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第23話 夜中、パソコン画面を見ながら真剣にレシピをメモっていた
〈ほとり視点〉
「……ええ?」
起きると、ちゃぶ台に朝食が用意されていた。俺の好きな卵焼きにウインナー。味噌汁と白米。味噌汁はワカメと豆腐が浮いていて、湯気が立っている。
どこから発掘したのか。俺も無くしたと思っていたエプロンを装着したミチが、お茶を淹れてくれていた。
「おはよう。ほとり」
「お、おはよう……? ミチ。どうしたんだ? お腹空いたの?」
似合ってるな、エプロン。
「ほとりの分。暇だったからつい。良ければ食べてくれんか?」
ちゃぶ台に湯呑を置く。……気のせいかもしれないが、なんだか部屋がきれいになっている気がする。主に床。
起きたら飯が出来上がっている。
「神か? 宇宙人やめて、神になったのか?」
「……そんなに嬉しいものか? ほら。顔洗ってこい」
タオルを投げられたので洗面所へ。昨日ほったらかしにしておいた荷物は片付けられていた。洗濯物も……あれ? 洗濯物は?
「ミチ。洗濯物は? どこ行ったか知らない?」
歯ブラシを銜えながら部屋に戻ると、エプロンのままミチはテレビの前で超だらけていた。仕事がひと段落したような感じで。
「洗濯機を回して、外に干しているぞ」
ひょいと外を指差され、窓から覗くといつもの場所で、昨日の服がはためいていた。
「……」
よろよろと歩いてミチの横に行くと、正座してからミチに向かって手を合わせた。
「ありがとう……。この恩は忘れない」
「どんだけだよ。暇だっただけなんだ。夜中」
歯を磨いて顔を洗い、朝食をいただく。
座布団の上に座ると、ミチが四つん這いで寄ってくる。可愛い動作に、頬が緩む。
「どうした?」
「味には自身が無いんだ。悪かったら言ってくれ。俺が責任もって食べる」
「そんな必死にならなくても。飯作ってくれただけで嬉しすぎるし……」
日本の調味料は、よほどやらかさない限り美味しくしてくれるって。
味噌汁を一口。
あーーー。うまい。出汁の味がさわやかに舌に残る。米が欲しくなる味だ。
ぐすっと鼻をすする。
「嫁に来てほしい」
「お前……。手際よくやっていたように見えたが、もしかしてとんでもなくめんどくさかったのか?」
ミチが背中をぽんと叩いてくれる。
「めんどいめんどくさくない関係ないんだよ。人間は。俺は、家事してくれた人の好感度が爆発するだけで」
「そ、そうか」
少し焦げたウインナーがパリパリで、食感が楽しい。卵焼きは恐ろしいほどとろけ、ほんのりと甘い。
「美味しすぎる」
肘をついてテレビを見ていたミチが顔を向けてくる。
「良かった。パソコンで卵焼きの作り方を調べて、それを見ながらやってみたんだ。卵焼きが甘いのは、その。砂糖と塩をだな……」
目を泳がせ、左右の指先を突き合っている。
こんなところでもドジっ子を発動していてほほ笑ましい。
「問題ないよ。ありがとう」
自分でもいいと思う笑顔を向けると、ミチは目を見開いた。さっと顔を背ける。
「……どういたしまして」
ミチの形の良い耳が赤い。
え、やめてよ。
こっちまでつられるし……
「「……」」
気まずくなった部屋で、テレビの音だけが響く。
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