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第3話 相手は人外生物

   怖いなんてものじゃなかった。蛇に睨まれたカエルどころか、胃の中に放り込まれた気分だ。  カチカチと歯が鳴る。 「……ミチ」 「ん?」 「殺さないで……」  涙で潤んだ眼球を必死で後ろに向けるも、ミチの顔は見えない。だいたい見てどうするのだ。彼が浮かべている表情など、参考にならないというのに。 「……」  ため息とともに、彼は腕を離してくれた。それと同時に身体の自由が戻る。転び抱えた勢いのまま玄関のドアに背をつけた。すぐ逃げ出せるように背中でドアノブを握る。  ようやく視界に入ったミチは、困惑でいっぱいという顔だった。 「まだ怖いのか? 抱きしめたら落ち着くんじゃなかったか? 俺が子どもの姿の時、たくさん抱きしめてくれたじゃないか。俺はすごく落ち着いたのに」 「……」 「何か言ってくれ、ほとり。俺たち、言葉は通じるだろう?」  ミチは不安そうに翻訳機をチェックしている。 「……俺のこと、殺さない?」  ミチはぱっと顔を上げた。 「え? なんでそんな話に? どこでそうなった? ちょっと待ってくれ。おかしいな。今まで翻訳機がバグったことないのに。変な言葉に変換して伝えてしまったか?」  翻訳機の設定でもいじっているのだろうか。何やら必死だ。 「警戒しないでくれ。ほとりに避けられると辛い。荷物も修理器具も何もかも、円盤のなかなのだ。ここに置いてくれ」  ……嘘をついている風には思えないけど。 「だって。飼うとか言ったじゃん」 「はあ。俺が守ってやる。俺の庇護を受けられるという意味だが」  分かるかそんなもん。  安堵と怒りが同時に湧き上がる。びしっと翻訳機を指差した。 「バグってんじゃないの! その翻訳機! 修理するなら円盤取り返して来いよお前‼」 「! 怒らないでくれ。今の俺は無一文なのだ。いや円盤がどこに運ばれたか知らんし!」  朝食を平らげると、パソコンで円盤の行方を捜す。ミチは興味深そうに背後から画面を覗き込んでくる。  しゅんと縮こまっていて一ミリだけ罪悪感が沸く。なんでこっちが気まずくならないといけないんだ。 「ミチって、何しに地球に来たわけ?」 「以前来たから、変わってるかなと思って近づいてみたのだ。思いっきり操作ミスって落ちたが」  ……ドジなんだな。 「念動力で不時着免れ……あー。生き物限定だっけ? ミチの力」 「見事な読解力だ。別の星の生命体に念動力の話をしたら、理解されるのに千日かかったのに。感動した」  さらっと別の星の生物とか言うなよ。俺たちは「宇宙に生物いるのかな?」段階なのに。ってこいつも宇宙人だった。 「何しに地球に来た? の返事になってないぞ」 「ん? ああ。すまない。観光だ」  か、かかっ観光? 「え? そうなの? 観光? 何を見るの?」 「この星には『水』があるだろう? 水。浜辺でぼけーっとする予定だったのだ」  宇宙人って、海を眺めに来てたのか。 「水、持って帰るの?」 「いやいらん」 「……」  見たいだけかぁ。観光に行ったらお土産とか欲しくなるものだけど、これって人間だけなのかな。  ミチがさらっと俺の髪を掬う。 「持って帰るなら、ほとりにしようかな」

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