体をリラックスさせる状態を確認した要は「30分後に交換する」と言い残し扉を閉じた。  静寂が訪れる。  間接照明だけの薄暗い空間で刹那は深く息を吐いた。  尻の違和感は消えないが、冷たい金属の塊が、体温で徐々に温まり内側からじっとりと馴染んでいく感覚がよくわかる。不快だが、先ほどまでの「落ちるかもしれない」という恐怖がない分、安心して体の力を抜くことができた。  疲労が押し寄せ、泥のような眠気が頭を霞ませていく。寝椅子の心地よさと、清澄な環境にリラックスし徐々に眠りへと落ちていった。    要にゆすられて目を覚ました。言われるがままに、寝椅子から床に立つ。体がリラックスしているからか、プラグの違和感が消えていた。これなら歩くのにも支障がないと思ったが、要は寝椅子の足元に刹那を膝まづかせた。寝椅子の傾斜に両肘をつかせ、刹那は前傾姿勢で腰を突き出すポーズをとっていた。  要が背後に回ったため、抜いてもらえると思った刹那は、尻の穴を意識して緩めた。  その甲斐があって、プラグはおもったよりも容易く抜かれた。  刹那が拍子抜けしている間に、ぽっかりと空いた穴が、じわじわと縮み始める。要がその様子を見ていると考え、寝椅子の座面に額をおしつけてその恥ずかしさから逃れようとした。   「え?」  要はシャワーヘッドをその中に突っ込み始めた。 「洗浄を始める」  適温だが、強い水量に腸壁が跳ね返り、反射で尻に力をいれた刹那はぐぐっとシャワーホースを飲み込んだ。 「ああっ」  膝を支点にそりかえるが、他人が調整する洗浄水の勢いは止まらず腹がだんだん重くなっていく。 「さっきみたいに、腰を振ってもいいぞ」  腸内の湯が移動するのがおもしろくて無様に腰を振っていたのを見られていたのだとカッと赤面する。言い返すこともできず、項垂れて洗浄が終わるのを待つしかなかった。  もうだめだ、という直前で、要は温水を止めた。 「たった三分だ」  要はデジタルタイマーを刹那の前に置き、排水の準備を始めていた。弛緩した尻穴にはシャワーホースが差し込まれたままだが、プラグで広げられた隙間からは堪えきれない温水がちょろちょろと漏れ出している。その内股を伝い落ちる温水に、刹那はさらにアナルを絞るように力を入れた。    三分経過したところで、要はシャワーホースをゆっくりと抜いた。  刹那はただ力を抜くだけでよかった。抜けるシャワーホースをおいかけるように、アナルから汚水が吹き出す。強制的な排泄を促されて、恥ずかしくて顔をあげることができなかったが、腰下に温水シャワーをあてて流されて、もう一度シャワー浣腸を行った。我慢する間の脂汗でシャツもじっとりと肌にすいついてきた。幸いにも、その2回で浣腸は終わり、要が下半身を洗浄する間、刹那はぐったりと寄りかかるように寝椅子に上半身を預けた。 「次はこれを入れる」  横目で見たそれは、今までいれていたものの蓋周りは太い胴回りをしていた。 「無理です」  刹那の抗議は完全に無視され、潤滑ゼリーをたっぷりとまとったそれは、ゆっくりと刹那の尻穴に捩じ込まれていった。 「あっ、ああっ……」 「息を吐け。深く吸って……吐け」  刹那の吐く息と同じ速度でそれはゆっくりと尻穴に鎮められる。先程の太さを可愛く感じるほど、括約筋が伸びているような気がした。先程のものより長いのか、なかなか入りきれない。アナルの内壁全部に圧をかけながら入ってくる。 「吐き続けろ。吸うと締まるぞ」  ミチミチと音がしそうなほど、括約筋が悲鳴を上げて、最後はぐううっと吸い込まれた。  プラグのストッパーが尻肉に食い込む。それは、これ以上中には入らないという奇妙な安心感を刹那に与えた。下腹部全体を内側から圧迫される。尻に力を入れたら入り口が切れるのでは? という恐怖すら感じた。   「いい子だ。これで1時間、馴染ませる」  絶望的な宣告だったが、不思議と体は拒絶しなかった。 