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第14話 イケメンを電車に乗せると……?
電車に乗ると四方から視線が突き刺さった。知ってた。
アロハシャツとズボン姿のミチ。銀の髪は三つに編んだ(俺が)。鎖骨が覗くほど開いた襟元に、使うつもりのないサングラスを引っ掻けている。マネキンがやっているのを見て、ミチが真似したがったのだ。サングラスは顔に付けてほしいけどな。光の加減で星が浮かんでいるように見える青い目だけでも隠してくれんか。
腕を組んで壁にもたれ、景色を眺めているのは楽しそうでいい。が、こいつ、靴を履いてくれないんだよな……。色々となんでだよ。
俺はこそっと声をかける。
「サングラス、かけないの?」
「邪魔だ」
電車同士がすれ違い、大きな音が響く。
「……」
「お、おい? ほとりに言ったんじゃないからな? サングラスの話だっただろ?」
俺の顔を見て取り乱す。ごめん。美人に真顔で言われると迫力があって。つい固まってしまった。
「お、うん。分かってるよ。大丈夫」
「繊細なのだな。気を付けよう」
「う、ぐ。それより荷物さ、棚の上に置かない?」
外に出た途端、荷物をすべて取り上げられた。俺は快適だがミチは結構な大荷物だ。俺が自転車で駅まで行く中、ミチは走ってついてきた。知らない人が見たらいじめだと思われそうな光景だったが、ミチは頑なに荷物を手放さない。
「一個くらい貸してよ。鞄」
「エコバッグ持っただけで腕を赤くしていた奴が何を言う。俺に任せればいい」
「……」
ばっちり見てんじゃねぇよ……。なんか恥ずかしい。ミチが荷物を持っててくれたのは、俺の為だったのか。
俺も壁にもたれると、照れ臭さを誤魔化すように茶化す。
「彼氏ムーブしちゃって。ミチって、同族からモテるんじゃないの?」
ミチは嘆息した。
「だから、俺が優しいのはほとりにだけだ」
「お……れだけって。同族に、優しくしないの?」
「お前のようなお人好しではないのでな」
なんだよそれ。
でも、この鏡みたいなやつが優しくしないということは、ミチの同族は優しくない、のだろうか。聞きたかったが、注目率百の中であまり外星の話をするのはやめておこう。
乗客たちは暇を潰すためのスマホや文庫本を持ちながらも、視線はミチに固定されている。すこぶる落ち着かない。
「ミチ」
「ん」
「みんな見てるけど、喧嘩売ってるんじゃないからな? 殺気出さないでよ?」
ミチは夢から覚めたような顔をすると、ふいと周囲を見回す。乗客たちは慌てて目を逸らした。
「え……。ああ、見られているな」
気づいてなかったのかよ‼
ぺしっと腕を叩く。
「気づけよ。どんだけ電車に夢中だったんだよ」
「違う。お前のことを考えていた」
「……」
頭痛くなってきた。
いい加減にしてほしい。俺が女性だったら勘違いしている。
「なんで?」
「もし何かあればお前を守ってやる。集中してた」
「SPかよ。いいって。ここはまあまあ平和な国だぞ?」
「事故や事件が全くないと?」
「そ、それは」
ええい。鎮まれ心臓。さっきからドキドキうるさいぞ。こいつはあれだ。俺の家という拠点を失いたくないだけで……
眉間を揉んでいると、俺の手の甲にミチの手の甲を合わせてくる。
「ん?」
「なんか勘違いしてるようだから言っておこう。やましい意味も下心もない。見下しているわけでもない。お前を友として、守ると言っているんだ」
触れ合った手の甲からミチの感情が伝わる。嘘は、ひとつもなかった。
「……」
ぐっと下唇を噛む。なんだか、自分が恥ずかしい。
「友達だと、思ってくれてるんだ……」
「不満か? 友がぴったりな言葉だと思ったんだ。ちょっと待て。気に入らないなら他の言葉を探す」
アロハシャツの下から翻訳機を引っ張り出そうとしているミチの手に、今度は自分の手の甲を重ねた。
「ほとり?」
「う、嬉しいよ。友達って言ってくれて。俺も、ミチを友達だと思う……思うことにする」
「……そうか」
ミチは目を細め、ニッと笑ってくれた。イケメンの笑顔にやられた人が数人、ばたばたと倒れていたけど。
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