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スピンオフ 音原美弦の受難⑦
7 わかっちゃった僕 わかった鳴
鳴はそのまま舌先で乳頭をつつきながら舐って時々吸う、を繰り返した。じんじんと胸から快感が広がる。今まで感じたことのないような甘く柔い刺激に、自然と腰が揺れる。
「なんだよ美弦、無理とか言ってたくせに腰揺れてんぞ?」
「ふ、ううう、うっ」
それはお前が乳首を舐めるからだ!と声を大にして言いたかったが、今は全くそんなことを言える余裕がない。ゆらゆらと半勃ちで揺れている自分の陰茎を意識しながらも、美弦は、
(マジでもう出ない、これ以上イッたらやばいぃぃぃ)
と内心焦りまくっていた。
鳴がぢゅっと強く吸ってから乳首を離したその隙に、自分の後ろに丸まっていた布団をぐっと引っ張って身体の全面を覆い隠した。
「も、やめて!無理だって!」
「無理じゃねえだろ、ちんこ勃ってんじゃん」
「勃ってない!‥‥半勃ち!無理だからこれ以上イッたら死んじゃうからぁ!」
なんで凌辱系BLの主人公みたいな台詞を言っているんだろうか、僕。
美弦は言ってからふっとどこか冷静になって自分を振り返り、すん、と感情がオチた。だが、鳴はそんな美弦の感情の変化にもあまり気づいていないようで布団を剥がそうとぐいぐいと引っ張ってくる。
「美弦、どけろよ」
「やだ!」
「だめなやつだなお前」
「だめでいい!」
そもそも何でこんなことになっているのか、はっきりさせておかねばならない。鳴がぐいぐい布団を引っ張ってのけようとするのに、渾身の力で抗いながら美弦は言った。
「そもそも何でこんなことするんだよ!そ、そりゃ、あの、僕もちょっとは、きもちよかったけど、こういうの本当は駄目でしょ?!」
ぴた、と鳴の動きが止まった。ぐいぐい頑張って布団を引っ張っていた美弦は急に鳴が手を離したことで勢い余り、ベッド横の壁にごん、と頭を打ってしまった。
「い、痛い‥」
布団を離して頭を抱え込んでいる美弦のその腕を、鳴が黙ってぎゅっと掴んだ。
「美弦」
「何?」
頭の痛みに耐えながら美弦は鳴の方を見た。鳴は、不機嫌とも真面目ともいえないようないわゆる真顔でじいっと美弦の目を見ている。
「お前、俺のこと好きだよな?」
「へっ?」
急に何を言い出すのかと思えば、そんな内容で美弦は間抜けな声を出した。そりゃあ昔から色々と悪戯ばかりされていて嫌な目にも散々遭わされたが、それでも男兄弟のいない美弦をよく構ってくれた従兄ではある。
「好きだけど」
「だよな」
満足そうに頷くと、鳴は美弦の顔を両手で挟んで口づけてきた。唇を合わせるだけのキスから、上下の唇を挟んで食べるようにされ、その隙に舌が挿し込まれる。奥に引っ込む美弦の舌を鳴のそれが追いかけてきて表面をぞろりとなぞる。それから上顎を擦られ、また美弦は頭がぼーっとしてくる。
(‥‥だからキスうますぎ‥キスでイク、ってのが何かわかる気がする‥ふあ、きもちい‥じゃなくて!)
鳴の胸に必死で腕を突っ張って唇から逃れる。はあはあと息をしながら鳴の顔を軽く睨んだ。
「いや好きだからってだめでしょこういうのは!鳴兄こないだまでなんかフランス人?の彼女とかいたじゃん!」
鳴はくくっと喉の奥で笑いながら、また美弦の額にちゅっとキスをした。
「なんだ妬いてんのか?‥あれはただのセフレだ。別にもう会わなくてもいいし」
いや会ってもらって構いませんし!
‥‥‥‥‥ん‥‥?
あれ‥‥?
ひょっとして、あの、ひょっとすると‥
「鳴兄‥僕のこと‥好き、なの‥?あの、恋愛的、な感じ、で‥?」
恐る恐るそう尋ねた美弦に、鳴は今まで見たことのないくらいのとびきりの笑顔を見せた。
「俺も好きだぜ、美弦。‥お前のことかわいいってずっと思ってたけど‥今日はお前のお陰で自分の気持ちがはっきりわかった。心配すんな、もうセフレとかは全部切るし、あと俺は定期的にドクターチェックも受けてるから変な病気も持ってねえから」
あああああ!
や、やっぱりそうだったああ!
まさかと思ってたけど、BL的には王道な展開キタコレ~~!
『なぜかお前のこと、昔からいつも虐めたくなってたけど‥お前のこと好きだったんだな、俺!』的な展開要らないよ~!
