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第15話 小学生のころかな

 電車を乗り継ぎ、昼前には砂浜の駅に到着した。  夏休み真っ只中ということもあり、信じられない混み具合だ。人混みになれていない俺はもう疲れている。 「……」 「飲み物でも買ってこようか?」 「いい……。回復するから五分待って」  駅のベンチで項垂れ中。荷物の多いミチは座らずに、俺の横で突っ立って目だけで自販機を探す。田舎から遠ざかるたびに電車内に人の数が増えていき、最終的には窒息するかと思った。白目剥いている俺を気の毒に思ったのか、ミチが壁になってスペースを少しだけ確保してくれていた。惚れてやろうか。  ――パシャ。 「……はぁ」  顔を上げる。  まただ。  電車内でもこの音がした。絶世のイケメンに向けられるレンズ。まだ白目を剥く前だった俺は注意しに行こうとしたが、ミチに腕を掴まれる。 『いい。放っておけ』 『でも、気分悪いだろ?』 『気にするな。地球を去る前に俺が映っているデータは削除しておく』  周囲に聞かれては不味いセリフなので、俺の耳に唇を近づけて言ってくれた。それは嬉しいのだが黄色い悲鳴が上がってしまい、別の車両へ逃げる羽目になるなど、色々大変だった。  それはそれとしてデータを消せるという宇宙人っぽい、「優っている台詞」にまた感動する。 「ふう。落ち着いてきた」 「辛かったら言え。帰るから」  実にさらっと言う。 「ええっ⁉ せっかく来たのに?」 「命より優先するものがあるのか? 教えてくれ。興味がある」 「…………無いです」  思わず「ミチって性別とかあるの?」と訊いてしまいそうだった。 「データ削除になにか、機械とか使うの?」 「腕しそうだな。母船に識別センサーとデータ改善の……」  教えてくれたがあまり理解できなかった。でも嬉しい。 「はぁ~。ロマンだよなぁ」 「好きなんだな。ロマン。ずっと言ってるじゃないか」 「ロマンと言うか……まあ」  俺が「優っている宇宙人」好きになったのは小学生の時。  宇宙人が光の剣で戦う映画を動画で見てからというもの、すっかりはまってしまったんだ。宇宙船や宇宙人などは当然として。UFO特集など欠かさず見ている。ライトなセイバーとかもう大好きだ。  ……中学生の頃、UFOの話をしてからかわれて以来、人前で口にしたことはないけれど。 「こっからもうちょい歩くけど。ミチは元気?」 「逆立ちで走ってやろう。そこで見ていろ」 「やめて下さい」  荷物を下ろそうとするスライムの腕を掴む。ただでさえ人目を集めるんだから、奇行は控えてくれ。  腰を上げる。 「……じゃ、行くか。待たせて悪かったな」 「下らん事でいちいち謝るな。対等と、言っただろう?」  俺が惚れたら責任取ってくれるんだろうか。  改札を出て人の流れに従う。これほとんどが海に行く人だな。 「はぐれそうだな」 「はぐれてもミチは見失わないよ」  長身の銀髪がまあ目立つ。すれ違う人が二度見していく。芸術的なまでに全員同じ動きだ。 「俺は見つけられる気がせん。掴まっていろ」  すっと腕を出してくる。危うくカップルのように腕を組みかけた。 「オッケー」  アロハシャツの背中を握りしめておく。 「……腕を掴めという意味だったんだ」 「……ソウダッタノカー。でも俺はここ掴んどく」 「了解した」  テニスコートが何面分もありそうな駐車場を突っ切ると、地面が砂に変わっていく。  ミチが口を不満そうに歪めた。 「なんだ、黒い砂じゃないか」 「言うな言うな。『青い』砂浜で売ってるんだから」  珍しいし、黒い砂浜でもいいとは、俺も思うけどさ。  潮風が全身を叩く。前髪を押さえ、俺は片目を閉じた。  海だ。

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