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スピンオフ 音原美弦の受難⑧ 最終話
8 これからの僕
(‥やっ‥‥ばいよなぁ、僕‥これなんて言えば鳴兄を傷つけずに丸く収められるんだろ‥なまじ才能あるイケメンだから、きっと鳴兄ってフラれたことないよね‥)
自分を腕の中に閉じ込めて、頭に顔をすりつけている鳴は幸せそうに見える。
こんなに機嫌のよさそうな鳴の顔を見るのは初めてだな、と美弦は思った。
(‥‥いや、でもないから!男と付き合うとかないから!そんなの考えたこともないし‥)
「美弦、俺は短くてもあと半年くらいは日本で仕事をするんだ。いつもならホテル住まいにするんだが、お前が落ち着かないなら部屋を借りてもいい。二十三区内で考えてたんだが、この家の近くで借りた方がお前に会いやすいかな」
「え」
やばい。本格的に「恋人同士」の会話になりつつある。ていうか、今後も会うことが前提の話をされてる。‥会えばまた、多分こういう‥やらしいこともするんだろうし、いや断らないと!はっきり言わないと!
「はあ」
鳴は嬉しそうに息を吐いて、美弦の頭を抱きしめた。そしてまた美弦の顔を自分に向けさせてちゅっとキスをする。
「‥この家に住まわせてもらうって手もあるが‥美弦には会えるけどセックスはしづらいよな。三日後に光美さん帰ってくるんだよな?」
「セッ‥!‥あ、うん。その四日後には父さんが帰ってくると思う‥姉ちゃんはまだわからないけど」
「‥じゃあ、やっぱ落ち着かねえから別に住んだ方がいいな‥」
裸の美弦の背中を優しく撫でながら、ぶつぶつと住む場所を考えている鳴の様子を見れば、美弦はどうしても「僕、別に恋愛的に好きなわけじゃないです」とは‥言い出せなかった。
「やっぱバケーションホテルにするか。その方が掃除のこととかも考えないで済むしな。お前の高校、A駅だろ?その近辺で探すよ」
「あ、いや、鳴兄、仕事の都合もあるだろうからそんなに僕の事を気にしなくても」
どうぞ好きなところに住んでください、と言おうとした美弦の声は、ぎゅうっと抱きしめられて再びぐええとなって途切れた。
「なんっだよ美弦!かわいいなあ‥そんな俺のことばっか気ぃ使わなくていいから!さっきも言っただろ?もっとわがまま言っていいんだぞ?だって俺たちは‥」
鳴はまた美弦の顔をじっと見つめニコッと笑ってキスをした。
「恋人同士なんだからな」
言えない‥。
未だかつて見たこともないような上機嫌の笑みを満面に浮かべている鳴に、『俺全然そんなつもりないよ』とは到底言えない‥。
美弦は考えた。
どうせ自分には、今恋人も好きな女子もいない。
鳴兄のことは普通に従兄としては好きだし、昔は色々悪戯や意地悪をされたけど、今の様子を見ればそういう事は多分もうされなさそうだ。
鳴の言いぶりからセックスはする気満々のようだがそれは‥まあ、きもちよかったからいいかもしれない。美弦は後ろで快楽を得られはしたが、自分で相手を探すなんて考えられなかった。
不誠実、かもしれないが‥とりあえずは半年、鳴の思い込みにつき合ってもいいかもしれない。また海外に行って距離もできるかもしれない。そうでなくともどうせ仕事も忙しいだろうし、自分に割ける時間はそこまでないだろう。音楽や芸能の煌びやかな人々に日々触れているのだから、そのうち目が覚めてなぜ美弦のような平凡地味男に捉われていたのか、と正気に戻るかもしれない。うんきっとそうだ。
鳴のような才能に溢れたイケメンが、自分のような平凡で何の取柄もなく地味なオタクを好きなはずがないのだから。
美弦がそんなことをつらつら考えているのを、鳴はじっと愛おしそうに眺めている。
ふと顔を上げた美弦に、また思い切り深いキスをして咥内を蹂躙してやった。「んううっ」と喘ぎながら顔を赤くする美弦がかわいい。
名残惜し気に唇を離して抱きしめてから鳴は起き上がった。
「さすがに腹減ったな。‥もう六時だ。飯食いに行こうぜ」
「‥へあ‥うん‥あ、いや」
ホームヘルパーの本田が休みの間の夕食を作り置いていたはず、と思ったがさすがに鳴の分はない。大人しく従った方がよさそうだ。
それにしても身体に力が入らない。何とか起き上がりはしたが、身体がよろよろとしてどこかに掴まっていないと起き上がった状態を維持できない感じだった。それでもベッド下に足をつき、立ち上がって着替えを出そうとしたがすぐに膝からくずおれてしまった。