最初こそ伸び切っていた括約筋も、数分もすれば諦めたように異物を包み込み始めた。 刹那は寝椅子に身を預け、目を閉じた。 尻の穴を押し広げられている感覚はある。だが、それはもはや「苦痛」ではなく、ただそこにある「状態」として脳が処理し始めていた。 これが「馴染む」ということなのだろうか。 異物を受け入れたまま微睡む自分に、刹那は薄ら寒い恐怖と、奇妙な充足感を同時に覚えた。  刹那は目を閉じて、意識をプラグとその周辺に向ける。講義動画で見た断面図を思い出す。長く感じるが、S状結腸まで届くほどではない。潤滑剤で皮膚への摩擦は最小限のはず。と安全面を必死で思い出していた。  腰から力を抜き、座面に体重を預ける。  心地よさにすっと意識が遠くなる。  しかし、1時間が経ったのか要が近づいてくる音がした。  「馴染んだか」  「――おそらくそうだと思います」    要は新しいゴム手袋を装着した。刹那は先ほどと同じように、ゆっくりとタイルに膝をついた。要はアナルの周りに潤滑ゼリーを塗ってから時間をかけてプラグを引き抜いた。  先ほどよりも大きく開いていることがわかる。 「あんっ」  弛緩しきったアナルの内側を、要の指先が撫でた刺激で刹那は甲高い声を漏らした。 「刹那。最後はこれを入れる」  刹那の嬌声を気にせず、要は新しいプラグを刹那の横に置いた。  それは今、入れたものよりさらに太く、長かった。ドロップ型がくびれを持つのに対し、それは根元まで太さが変わらない、無骨な円柱形をしていた。 「そ、そんなの無理です」 「そうだな。だから、ここからは弛緩剤を使う」 「そんなのを使わなくても時間をかければ」 「借金の額が増えるだけだ」  絶句する刹那の前で巨大ともいえるそれに潤滑ゼリーが塗られる。穏やかな部屋の中で、青い照明を乱反射するグロテスクさ。  次に要は、白濁した粘度の高いローションを手のひらにこぼした。 「筋弛緩成分を含んだ特殊なローションだ。これを塗れば、お前の意志に関係なく、穴はだらしなく開き続ける。痛みも感じない」  刹那が抵抗の言葉を出す前に、赤く充血した刹那の蕾にローションが落とされた。カッと熱くなるような感覚と共に、力が抜けていく。締めようと思っても、締まらない。そこにあるのに、自分の体ではないような奇妙な乖離感。まるで歯の麻酔をかけられた時のように、触れられている感触だけが遠くから伝わってくる。 要の指が内壁を塗り込めていくが、本来なら感じるはずの「広げられる痛み」が抜け落ちている。 粘膜がとろとろに溶かされ、ただの「開いた穴」へと変えられていく恐怖に、刹那は息を呑んだ。 「準備完了だ。……入れていく。息を吸って、ゆっくり吐け」  シリコン状のプラグが麻痺した入り口にねじ込められた。  弛緩剤と潤滑剤がアナルの抵抗を無くして、しかし、括約筋が最大限に広がり少しずつ中へと入っていく。  ――絶対に要さんは僕を傷つけない。  根拠のない確信だった。 内臓を無理やりこじ開けられ、骨盤がきしむほどの暴力を受けているのに、要の手つきだけは残酷なほど丁寧だった。 その矛盾が、刹那の脳をバグらせる。  痛みを与えているのも、この痛みから救ってくれるのもまた、この男しかいない。   「あ、あ、ああ……っ!」  声にならない喘ぎ。『いい子だ』さきほどの要の言葉が耳にリフレインする。  これを全部入れたら、また褒められるかもしれないという期待がわきあがってくる。  必死に息を吐きながら、それを体内に受け入れていく。  根元まで収まった時、刹那の腹は、異物の形がわかるほどポッコリと膨らんでいた。  「――いい子だ。体が完全に『形』を覚えるまで待機だ」  要は満足げに頷き、刹那が寝椅子に横たわるのを補助した。刹那は要に初めて寄りかかり、細身だが男らしい体に体重を預ける安心感を得た。  最初から仰向けに寝かせられる。