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第16話 彼氏かよ
「わあー。多い」
人が。
素直に海の広さに感動できない。
ミチはそわそわと身体を揺らした。
「走って海に突っ込んできていいか?」
「奇行は控えろってば。海に入りたい気持ちはわかるよ。はいはい。レンタル行きましょ」
ミチを引っ張っていく。
水着のレンタル店。混雑しているため、一つの試着室にミチと一緒に押し込まれた。あんまりだ。
「ミチ。お願いがあるんだけど」
「ん?」
「パーカーを着てください」
水着に着替え終えると、長袖のパーカーを差し出す。
服を脱いだミチの身体は眩しかった。腹筋が割れていて胸筋も発達しているため身体の「厚み」を感じる。肌の色は俺と全く同じ。日に焼けていない。
「なぜ?」
「頼む。ミチが海パン一枚で歩いていたら死人が出る」
「なんでだ⁉」
深々と頭を下げるとミチはパーカーを受け取ってくれた。しぶしぶと袖を通す。
「地球人はよう分からん」
「観光地に救急車きたら大変じゃん?」
「だからなんでだ。では、お前はシャツを着ろよ」
「え? うん」
あまり焼けたくないし。
浮き輪とパラソルも選び、レンタル料を払ってから店を出る。
「かなりの出費じゃないか?」
ミチが気遣うような表情を見せた。
「あんまり言いたくないけど、趣味も遊びに行く友人もいないから、貯金だけはあるんだ。家賃も払わなくていいしさ」
「あの家は、お前の家では?」
「母さんのお姉さんの家だよ」
人が住まないと家は痛んでいく。
たまに差し入れ持っていくから住まない? と言われたのだ。一人暮らししたかった俺は二つ返事で飛びついた。
「一人暮らしをしたかったのか?」
「家族と……ああ、いや。えっと、その。聞かないでくれると、嬉しい」
「そうか。無理には聞かない。でも、悩みがあるなら相談しろ」
「……ありがと」
でも言われっぱなしは悔しいので。
「ミチも、何かあれば俺に相談してよ?」
「ではさっそく聞くが、このパラソルはどうやって使うんだ?」
浮き輪もパラソルも全部持ってくれています。
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