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第3話
「んぎゃああ!ひんぎゃああああ‼︎」
それでも赤ん坊は泣き止まない。
「なんでだよ……」
「アニキの顔が怖いんスよ」
「は、ふざけんなよ⁉︎ 俺こんなに頑張ってんのになんだよその言い草は‼︎」
「あーあ。たった一回シモの世話したぐらいでこんなに頑張ってるとか言われてもねぇ。なんか、世の中のママンたちが旦那のモンク言ってる気持ちが少しだけ分かった気がするっス」
「ぐぅっ……!」
「このガキ、お腹すいてんじゃないっスか? 誘拐してからかれこれ二時間は経つし。粉ミルク下さい」
「だからあるわけねぇだろんなもん!」
「は……?」
ヤスは信じられないものを見る目でアニキを見た。
「自分から赤ん坊を誘拐する計画しといて、粉ミルクのひとつも用意もしてないんスか? 受け渡しの日まで一体、なに食わせる気でいたんスか?」
「えっいや、だから、それは……くっそ、買えばいいんだろ、買えば!」
「あ、粉ミルクだけ買って哺乳瓶買い忘れたとか言ったら殺しますからね。あと哺乳瓶を洗う用のスポンジと、洗剤と消毒セットと、あ、おしり拭きと、サイズ80センチくらいのロンパースと下着と靴下を5、6着ずつと、ついでにガーゼハンカチとスタイと体温計も買ってきて下さい」
「ハァ⁉︎ 誰が金出すんだよ‼︎」
「え? なにかいいました?」
「いっ……いや、覚えらんねぇから、紙に書け、下さい……」
アニキはベビー用品店で粉ミルクその他もろもろを買い込んだきた。
「なんかサイズも素材もバラバラなんすけど……ま、いいっス」
「何だよ、一生懸命やったのにその言い草は」
「じゃ次回はアニキがガキ見てて下さいよ。そしたら自分、買いに行きますから」
「すまない悪かった許してくれ」
「ハァ……」
ヤスは深い溜息をついた。
「オイなんだその、全てに呆れて諦めたような溜息は!」
「やかましいんで少し黙っててもらえますか? あ、寝た。やっぱ腹減ってたんスね」
赤ん坊は哺乳瓶を咥えて一気に飲み干すと、ヤスの腕の中でスヤスヤと眠り始めた。
「マジか、すげえ……。もう一生泣くのかと思った」
「あはは、怖いこと言わないで下さいよ。ま、アニキもがんばったっスよ。初めてのわりには」
「そ、そうか? ふ、ふふん」
ふあーと気持ちよさそうにあくびする赤ん坊を眺め、束の間の癒しを得る二人だった。
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