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第70話 逢瀬

ヴィオとリュナの逢瀬は続いた。会う時は基本、新入りを罰と称して傷つける時。しかしそれ以外でも、リュナはヴィオのもとへ足を運んでくれた。 この世界で質素な生活を送っていて、たまらなく不安になると、暗闇に紛れ込むかのようにして地下へとやって来る。 ――――僕は主人公じゃないから。 ――――誰かの特別になんてなれたことなかった。 ――――誰にも覚えてもらえず、存在を認知されず、すぐに忘れ去られてしまう人生。そんなのはもう嫌だ。 ぽつぽつと零す呟きで、幼いヴィオは言葉を覚えていく。長い間地下で孤独だった自分とリュナには、似ているところがたくさんあった。彼もそれを分かっているのか、「傷の舐め合いだ」と言ったこともある。 もっと頻繁に、あるいは落ち込むより早くおれのところに来てくれたら、傷は浅いうちに舐められるのに。 しかしリュナは思いを溜め込む性格のようだったし、今のヴィオの体では、せいぜい撫でるのが精一杯。それも壊さないよう力加減をしながらだ。 おれも人間だったら、リュナを抱きしめられるんだろうか。抱きしめて……苦しい思いをさせることなく、彼とひとつになりたい。 その頃にはもう、与えられる食べ物で、以前のようにじっとしていなくても大丈夫になった。 外に出たい。しかしそれでは他人にバレてしまう。 おれも人間がいい。 そして堂々とリュナと一緒にいたい。 幸い、ヴィオには魔力があった。手を見つめながら念じてみる。この前食べた男の腕を思い出す。皮膚は何色で、血管はどんな風に通っていて、関節はどう動くのか。思い浮かべながら、触手に力を込める。手が人間のものに変わった。 そこから先は簡単だった。まるで予めそう設計されていたかのように、ヴィオは少年に生まれ変わった。 これでやっと会いに行ける。 でも、ここを勝手に出たらリュナは怒るかな。 名前だけ名乗ろう。そして彼の特別になれたら、正体を明かそう。 特別……好きになってくれたらいいな。

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