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【最終話】Hな配信、やめました。
湯上がりで、タオルを肩にかけた瑞樹が、真剣な顔で俺を見つめていた。
湯気の残る髪がふわっと香る。
いつもの“ドラマの瑞樹”じゃなくて、素の彼そのもの――そんな顔だった。
「ねぇ、涼太くん」
「ん?」
「もう……Hな配信、やらないでほしい」
あまりに真剣な声に、思わず笑いそうになったけど笑えなかった。
その瞳がまっすぐで、ちゃんと俺を見てたから。
「え……そういうの、やだってこと?」
「うん。俺は……涼太くんのこと、ちゃんと大事に思ってるから」
胸の奥が、じんわり熱くなる。
まっすぐすぎて、ずるいくらいに刺さる。
「涼太くんがそういう配信するの、マジで嫌なんだ」
「嫉妬?」
「……うん。嫉妬」
瑞樹が、少し照れながら笑った。
「だって、もう涼太くんは俺の恋人なのに、他の人に見せるのはやっぱり嫌だよ」
俳優らしからぬ、素直すぎる言葉。
その真っ直ぐさに、思わず吹き出しそうになった。
「……わかったよ。リョウの配信はもうやらない」
「ほんと?」
「ああ、約束」
「ふふっ、よかった。俺だけの涼太くんだ」
そう言って、にこっと笑う顔が可愛い。
「……それは、俺も同じだよ」
その言葉に、瑞樹が俯いた。
「……ありがとう」
そっと俺の肩に頭をのせてきて、そのまま唇が触れる。
柔らかくて、温かい。
けど、どこかくすぐったくて、胸が跳ねる。
「これからは、ふたりで楽しもうな」
「うん、そうだね」
瑞樹は照れくさそうに笑って、俺の耳元に顔を寄せた。
「今日も撮影だけど……頑張れる気がする」
テレビでも舞台でも見せない、俺だけの瑞樹。
こんな顔を見られるのは、世界で俺だけだと思うと、少し誇らしくなる。
「……ずっと応援してる」
「ありがとう。涼太くんがいてくれるから、俺、頑張れる」
瑞樹がふっと息を吐いて、もう一度、キスをした。
さっきよりも長くて、少し熱い。
「ねぇ、涼太くん」
「ん?」
「今日のこと、絶対忘れないでね」
「うん。俺も忘れたくない」
「じゃあ……約束」
「ああ、約束」
そう言って笑い合いながら、ふたりで布団に潜り込む。
瑞樹が嬉しそうに笑って、「おやすみ」と囁く。
そのまま腕を絡めて眠る彼の寝顔を見ながら、俺は思った。
――こうしてまた、ふたりの新しい日々が始まる。
起きたら、きっとまた瑞樹が「おはよう」って笑ってくれる。
その笑顔を見られるだけで、幸せになれる気がした。
「……好きだよ、ひゅーが」
小さく呟くと、瑞樹が寝言で「すき……」と返した。
その声に、思わず笑ってしまう。
――俺たちの恋は、今日も順調に、バカみたいに甘い。
End.
【あとがき】
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
涼太と瑞樹のちょっと不器用でドタバタなやり取りを、楽しんでいただけたなら嬉しいです。
本当に、ありがとうございました。
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