4 / 27

第4話 優っていると嬉しい

「……っえ」 「だから! 何故そう怯えた表情をするのだ! ほとりを傷つけたことなどないだろう⁉ それとも怖いセリフに変換されたか? 言ってくれ!」  首から下げたネックレス型の翻訳機を涙目で見つめている。ちょっと可愛い……。なんだか、怯えたのが馬鹿らしくなってきた。 「宇宙空間に持ってかれる想像したら怖くなったんだよ」 「もしかして、地球でしか生きていけないのか?」 「そうだよ? ミチは、違うの?」 「ああ。この通りだ」  えー。なんかズルくない? 人間は最強装備でないと宇宙空間に出られないのに。まず宇宙に行くまでが大変なのに。  でもこれでこそ、だよな。人間より優ってる宇宙人で嬉しい。 「……自分より優っているのが嬉しいのか? 人間は」  なにやら引かれた気がする。 「そういうわけじゃないけど。ロマンだよ、ロマン。円盤だけど。日本で調べてから、NASAに引き渡されるっぽい」 「誰だ?」 「簡単に言えば、宇宙の研究しているところ……だったかな?」 「施設名か。ここから遠いのか?」  地図を表示してみせてやる。 「ここが今いる場所ね」 「ふむ」 「ここがアメリカ」 「近そうだが?」 「だいたい一万キロかな」 「近いな」  こいつの円盤、もしかしてとんでもねー速度出るんじゃ……。そりゃそうだよね。ひっろい宇宙を移動してるんだし。 「素直に俺のだから返してくれって、名乗り出たらどうなると思う?」 「……取っ捕まって解剖コースか、一生幽閉コースじゃない?」 「それは困るな。幽閉するなら海の見えるところにしてほしい」 「怒れよ」 「海が見えたらだいたいは許そう」  広い宇宙を移動しすぎて心まで広くなってるのかな? 「でも……お前が酷い目にあってるのはやだよ」  人間は残酷な生き物だ。好奇心と関心から、未知には目の色を変える。ミチなどいい研究材料だ。バラされてホルマリン漬けされているミチなど考えたくもない。  人が真剣に悩んでいるのに、ミチはどうでも良さげだった。 「解剖されたところで、俺はスライムだしな」 「あ」  そうだった。 「スライムでも、解剖されたら痛いんじゃないの?」 「痛覚はない。バラバラになってもくっついたら戻る。水と同じだ」  もしかして水に親近感湧いたから見にきてる、とか? 「でも絶対騒ぎになるしなー……」  面倒ごとは避けてほしい。ミチは帰ればいいだけだが、俺は地球に残るのだ。取材とかこられても困る。 「騒ぎになるのか? 地球人は宇宙生物に慣れているのではないのか?」  幸い、日本人が相手なら返却してくれそうではある。宇宙人を連れて行かなくても、俺がその円盤作りましたって言えば、どうだろ。 「んー、分かんないな。遠隔操作で手元に戻せないの?」 「出来るが。母船に戻る必要があるな」  母船……? 「え、あの円盤で宇宙を移動してたんじゃないの?」 「あれは星に降りるときの、降下用の円盤だ。母船はデカすぎてオゾン層に大穴開けてしまうからな」  いろいろ気を遣ってくれているのね。 「それって大きいの? 母船って。大きさは? 地球よりでかい?」 「……だからなんで嬉しそうなんだ君は」  ミチが背中を撫でているのかと思えば、蛇の尾だった。猫の尾のように擦り付けてくる。ざらついていて結構気持ちいい。 「そういえばさ、なんで下半身蛇なの?」 「山に蛇が居たなと考えていたら混ざった」  カクテルかお前は。  あの山、蛇がいるのか。山だしな。  ジャージズボンを投げる。 「人間になっといてよ」 「そうか。わかった」  部屋いっぱいに円を描いていた蛇部分が消え。足の長いイケメンが爆誕した。俺のジャージでは長さが足りず、すらりとした足首が覗いている。 「くそが」 「どうした?」  泣きながらパソコンを閉じた。

ともだちにシェアしよう!