美弦は、一度ぎゅっと目をつぶってからゆっくり目を開けて鳴の顔を見た。今まで見たこともないような柔らかい笑顔で自分を見つめている。片手はずっと美弦の頭を愛おしそうに撫でているし、全然目を逸らそうとしない。
「え、と‥」
「安心したか?」
とろけるような笑顔でそう言う鳴に、美弦は歯切れ悪く
「う、うん‥」
と答えることしかできなかった。
鳴はたまらなく満たされた気持ちで美弦を眺めた。美弦は顔立ちはとても人目を引く、というものではないものの、愛嬌があって表情もくるくる変わってかわいらしい(と、鳴の目には見えている)。
昔から美弦のことは気に入っていたし、折に触れ美弦の家を訪ねては一緒に遊んでやったりもした。防音のしっかりしている音原家に行く口実はいつでもすぐに作れたから、訪ねる理由には困らなかった。
ただ、大学をアメリカに決めてしまってから日本に帰ることが減ってなかなか美弦に会えなくなった。今から考えると、美弦に会えないせいで自分は苛々していたのだ、とわかる。時折日本に帰国して、美弦に会えば苛々は治まったし演奏や作曲もうまくいくことが多かった。
美弦に対しての気持ちは、弟に対するようなものだとばかり思っていたが違ったのだ、と今日防音ルームで眠っている美弦を見た時わかった。
その時の衝撃は凄まじいものだった。一瞬頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。
下半身剥き出しで無防備に眠る美弦。
その横に転がっている、アナルバイブ、ローション、そして使用後とおぼしきコンドーム。
子どもだとばかり思っていた美弦が、誰かに犯されたのか、と考えた時、頭が沸騰するような怒りを覚えた。
そして、なぜそれは自分ではなかったのだ、と思った。
美弦の寝顔を見つめながら、怒りに震える自分を抑えて考えた。
ああ、自分の美弦に対する想いは恋愛感情だったのだ、とすとんと腑に落ちた。
なぜ、もっと早く気づかなかったのか、と美弦の萎えている陰茎を見つめながら悔やんだ。
しかし、よくよく美弦の状態と状況を見て考えてみると、これは美弦が自分で自分を慰めたのではないか、と思えた。
‥ということは、美弦はこのつつましやかな尻に誰かを受け入れようとして練習しているということなのか。
いや、やはりもう彼氏がいて、その為に拡張をしているのかもしれない。
許せない、と鳴は思った。
あまりの怒りに、却って頭は冷めていった。
そして目を覚ました美弦に、堪えに堪えた一言が出たのだ。
「よう、美弦。‥‥何面白いことやっちゃってんだよ」
しかし、美弦のその行為は単純に自慰行為だ、とわかった時。
鳴の心には喜びの感情が溢れ自分をどうしていいかわからなくなるほどだった。気がついた時には目の前でぎゅっと恥ずかしそうに目をつぶっている美弦の唇を舐めていた。
甘かった。
自分はこれを求めていたのだ、と思った。
その後はもう夢中になって口実を作り、美弦の身体を貪った。美弦の身体はどこを舐めても甘く、きもちよかった。そして幸せだった。
身体から堕としてやる、と鳴は決めた。だからぐずぐずになるまで何度もイカせた。快楽に喘ぐ美弦はたまらなくかわいくて、何度でも陰茎は勃ち上がれそうだった。
美弦の後孔はあれだけほぐしても少しきつかった。疑っていたわけではないが、やはり処女なのだろうと思えば胸が滾った。
自分の身体の下で快楽に喘ぐ美弦は、壮絶に艶めかしかったし、幾らでも揺さぶっていられると思った。
気を失った美弦の身体をきれいにしてやることも、全く面倒だとも思わなかった。これまで身体の関係をもった相手に、そんなことをしてやりたいと思ったことなどなかったのに。
そして思いがけず、美弦の口から鳴が日本にいないことを咎めるようなことを聞いた。
気持ちは通じ合っていたのだ。
それなのに自分が仕事を優先して日本を離れていたから、美弦は寂しさのあまり一人で自分を慰めていたのに違いない。
それがわかると美弦への愛おしさがまた何倍にも増した。
しかも美弦は、自分の前のセフレの事まで覚えていた。きっと鳴の知らないところで嫉妬して苦しんでいたんだろう。それをわかってやれなかった自分が不甲斐ない。
だが、もう自分の気持ちにもはっきりと気づくことができたし、美弦からも気持ちを告白してもらった。ちょうどこれから日本での仕事も始まるし、美弦との仲を深めるにもいい時期だ。
すべてが、自分と美弦のためにいい方向へ回っている、と思えて、鳴は満足げに美弦を腕の中に閉じ込め、そのかぐわしい香りを堪能した。
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