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第4話 優っていると嬉しい
「……っえ」
「だから! 何故そう怯えた表情をするのだ! ほとりを傷つけたことなどないだろう⁉ それとも怖いセリフに変換されたか? 言ってくれ!」
首から下げたネックレス型の翻訳機を涙目で見つめている。ちょっと可愛い……。なんだか、怯えたのが馬鹿らしくなってきた。
「宇宙空間に持ってかれる想像したら怖くなったんだよ」
「もしかして、地球でしか生きていけないのか?」
「そうだよ? ミチは、違うの?」
「ああ。この通りだ」
えー。なんかズルくない? 人間は最強装備でないと宇宙空間に出られないのに。まず宇宙に行くまでが大変なのに。
でもこれでこそ、だよな。人間より優ってる宇宙人で嬉しい。
「……自分より優っているのが嬉しいのか? 人間は」
なにやら引かれた気がする。
「そういうわけじゃないけど。ロマンだよ、ロマン。円盤だけど。日本で調べてから、NASAに引き渡されるっぽい」
「誰だ?」
「簡単に言えば、宇宙の研究しているところ……だったかな?」
「施設名か。ここから遠いのか?」
地図を表示してみせてやる。
「ここが今いる場所ね」
「ふむ」
「ここがアメリカ」
「近そうだが?」
「だいたい一万キロかな」
「近いな」
こいつの円盤、もしかしてとんでもねー速度出るんじゃ……。そりゃそうだよね。ひっろい宇宙を移動してるんだし。
「素直に俺のだから返してくれって、名乗り出たらどうなると思う?」
「……取っ捕まって解剖コースか、一生幽閉コースじゃない?」
「それは困るな。幽閉するなら海の見えるところにしてほしい」
「怒れよ」
「海が見えたらだいたいは許そう」
広い宇宙を移動しすぎて心まで広くなってるのかな?
「でも……お前が酷い目にあってるのはやだよ」
人間は残酷な生き物だ。好奇心と関心から、未知には目の色を変える。ミチなどいい研究材料だ。バラされてホルマリン漬けされているミチなど考えたくもない。
人が真剣に悩んでいるのに、ミチはどうでも良さげだった。
「解剖されたところで、俺はスライムだしな」
「あ」
そうだった。
「スライムでも、解剖されたら痛いんじゃないの?」
「痛覚はない。バラバラになってもくっついたら戻る。水と同じだ」
もしかして水に親近感湧いたから見にきてる、とか?
「でも絶対騒ぎになるしなー……」
面倒ごとは避けてほしい。ミチは帰ればいいだけだが、俺は地球に残るのだ。取材とかこられても困る。
「騒ぎになるのか? 地球人は宇宙生物に慣れているのではないのか?」
幸い、日本人が相手なら返却してくれそうではある。宇宙人を連れて行かなくても、俺がその円盤作りましたって言えば、どうだろ。
「んー、分かんないな。遠隔操作で手元に戻せないの?」
「出来るが。母船に戻る必要があるな」
母船……?
「え、あの円盤で宇宙を移動してたんじゃないの?」
「あれは星に降りるときの、降下用の円盤だ。母船はデカすぎてオゾン層に大穴開けてしまうからな」
いろいろ気を遣ってくれているのね。
「それって大きいの? 母船って。大きさは? 地球よりでかい?」
「……だからなんで嬉しそうなんだ君は」
ミチが背中を撫でているのかと思えば、蛇の尾だった。猫の尾のように擦り付けてくる。ざらついていて結構気持ちいい。
「そういえばさ、なんで下半身蛇なの?」
「山に蛇が居たなと考えていたら混ざった」
カクテルかお前は。
あの山、蛇がいるのか。山だしな。
ジャージズボンを投げる。
「人間になっといてよ」
「そうか。わかった」
部屋いっぱいに円を描いていた蛇部分が消え。足の長いイケメンが爆誕した。俺のジャージでは長さが足りず、すらりとした足首が覗いている。
「くそが」
「どうした?」
泣きながらパソコンを閉じた。
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