今度は要は別室に行かず、刹那のそばで記録を取り始めた。  刹那は妙な安心感を持ち、ヘソの下あたりを鈍く押し上げるプラグの突起を、震える手で撫でた。  変化はすぐに訪れた。  まず鈍い痛みを感じ始めた。入り口こそ弛緩剤を使っているが、腸が巨大な異物を「排泄物」と誤認し、外へ押し出そうと蠕動し始めたのだ。  寝椅子で横たわっているだけなのに、腰が鉛のように重くなっていく。  鈍い痛みと重だるさで、刹那はぐったりと目を閉じた。  体の中心を貫くような圧迫感。   「ひっ……」  腸の蠕動にふとプラグが体内で動いた。   「痛みを感じるか?」 「――いえ、腰が重くて……お腹の中でプラグが暴れるのを、感じます」 「それは迷走神経反射だ。徐々に慣れていく」  刹那の額に浮かぶ脂汗を要が拭いた。優しさに刹那は思わず破顔した。  だが、その無防備な笑顔は、次の瞬間に苦痛で歪んだ。 「っ、う……要さん、気持ち悪い、です……」  刹那は膝を胸に寄せて体を丸めようとするが、ビクンと大きく痙攣した。  強烈な吐き気を感じ、反射的に腹に力を入れた瞬間、プラグが体内の奥を逃げ場なく押し潰し、内壁を削るような激痛が走ったのだ。 「あぐっ、あぁ! 痛い、です……!」  生理的な涙がすーっと溢れる。要は時計を横目で確認した。  ――経過時間は十五分。 初回にしては十分耐えただろう。  要は刹那の頬を撫で、「限界だな。プラグを抜くぞ」と声をかけた。  刹那を横向きに寝かせて、慎重にプラグを抜いていく。  吐き気や痛みなどが断続的に刹那を襲っているのがよくわかった。迷走神経の反射が原因の一つだが、短時間でこんな巨大なものを入れられる体も珍しかった。刹那は自身が考えているより、「いい体」を持っていると要は内心で感心しながらプラグを引き抜いた。  ズズズ、と体内を圧迫しながらプラグが抜けていく。  涙と鼻水で顔を汚しながらも、ひたすら腹の力を抜くことに専念していた刹那は、最後に「ゴトリ」とそれが抜け出た瞬間、自分が勃起していることに気づいた。  剥き出しのペニスは、椅子の上で透明な蜜をダラダラとこぼし続けていた。 「な、んで」  痛みしか感じなかった。吐き気がするほど苦しかった。  なのに、なんで自身は性的なものを感じていたのだ。  あんな巨大なモノで内臓を犯され、無理やり広げられたのに、体はそれを悦んでいたのか。  刹那は自分の体の浅ましさに強い絶望を覚え、ぽろりと涙をこぼした。 「学習しただろう。前立腺を長時間圧迫した結果だ。……休んでいる暇はない、戻すぞ」  要の手には、すでに先ほどまでのMサイズのプラグが握られていた。  刹那が拒絶する間もなく、まだ開ききったままの穴に、Mサイズが滑り込む。  ヌルリ。  抵抗は皆無だった。  先ほどまでの暴力的な太さに比べれば、3.5センチのプラグなど、まるで体の一部のように自然に収まってしまった。 「……ぁ」 「きつくないな」 「はい。大丈夫です」 「これから30分このままで休憩をとる。その後、動画講義に戻る」 「――承知いたしました」  刹那は要が片付けをする音を聴きながら、 体を休めた。      【第3章:受容の技術 — 姿勢と呼吸法】など、セックスにおける姿勢の機能的かつ美しい体の角度や呼吸法による筋肉のコントロール、過去の失敗例が続いた。    シャワーを浴び、新しいシャツに身を包んだ刹那はプラグを入れたまま動画講義に戻っていた。  2個目のサイズ――Mサイズに慣れて、擬似的に挿入されたままの学習となっていた。そのことが皮肉にも映像のリアリティを高めていた。    【第4章:「演技」としての反応】【4-2. 喘ぎ声のコントロール:快感、苦痛、懇願の声を、意図的に使い分ける発声訓練】ではさまざまなシチュエーションで異なるタイプの顧客に抱かれる青年たちの映像がスローモーションで、分析的に映し出される。