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夏の一幕  たからもの

 ミチが座布団に片膝を立てて座る。 「相手に何も望まないのか? 人間は」 「んー。主語がデカいから『俺は』にするけど。俺は。自分に、自分を気遣ってくれる相手って、それだけで宝だよ。世の中にはカスみたいな奴が多いけど。その中で宝を探していくんだ。ミチは……お宝だよ……」  もう、自分で何を言っているのか‼ は、恥ずかしい‼ 顔から火が出そうッ。  突っ伏すのを通り越してちゃぶ台の下で悶えていたが、五分ほど経過してからにゅっと顔を出す。ミチがどんな表情をしているのか気になって。これで冷めた笑いとか浮かべられていたらしばらくベッドから出られなくなるだろうが。それはそれだ。 「……ふーん。良いように、言って、くれるじゃないか……」  リンゴのような頬に、泳ぎまくっている青い瞳。滝汗を流し、湯呑を握ったままの手が震え、お茶がバチャバチャ波打っている。  ――ああもうっ‼ 可愛いリアクションするな! 抱きしめてやろうか! 「「……」」  静寂が重い。  なんでこんな時に限って可愛斗がいないんだろうか。  ベッド下に頭を突っ込むとルンバさんがいた。「二人の邪魔をしてなるものか」と言いたげに気配を極限まで消している。普段、思い出さないわけだよ。  埃ひとつ落ちていないベッドの下に潜り込もうとしたら大きな手に引っ張り出された。 「ああっ何?」  ミチだった。  引っ張り出されると、抱きしめられる。 「…………」  彼の膝に乗っかって。彼の肩に顔を埋める。 「……ミ、ミチ?」 「ほとりが、嬉しいこと言うからっ。抱きしめたくなった」    外の喧騒が聞こえる。 「……ん」  うるさい心音を聞きながら俺はゆっくりと、彼の背中に腕を回す。  銀の髪が鼻先に触れる。  彼も俺と同じことを思ってくれていた。  どうして彼は、この星の生き物じゃないんだろう。でも、そのおかげで出会うことができた。 「……っく」  ミチが小刻みに震え出す。 「どうした?」 「いやっ……。ほとりの、心臓の音が、すごくて……。んぐっ」  くっくっと笑っている。顔を背けて。  むすっ。  ミチの顔を手で挟むと、ぐいっと自分の方へ向けさせた。 「え?」 「ミチの笑った顔が見たい」  笑っていたくせに、笑みが引き攣っていく。俺が手と目を離さずにいると、彼はどんどん紅潮していった。 「――っ」  俺を抱き上げながら立つと、俺をベッドに置く。そのまま彼は廊下へ走り去った。  半眼になって足をぶらぶらさせる。 「ルンバさん。あれって、照れてる、んだよね?」 『言うに及ばずですね』 「ねえ。ルンバさん」 『はい』 「俺がミチを好きになるって、おかしい、のかな?」

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