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敬い、畏れるべき方・会長が尊き愛すべき方・姫宮に直接会いたいと申したことがきっかけで、即刻スーツを買いに行った日のこと。 「どのスーツも良かったですが、ひとまず厳選した五着があれば何とかなるでしょう」 「私なんかのためにこんなに買ってくださって、その上、お手を煩わせてしまって⋯⋯」 「姫宮様のためですもの! このぐらいどうってことないですよ!」 両手に持った紙袋を持ち上げて、力強く言ってみせた。 姫宮様のためにコツコツと貯めておいて良かった〜。この日のために使えて幸せ〜。 と、噛み締めるように思いながら。 最初は、やはり自分のだからと自腹で払おうとしたのを、いえいえ! ここは私がと言った時、え、どうしてという顔を見せた。 それは当然の反応だろう。一番関係のない、むしろ自分のことで巻き込んでしまって、かえって申し訳ないと思っている相手にそうしてもらうのはどうかということだろう。 安野としては姫宮にこのことでお金を使って欲しくないというのがあった。 その思いと、胸張って行けますようにと願掛けのためにと言ってみせた。 すると 「そうでしたなら」と素直に引き下がった。 一瞬迷うような素振りを見せた彼に、半ば強引であっただろうか。いや、ここぞとばかりにしてあげたかったのだ。悔いはない。 じ〜んと幸せに浸っていた、が。 ある一点が気になっていった。 それは試着してもらい、全体を見たいからとその場で一回転してもらった時。 目線を上から下へと向けていた際、臀部に目が止まった。 およそありえない線がズボンにうっすらと浮き出ていたのだ。 にっこりとした顔のまま固まった。

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