23 / 27

第23話 夜中、パソコン画面を見ながら真剣にレシピをメモっていた

〈ほとり視点〉 「……ええ?」  起きると、ちゃぶ台に朝食が用意されていた。俺の好きな卵焼きにウインナー。味噌汁と白米。味噌汁はワカメと豆腐が浮いていて、湯気が立っている。  どこから発掘したのか。俺も無くしたと思っていたエプロンを装着したミチが、お茶を淹れてくれていた。 「おはよう。ほとり」 「お、おはよう……? ミチ。どうしたんだ? お腹空いたの?」  似合ってるな、エプロン。 「ほとりの分。暇だったからつい。良ければ食べてくれんか?」  ちゃぶ台に湯呑を置く。……気のせいかもしれないが、なんだか部屋がきれいになっている気がする。主に床。  起きたら飯が出来上がっている。 「神か? 宇宙人やめて、神になったのか?」 「……そんなに嬉しいものか? ほら。顔洗ってこい」  タオルを投げられたので洗面所へ。昨日ほったらかしにしておいた荷物は片付けられていた。洗濯物も……あれ? 洗濯物は? 「ミチ。洗濯物は? どこ行ったか知らない?」  歯ブラシを銜えながら部屋に戻ると、エプロンのままミチはテレビの前で超だらけていた。仕事がひと段落したような感じで。 「洗濯機を回して、外に干しているぞ」  ひょいと外を指差され、窓から覗くといつもの場所で、昨日の服がはためいていた。 「……」  よろよろと歩いてミチの横に行くと、正座してからミチに向かって手を合わせた。 「ありがとう……。この恩は忘れない」 「どんだけだよ。暇だっただけなんだ。夜中」  歯を磨いて顔を洗い、朝食をいただく。  座布団の上に座ると、ミチが四つん這いで寄ってくる。可愛い動作に、頬が緩む。 「どうした?」 「味には自身が無いんだ。悪かったら言ってくれ。俺が責任もって食べる」 「そんな必死にならなくても。飯作ってくれただけで嬉しすぎるし……」  日本の調味料は、よほどやらかさない限り美味しくしてくれるって。  味噌汁を一口。  あーーー。うまい。出汁の味がさわやかに舌に残る。米が欲しくなる味だ。  ぐすっと鼻をすする。 「嫁に来てほしい」 「お前……。手際よくやっていたように見えたが、もしかしてとんでもなくめんどくさかったのか?」  ミチが背中をぽんと叩いてくれる。 「めんどいめんどくさくない関係ないんだよ。人間は。俺は、家事してくれた人の好感度が爆発するだけで」 「そ、そうか」  少し焦げたウインナーがパリパリで、食感が楽しい。卵焼きは恐ろしいほどとろけ、ほんのりと甘い。 「美味しすぎる」  肘をついてテレビを見ていたミチが顔を向けてくる。 「良かった。パソコンで卵焼きの作り方を調べて、それを見ながらやってみたんだ。卵焼きが甘いのは、その。砂糖と塩をだな……」  目を泳がせ、左右の指先を突き合っている。  こんなところでもドジっ子を発動していてほほ笑ましい。 「問題ないよ。ありがとう」  自分でもいいと思う笑顔を向けると、ミチは目を見開いた。さっと顔を背ける。 「……どういたしまして」  ミチの形の良い耳が赤い。  え、やめてよ。  こっちまでつられるし…… 「「……」」  気まずくなった部屋で、テレビの音だけが響く。

ともだちにシェアしよう!