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第6話 黒髪だったらここまで目立たなかったかな? ……いや関係ないな。

 目が据わりかけた。 「友情にヒビ入れたのはお前だろ」 「ちょっと仕事でうまくいかなくて……。八つ当たりしただけじゃん」  拗ねたように口を尖らせる。  左腕疲れてきたから退いて。  自転車に近寄りたいのに障害物は俺の肩を掴んでくる。 「おい……。友情とか言うなよ。俺ら、つ、付き合ってただろ?」 「そんな事実はない」 「ほとり。いい加減、機嫌直せって。今ならお前の料理にも掃除にもケチつけないしさ。それに俺、一人暮らし始めたんだ。うまくやれると思う」  荷物重くて腕痛いんだけど。買った食材でこいつ殴ったらだめかな。  ぱしっと、可愛斗の手を払いのけた。 「一人暮らし始めたのか。いいじゃん。応援してるよ」  死んだ魚の目で告げると、手ごたえを感じたのか可愛斗の表情が明るくなった。 「そうだろ? 一緒に暮らそうぜ!」 「馬鹿言うなって。お前は甘やかせば甘やかすほど駄目になるだろ。もうお前になにかしたいとは思わん」  いいから自転車! 荷物乗せさせてくれ。ちょっと買い過ぎた。俺にこれを持ってられる腕力体力は無い。  彼を軽く押しのける。 「退けって」 「そうだ。ほとり。俺の家見に来いよ。お前だって気になるだろ? 俺がどんな暮らししてるか」  池のオタマジャクシたちの成長より興味ないです。  右腕を掴んで引っ張られる。腕にエコバッグが食い込んでいく。  どんっ。  前を見ていなかった可愛斗が何かにぶつかった。 「いでっ! ……え?」  鼻を押さえる可愛斗が見上げると、変な声を出した。俺もあがっと口を開ける。 「ほとり。まだかかりそうか? 退屈になってきたんだが」  キラキラ煌めく水銀髪を背中に流し、絶対に日本人ではない顔面と体躯の男が突っ立っていた。ジャージで。  俺たち二十代の男が揃って見上げなければならない身長。海の底のように青い瞳。買い物に来ていたおじいちゃんズがこっちを指差して顎を外している。  存在感の化身、青年ミチだった。慌てて胸元に目を落とすと紐だけがぶら下がっている。  ――こいつ、いつの間に。  冷や汗を大量に流していると、可愛斗が噛みつく。 「何だよお前……。ほとりの知り合いか? 気安く名前呼ぶんじゃねーよ」  青い瞳が何の感情なく見下ろす。  可愛斗はたじろいだ。 (おい‼ また殺気出すなよ。気絶するぞ。俺もな‼)  手を振り払い、前に立って可愛斗を庇おうとしたがミチはにこりとほほ笑む。……これ、本当に笑ってるのかな。 「時間かかるなら、散歩しててもいいか?」  車が置いてある駐車場をひょいと指差している。だめだめだめ! まだお前がどんな生物か分かってないのに許可出せない。車にでもぶつかったらどうする。 「か、帰ろう」  ミチに抱きつくように身を寄せると、可愛斗が割って入ってきた。 「なんだよこいつ。お前、こんな外国人と付き合ってるのか?」  宇宙人です。 「付き合ってないよ。遊びに来てるだけで。し、知り合いが。そう、知り合い」  可愛斗はキッとミチを睨みつける。目は合わせるなよ。 「お前、ほとりのなんなんだよ!」 「一緒に風呂入った仲だ」  他にもっとなかったのだろうか。風呂って……入ったけども。  可愛斗がひび割れまくったコンクリートの上で両手両膝をついた。「負けた」みたいな感じを出すなお前も。 「もおおっ。行くぞ」  散歩したそうなミチを引っ張って自転車のかごに荷物を乗せた。

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