40 / 64
夏の一幕 ピーマン
そっぽを向いてしまった。俺に抱きついたまま。
「ほとり。クラゲ太郎。一通り焼けたもの持ってきたぞ」
「あ、サンキュー。ミチ」
「クラゲ太郎って誰だよ⁉ 俺かアァン⁉」
紙皿と割り箸を受け取って、可愛斗を引っ付けたまま地面で食べる。ミチが草刈りをしてくれているおかげで、芝生のようで座りやすい。
俺が木陰で食べているせいか、ミチも地面に尻を下ろす。
せっかく倉庫から出したキャンプテーブルと椅子が暇そうに日光浴している。
可愛斗が俺の皿にピーマンを乗せた。
「ピーマンあげる」
「まだピーマン食べられないのか?」
「うるせぇな! 誰だよバーベキューでピーマン焼いたやつ!」
ミチが無言で挙手している。
「バーベキューは肉オンリーが正義だろ」
「野菜食べないと腹出てくるぞ。お前、またぽっちゃりに戻るぞ」
「その時はほら、またほとりがダイエット料理を作ってくれればいいだけだろ?」
満面の笑みの皿によく焼けた玉ねぎを置いてやる。
「なんで⁉」
「ピーマン食ってやるから、玉ねぎ食べなさい」
「うう……」
可愛斗が縋るようにミチを見る。
だが相手はミチだ。
「なんだ? 玉ねぎ欲しいのか?」
見事に勘違いして可愛斗の皿に玉ねぎを重ねた。
「……」
撃沈した可愛斗を不思議そうに見ている。
「可愛斗はどうしたんだ? あんなに喜ぶなんて」
「んふっ。しかし八月頭でここまで暑いとはね。ミチはプールとか、行きたい? 室内のプールだけど」
ミチが麦わら帽子を俺の頭に被せる。
「プールか。塩水の方が好ましいが、一度行ってみたいな」
ミチの頭に帽子を返す。
「ありがと。じゃ、また予定組むか」
「え、帽子いらなかったか?」
「眩しいんです。銀が」
泣きながら玉ねぎを齧っていた可愛斗も手を上げていた。
「ほとりは白スク水とか着るのか⁉」
「着ねぇよ」
ともだちにシェアしよう!