「うあ」
「おっと」
がっしりとした鳴の腕が美弦の胴を抱え込んで倒れるのを防ぐ。そのまま美弦の身体をベッドに戻すと額にキスをして言った。
「まだ美弦の身体が辛そうだな‥デリバリーにするか。美弦何食べたい?」
「あ、何でも、いい」
正直身体が怠すぎて空腹なのかどうかも自分ではっきりわからない。鳴は美弦の顔を見て、自分のバッグから携帯を取り出し、何やら操作をした。
「よし、頼んだからあと一時間弱で来る。風呂に入れてやるよ、美弦」
入れてやるよ、とは‥。
(いやいや、僕にそんなスパダリ要素を発揮しなくてもいいですっ)
「お、風呂?自分で入れるよ」
「何言ってんだ、お前自分で立つのも無理そうじゃねえか」
呆れたように言うと、鳴は立ち上がったまま少しかがんで美弦の脇と膝裏に腕をかけるとひょいっと抱え上げた。
「う、わ」
そのまま危なげなくバスルームへと歩いていく。確かに自分は十七歳男子にしては小柄かもしれないが(先日比べてみたら明らかに新條に負けていて愕然とした)、それでも六十㎏近くはあるのだ。
しかし全くふらつくこともなく美弦を抱えたまま移動する鳴の顔を見ていると、何だか胸がざわざわした。
風呂場では、自分も裸になって入ってきた鳴にやわやわと全身を洗われ、ボディソープの滑りを借りて乳首を散々に弄られ、息も絶え絶えになっているところにコンディショナーを纏わせた指でまた後孔をまさぐられた。死ぬかと思った。
風呂から上がった時にちょうどデリバリーが届いた。美弦は脱衣所で息も荒くうずくまって動けないでいたが、鳴が素早く下着とパンツだけ身につけて受け取りに出た。
デリバリーは美弦が昔好きだと言ったイタリアンの店のもので、ここまでデリバリーしてくれること自体知らなかったから驚いた。ホットサンド風のパニーニとコンソメ仕立てのリゾット、デザートにムースとゼリーまで頼まれていた。
あまり食欲を感じていなかったが、食べ始めれば意外と入ってデザートのゼリーまで食べられた。食べると眠くなってきてうとうとしかかっていた美弦を、鳴はまたベッドまで運んでくれた。
「おやすみ、美弦」
そういって額にまたキスを落としてくれたところまでは覚えているが、その後すぐに美弦の意識は途切れた。
疲労からか、夢も見ずにぐっすり眠った美弦は、翌朝すっきりと目が覚めた。ただ身動きができず少し息苦しい。目を開けてみれば美弦の狭いベッドに、鳴が美弦を抱え込んだまま一緒に寝ていた。
鳴の寝顔をまじまじと見つめる。毛穴も見えないほど肌理の細かな肌にすっと通った鼻筋、太過ぎず細すぎない、綺麗な形の眉、伏せられた目のふちは長い睫毛で彩られている。少しだけ開いた唇から白い歯がのぞいていてそこだけやけに艶めかしく感じられた。
(‥‥なんで僕のことを好きなんて勘違いしちゃったのかな。こんなにイケメンなのに)
昨日の見たこともないような鳴の甘い笑顔を思い出すと、いたたまれない気持ちになる。本当なら正直に話して、鳴を正気付かせねばならないところなのだろうが、あの笑顔を曇らせる勇気は美弦にはなかった。
あまりにもじっと見つめていたせいだろうか、長い睫毛を震わせゆっくりと鳴が目を開けた。
「‥目、覚めてたのか、美弦」
「うん、おはよう。昨日鳴兄がここまで運んでくれたの?」
「ああ、お前スプーン持ったまま舟漕いでたからな」
「そか、ありがとう、ごめんね」
鳴はちゅっと美弦の額にキスをした。
(鳴兄、キス好きだなあ)
「いいんだ、美弦のためなら何でもしてやりてえから」
うっ‥わぁ、スパダリ!スパダリの台詞を素でいうやつって、いるんだぁ‥。まあ、イケメンだから許されるってやつだよなあ‥。
そんなことを思いながら鳴の顔を見ていた美弦を見て、鳴はごそごそと動いた。
「う?‥んんっ、何、鳴に、あっ」
美弦が着ていたTシャツをめくり上げ、現れた桃色の乳首をちゅうっと吸う。かっと快感が身体を奔り、下半身に熱がこもった。朝ということもあって勃起するのが早い。鳴は素早く美弦の下着をズボンごと押し下げて、陰茎を直に握った。そのままゆるゆると扱いていく。
「あっ、鳴兄、だめっ」
「だめじゃない。昨夜はお前の身体のことを考えて我慢したんだぞ。‥‥一晩休んだ、よな?美弦」
そう言いながら鳴は美弦の勃ち上がってきた乳首を軽く噛んで引っ張った。
「う、んんっ!」
鬼畜‥‥スパダリからの俺様鬼畜がいる‥!
