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夏の一幕 肉ぅ!
♢
夏を乗り切るために肉を食べよう。どうせなら外で焼こうぜと可愛斗が言い出したので、バーベキューセットを引っ張り出した。
近隣農家から持てないほどもらった野菜も一緒に網に乗せていく。
「あぢ~。誰だよ外で食べようとか言いだしたやつ」
言い出しっぺが木陰で伸びている。うちわであおいでやるが可愛斗はどんどこ溶けていく。
「水風呂に頭から飛び込んでこいよ」
「だりぃ~。風呂は夜に、ほとりと入るから~」
「肉焼けたぞ。ほとりと軟体動物」
麦わら帽子と首にタオルのミチが紙皿に焼けた肉を数枚乗せて持ってきてくれる。
「ああ。ごめん。任せっきりにして」
「気にしなくていい。ほら。クラゲ。口開けろ」
「お前なぁ! さりげなくボロクソ言うなやあがっ」
喚き出す可愛斗の口に肉を突っ込んでいる。……いいなぁ。あーんしてもらって。
「うまいっ! 肉うめぇ」
「ほら。ほとりも」
顔に出てしまっていたのか、微笑したミチが俺にもあーんしてくれた。
「う、ありがと」
口を開けるとそっと肉が差し込まれた。汗を浮かべながら咀嚼する。美味しい。焦げたところがカリカリしていた。
「どうも俺は焦がしてしまうようだ。対策は……」
「いいじゃん。ちょっと焦げてた方が美味しいし」
「やーい! 焦がしてやんの~。イケメンでもうまくいかないことってあるんだな~んめえええええええ」
急にヤギになった可愛斗だが、ミチにほっぺ伸ばされているだけだ。ミチに構ってもらえて羨ましい。
「暴力反対!」
「俺は暴力賛成派だ」
「ほとり聞いたか⁉ 縁を切れ。このイケメン野郎、ヤクザだぞ!」
「トウモロコシ焼けた?」
「ああ、いい具合だ。持ってこよう」
「無視するなよほとりぃ……」
軟体動物が縋りついてくる。暑いと言うわりにはくっついてくるよな。
汗で濡れた可愛斗の髪をかき混ぜるように撫でた。
「ごめんな。長いこと俺の家に居てもらって」
「あー? 長いことって、まだ一週間じゃん。俺別にここで暮らしてもいいけど? 電気代も浮くし」
「でもここからだとバイト先まで時間かかるだろ?」
「立ちこぎすりゃいいだけだし。何? 俺とイケメンヤクザだけじゃ寂しいなら、俺の友人も呼ぼうか? 夜だけでもさ。花火とかしちゃう?」
「……」
可愛斗の金が混じった薄い茶髪をぽんぽんと叩く。
「お前、ばかでデリカシーないけど、いい奴だな」
ムッとする。
「……あんだよ。ほとりだって良い所少ねーじゃん。ひょろいし料理上手だし可愛いだけだろ。調子乗るなよ」
すごく褒められた気がする。
「ありがとな」
「……」
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