彼らの表情、声、体の動きが、データとして画面上にテロップ表示されていく。   『第4章、『演技』としての反応。その1、顧客のタイプ別、最適な反応パターン。  あなたの反応は、あなたの感情ではありません。それは、顧客の欲望を最大限に増幅させるための、計算され尽くした[パフォーマンス]です。ここでは、代表的な2つの顧客タイプに対する、最適な反応パターンを提示します』    映像が、一組のカップルに変わった。青年が、力強い体格の男に少し乱暴に組み敷かれている。青年の表情は、恐怖と苦痛に歪んでいるように見える。刹那は一瞬だけ自身のことを思い出したが、続く説明に集中した。   『タイプA:征服者。力を誇示し、相手の抵抗を屈服させることに、最高の価値を見出すタイプです。このタイプに対しては、『苦痛と、それに抗えない快感』をテーマに、パフォーマンスを構築します。喘ぎ声は、苦痛と、それに抗えない快感が混じり合った、甲高いトーンを基本とします。   『やっ……やめて……っ、ぁ……!』 『そんな……無理、です……っ、あああっ!』    このように、言葉では拒絶しながらも、声のトーンには、隠しきれない快感の響きを混ぜてください。体は、時折、逃げるように身をよじり、シーツを固く握りしめるなどの『抵抗の演技』が効果的です。  そして、絶頂の瞬間は、あたかも理性が崩壊したかのように、長く、甲高い悲鳴を上げ、涙を流すことが推奨されます。   『……ぁあああああっ! 無理、もう、だめぇっ……!』    この、完全な屈服の演出が、このタイプの顧客を、最高の満足へと導きます」    演技とは全く思えない生々しい絶頂に見えた。映像が入れ替わり、今度は、紳士的な雰囲気の男が怯えるような表情の青年を抱きしめ優しくその体を撫でていた。   『タイプB:庇護者。相手の純粋さや、傷つきやすさを愛で、自らがそれを『開花』させることに喜びを感じるタイプです。このタイプの顧客に対しては、『戸惑いと、初めて知る快感』をテーマに、パフォーマンスを構築します。  喘ぎ声は、戸惑いと、初めて知る快感に驚くような、途切れ途切れの、幼い響きを基本とします。   『ひっ……ぁ、なに、これ……っ、ん……ぅ……』 『……変、な、感じ……です……っ、ふ、……ぅ……あ……』    自分の体に何が起きているのか、理解できない、という無垢さを演出してください。  視線は、不安げに顧客の顔を伺い、時折、恥ずかしそうに逸らす。快感に、ふるふると小さく震える体を演出してください。絶頂は、短く、しかし、堰を切ったように訪れます。   『……っ、いっちゃ、う……! あ……っ!』    自らの体の反応に驚き、そして少しだけ怯えるような表情を見せることで顧客は「自らが禁断の扉を開いた」という、深い満足感を得るでしょう。  ――以上が、基本パターンです。  あなたの仕事は、クライアントがどちらのタイプか、あるいは、その混合タイプかを最初の数分で見抜き最適なパフォーマンスを完璧に演じきることです。感情は不要です。あなたは、ただ、最高の役者であればいいのです』    刹那はプラグで栓をしている腹の奥で熱がくすぶるのを感じた。今の2つの映像で性欲が喚起されたのかと驚く。だがすぐに、それはプラグで前立腺が押しつぶされているからだと考える。  一昨日までの自分だったら気持ち悪いと思っただろう。  だが、500万円という借金返済のためにできることがあるなら全てやってやると思う気持ちがそれを打ち消した。プラグにもこうやってすぐ慣れた。大きいのは、まぁ慣れていけるだろう。  刹那は気持ちを切り替えて目の前の映像に集中した。  征服者、庇護者――いつか出会うクライアントのことを考えるが、新宿のホテルで会った男しか思いつかなかったため、自身を上から見ていることを想像する。抽送を懇願しながらくわえこんだ男根を締め上げる想像、または、怯えながら少しずつ甘える仕草で男を上目遣いで見上げる自分を想像した。