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第34話 オフカメラの恋人
顔が熱い。めちゃくちゃ熱い。
恥ずかしすぎて、瑞樹の顔が見られない。
「ごめんね、やりすぎた」
瑞樹の声も、なんだか上ずってる。
「……お前、わかってやってただろ」
「いや、最初は本当に洗ってあげようと思っただけで……」
「嘘つけ」
ジロッと睨むと、瑞樹が視線を逸らした。
「……途中から、涼太くんの反応が可愛くて、つい」
「可愛いって言うな!」
思わず叫ぶと、瑞樹がクスッと笑った。
「でも、可愛かったよ。すごく」
「……もう知らねえ」
顔を背けると、瑞樹が後ろから抱きついてきた。
「ちょ、何すんだよ!」
「ごめんって。怒らないで」
耳元で囁かれて、ゾクッと背筋が震えた。
「……離れろ」
「やだ」
でも、その声も少し震えてる気がする。
「……お前も、その、」
言葉を探していると、瑞樹が「ん?」と首を傾げた。
「ドキドキしてるとか……?」
ぼそっと呟くと、瑞樹の動きが止まった。
「……わかる?」
「わかるよ。背中に伝わってる」
瑞樹の心臓の音。俺と同じくらい、速い。
背中で感じる温もりが、心地よくて。
「……恥ずかしいな」
そう言って、瑞樹が少し身を乗り出してくる。
至近距離。目が合った瞬間、呼吸が詰まる。
やばい、近い。近すぎる。
瑞樹の瞳がキラキラしてて、ドラマで見たあの表情そのままで――いや、もっと優しくて――
「涼太くん」
俺の前髪をかき分けて、顔をのぞき込んでくる瑞樹。
指先が額に触れた瞬間、ゾクッとした。
「な、なに」
「いいことしよう」
さらっと言うな、そんなの。
思考が止まる。いや、停止した。完全に。
「……は?」
「いや、別に変な意味じゃなくて」
「変な意味しかねぇだろ!」
「……ちゃんと意味はあるけど」
「あるのかよ」
一歩引こうとしたけど、瑞樹の手が俺の腰を引き寄せた。
体が自然と近づく。
あ、やばい。目、合ったままだ。
この距離で、この目で見つめられたら――
「そんなに慌てなくていいって」
「べ、別に慌ててねぇし」
慌ててる。めっちゃ慌ててる。
心臓の音、聞こえてないかな。
「ふーん?」
瑞樹がにこっと笑って、顔を近づける。
ドラマの中のイケメン俳優じゃなくて、俺だけを見てる瑞樹の目。
「ねぇ、涼太くん」
「……なに」
「本気出していい?」
――次の瞬間、瑞樹の唇が触れた。
「……っ」
ドキン、と心臓が鳴る。
この前Hした時の、ちょっと強引なキスより、柔らかくて温かくて、甘い。
「……これも演技?」
「違うよ。本気」
瑞樹の笑顔が、近い。
もうすぐ触れそうな距離で、俺は息をのんだ。
「涼太くん、大好きだよ」
瑞樹の声が優しくて、嬉しくて、でも照れくさくて――心の準備が追いつかない。
でも逃げたくもない。っていうか、逃げたら後悔する、絶対。
「……なぁ、瑞樹」
「ん?」
「……付き合う」
小さく呟くと、瑞樹の目が見開かれた。
「本当に?」
「……うん」
「やった! ありがとう、涼太くん」
瑞樹がにっこり笑って、ぎゅっと抱きしめてくれた。
温かくて、安心する。
ドキドキしてるのに、不思議と落ち着く。
「ねえ、涼太くん」
「ん?」
「付き合うって言ってくれて、嬉しかった」
瑞樹の腕に、少し力が入る。
胸が、きゅっと締め付けられる。
「俺も……」
小さく呟くと、瑞樹が「え?」と聞き返してきた。
「俺も嬉しい。お前と、付き合えて」
ちゃんと言葉にすると、もっと恥ずかしい。
「……ありがとう」
瑞樹が、額を俺の肩に押し当てる。
「これから、いっぱい思い出作ろうね」
「ああ」
「デートもしたいし、映画も見たいし――」
「うん」
「一緒に寝たい」
耳元で囁かれた声が、くすぐったい。
ドラマでも散々キュンとさせられたのに、本人がこの距離で言ってくるなんて、心臓がもたない。
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