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第13話 真夜中の出来事
数日後。
星が多い夜空。
物音の一切しない部屋で、俺とミチは横になっていた。
今日も勝手に来ては騒いでいた可愛斗が帰ったので、一層静かに感じる。
「ほとり」
「……んー?」
ちゃぶ台を立て掛け、座布団を枕に、バスタオルをかけ布団にして転がっていたミチがベッドに肘をついていた。寝返りを打って目を擦る。
月明りをほのかに反射する髪が美しい。
「どうした? 眠れない?」
「俺もベッドで寝てみたい」
「んー、どうぞ……」
寝ぼけていた。ぼけぼけの頭で壁によって、ミチを手招きする。ミニのミチが入ってくる想像をしながら。
俺はミニミチを抱き締めた。
(……? なんかでかいな)
ミチの長い腕が俺を閉じ込めてくる。
「寝ぼけているのか? 無防備なんだな」
頬にかかった髪を払ってくれた。
「んん……」
「退屈だな。お前で遊んでいてもいいか?」
どうしたんだ? 明日服を買いに行くんだから。もう寝なよ……
俺は言葉の意味を深く考えられなかった。
「眠れないなら、パソコン見てても、いいよ」
「そうか」
俺はここで記憶がない。眠ってしまったようだ。ミチは三十分ほどベッドで転がったのち、朝まで動画を見ていた。翌朝ミチが「ここに行きたい」と見せてくれたのだが画面は真っ暗。
……充電の仕方を教えておくんだった。
コンセントに差し込み、俺たちも充電(朝食)を摂る。俺たちと言うか、俺だけ。
「ミチも食べれたらいいのに」
夜の間ずっと使っていて気に入ったのか懐いた(?)のか、パソコンに化けているミチ。充電中のパソコンの横で大人しくしている。面白いから写真撮ってもいいかな。
「食べることは可能だが、味覚に合わない物が多くてな。固形物は嫌だし」
喋るパソコン。
「あー。了解」
どこから言葉を発しているのかは謎だが、きっと翻訳機さんが頑張っているのだろう。
「その翻訳機って、俺も使えたりしないの? 英語苦手なんだよね……」
「そうだな。人間の頭脳なら、ちょいと脳みそをいじくれば使えるようになると思う。俺の予備でよければ、使えるようにしようか?」
「絶対いらない」
「急な心変わりについていけん」
朝食と充電を終えると、ミチが見せてくれた動画には観光地が映っていた。砂浜が青いことで有名な青すぎる海。青というよりかは黒に近い砂粒だが、芸能人などがよく訪れ、テレビに映る機会も多い。俺も行ったことがある。
「なつかし~」
「なんだ。行ったことあるのか?」
ミチの声が弾む。人の姿に戻り、俺の腕を掴んできた。近いんだって。
「子どもの時だから、あんまり覚えてないけど。海鮮カレーがうまかったかな。一口サイズの、こんがり焼かれたイカが入っててさ」
くすりと笑われる。
「食べ物の記憶か」
「うるさいな……。泳げなかったから、ずっと砂浜で遊んでたんだよ」
「泳げないのか? 教えてやろう。浮ける様にはなると思う」
「……」
海でイケメンに泳ぎを教えてもらうのか。俺の心壊れないかな……
「どうした? 水は苦手か?」
「ん~。お願いします」
「任せろ。溺れたら目を閉じてじっとしていろ。そのうち引きあげてやる」
「ミチは泳げるの?」
すっかりパソコンの操作を覚えたようで、浮き輪やバナナボートなど海を楽しむグッズを眺めている。
「イクチオサウルスと泳いだこともある。あれは楽しかった。噛みつかれたけど楽しかった」
捕食されてないかそれ。古代の海を宇宙生物が泳いでいたとは。
「一応言っとくけど、俺が溺れたらそのうちじゃなくて、すぐ引きあげてくれ。俺たちは油断してるとすぐ死ぬんだ」
ミチが「え?」みたいな顔を向けてくる。
「しょ、承知した」
「一分も呼吸止めてられないから。あれだけど、素早く頼む」
「い、いっ、いっぷ……。そうか。言っておいてくれて良かった。十分くらい平気だろと思ってたから」
良かった~。言っておいて。
「ミチは浮き輪使いたいの?」
「ほとりを乗せてやりたい。浮き輪にほとりを乗せて、俺が泳いで引っ張ってやる」
「え? いいの? 嬉しいんだけど」
「ほとりには世話になってるからな」
「俺、何もしてないぞ?」
ミチは飯も食わない眠りもしない。我が儘も言わない。一緒に暮らしているのに驚くほど静かだ。俺が世話を焼く場面などほぼないのに。
「家に入れてくれているだろ。お前は大したことないように思っているようだが、これは助かるんだ。俺からすればな」
「大袈裟だな……」
「大切な家に、入れてくれたほとりに感謝している。しかもお前は、俺を利用したり俺の正体を言いふらしたりもしない。居心地良いよ。ほとりの横は」
「あ、あっそ。褒めても何も出ないぞ」
「褒めてない。俺の感想だ」
もうやめてください。褒められ慣れてないんです。俺本当に、何もしてないのに。いいから浮き輪眺めてろ。
「俺の水着も必要なんだろう? お金は大丈夫か?」
「バイトで貯めた、使ってない金があるから気にすんなー」
俺も浮き輪類を眺める。青年ミチも使うだろうし。大きめの浮き輪がいいかな。
「金になりそうなもの取ってきてやろうか?」
「ん? 例えば?」
「月の石とか。火星の土とか」
「あ、大丈夫です」
「メンダコサイズの、宇宙生物とか」
「結構です」
「……? こ、小型船とか、どうだ? 空も飛べるし海の底にもいけるぞ?」
「いりません」
「…………力になれなくてすまない」
「気持ちだけもらっとくよ。ありがとう」
地球外生命体とか未来船とか管理できる気がしない。
「そろそろ出発するか。電車の時間だし」
「水着は?」
「レンタル店があるから」
「楽しみだ」
俺は改めてミチの横顔を見つめる。ファンタジー世界の王子様のようだ。……騒ぎにならない、よな?
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