しかし、ペニスが勃起することはなかった。  なるほど、これが演技をするということか、と自覚した。  感情を売り渡す必要はない。うまく演技をして、そしてセックスをして借金を返してやる。  ――シンプルで簡単なことのように思えた。  相手の望む姿を表現するただの肉体。“自分”を介在させずに、からだひとつで借金返済ができる仕事。 契約履行して、ここを出るためには無垢な演技でも淫乱な演技でもやってやる。  そう、自分の体は借金を返すまではただの肉の器だ。    最後に、実習として要に向かって自慰を行うことになった。   「要さんを、どのタイプだと思えばいいですか?」 「一通りの商品を経験し、新鮮さを求むタイプだ」    承知しました、と刹那は答えながら考える。  新鮮さを要求されるとは思わなかったが、無垢なタイプを欲するということでもないだろう。そこで「男の経験がないけれど、男に犯されたい少年」という設定にした。数日前の自分と同じ設定だが、大量の知識で武装している刹那は素早く、要の攻略方法を考える。要の性欲を刺激するのは愚の骨頂だろう。数日過ごした要は感情の起伏がなく、刹那をコントロールしようという気持ちも見えなかったが、鞭を振り下ろす瞬間に唇が緩んでいたことを思い出した。要の指導員としてのプライドと教育者としてのサディスティックなところにアプローチすることを決めた。  椅子の上で膝立ちになった刹那は、白いシャツの裾をそろそろとあげて、性器が見えそうになったところで下ろす、ということを数回繰り返した。恥ずかしさとためらいを表現するために、ぎゅっと裾を握りしめてたぐりあげた。しばらく露出した自身の性器を見下ろし、おずおずと表面を触る。指先で触っては離し、を数回繰り返しそっと、表面をなぞった。先端へ指先を動かし、亀頭を数回撫でたところで、両手でぎゅうと性器を握りしめて、天井を見上げてはぁと熱いため息をこぼした。  そこで臀部に力が入り、体内のプラグがくいっと動いた。  そうだ、これで前立腺を刺激しよう。そう思ったもののMサイズでは感じることはできなかった。  それでも反応のない性器をぎこちなくなでたり、さすったりを繰り返した。  自身でもあまり反応がないことに戸惑い、俯いてシャツの裾を握りしめると、裾でペニスは要からは見えなくなった。  もう一度、シャツの奥に両手を差し込むが、要からはシャツで何も見えない。焦ることなく自分を観察する要の前で、刹那は「ひっ……あっ」と色づいた声をあげて椅子の背へと倒れた。腰が前に押し出され、開いた足の間では、刹那の指先が陰嚢の後ろの会陰部分を押していた。   「あっここ、なんでぇ」    舌ったらずで言いながら、片手で陰嚢と竿をつかみ、もう片方で会陰を揉み込んでいく。  徐々に先端が立ち上がってきた。   「要、さん、ここ、すごい」    両足を要へと広げてみせつける。完全に勃起したペニスの先端には透明の液体の粒がわきあがり、刹那が自ら快感をえていることがはっきりとわかった。竿をしごくのではなく、学習の確認と要への報告をしながら感じている刹那の姿に、要の呼吸が荒くなった。すぐに平常心に戻るが、「かなめさん、かなめさん」と繰り返し名前を口にしながら自慰を続ける。自分の声で自分の気持ちが盛り上がっていく。これが演技かと刹那は自分の行為に没頭する。  要は、性的な行為に没入する刹那に愉悦を感じた。教育し甲斐のある素材に、玲の目利きに興奮した。    「刹那。――イケ」    刹那は許可がおりたところで、片手でペニスをしごきながら、もう片方の手で自身の乳首をつねり「あっ、あっ、いっちゃいます」と小声で叫び、要の目をまっすぐ見ながら射精した。

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