そうは思ったが、美弦は次々に与えられる快楽に抗えない。一度知ってしまった甘い刺激は、美弦を簡単に誘惑してくる。
「あっ、あ、あ、きも、ちぃぃ‥」
じゅうじゅうと吸われながら鳴の口の中で舌先で乳首をつつかれるのがたまらなくきもちいい。胸からどんどんと快楽が全身に広がって身体中がきもちよさで蕩けていくようだ。しかも鳴の陰茎への刺激の仕方が絶妙で、決して陰茎でイかせようとする動きではなく、ただただ美弦の快楽を増していかせるような、緩い扱き方をしてきた。
「今日はまだ日曜だからな‥後でたっぷり俺のちんこ挿れてやる。でも、準備しなきゃだろ?‥後で俺も手伝ってやるからな」
「ええええ!?」
何言ってんの!?噓でしょ!?
あの、トイレの中で賢者になってしまう瞬間を鳴と過ごすと考えただけで怖気が走る。そんなことは絶対にごめん蒙りたい。
「やだやだ、そんなの人にしてもらうもんじゃないぃぃ」
「お、こら、暴れんな美弦。恥ずかしがるなよ。俺は美弦の全部が見たいんだ。‥でも今は、‥っと、」
すっかり赤く腫れあがった乳首から口を離し、鳴は美弦の身体を横向きに据えて自分は後ろから抱き込む形にした。何かぱかっと開ける音がした。‥‥ローションだ。
「えっ鳴兄だめ、今は」
「ああ、大丈夫だから、美弦、脚閉じろ」
言われたままに足を閉じた美弦の、その太腿の間に、ぬちっとぬめりを伴った熱いものが滑り込んできた。
「今は、これで抜かせてくれよ‥きもちいな、お前の脚‥すべすべだ」
後ろから抱き込まれ、耳元で囁かれる。ついでにちゅっと耳たぶを吸われてまたぞくっとした。
ローションの滑りを借りた鳴の逸物はぬちゅぬちゅと美弦の太腿の間を出入りする。大きく、硬い鳴の陰茎に会陰と陰嚢を擦られ美弦の身体にも快感がじわじわと溜まる。
何より視覚的に壮絶にエロい。美弦は自分の腹の方で、大きく赤黒い鳴の逸物が出入りしているのを見ればそれだけでぞわぞわとした。
(‥エッッッロ!)
「あ、あ、んんっ、鳴、にぃ、ああんっ」
美弦の勃起した陰茎も鳴に強く扱かれて、快楽が背中を伝って登ってく両な感覚に襲われる。ぱんぱんと鳴の腰が美弦の尻を叩く音がして、その間にぬちゅぬちゅと湿った音もする。耳からも犯されるようで、美弦は喘いだ。
「あ、あああ、だめもういくっ‥」
「く、み、つるッ‥」
びゅくびゅくっと大量の白い液が、大きな鳴の陰茎から迸った。ほぼ同時に美弦の腹にも美弦の精液がピュッと少しだけ散った。
「あ、はぁ、は、‥」
がくりと鳴の腕に頭を持たせかける。なんで朝っぱらからこんなに疲れなきゃいけないんだ‥気持ちよかったけども‥。
鳴も荒く息を吐きながらぎゅうと後ろから美弦を抱きしめ、首筋にちゅ、ちゅと吸い付いてくる。
「あ、痕残さないで‥」
「‥くそ、わかったよ」
鳴は美弦の首筋に鼻をくっつけてすう、と息を吸いこんだ。
その時。
がちゃ、と美弦の部屋のドアが開いた。
「‥‥‥へ‥?」
「よう、美弦、鳴。‥‥何楽しそうなことやってんだよ。俺聞いてないぞ?」
ドアの向こうに現れたのは、音原弾 、25歳。日本を代表する三味線奏者で鳴の兄である。
無表情でずいずいと近づいてくる弾の顔を見て、美弦は叫んだ。
「もう勘弁してぇぇ!!」
[‥‥終わったりする。]
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お付き合いありがとうございました!よかったらリアクションやご感想などいただけると嬉しいです。
新條と音原鳴が出会ったらどうなるか、とか少し妄想はしてみてます‥‥
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