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ロッドウルム編 狙われているのにほとりに夢中
〈ミチ視点〉
「また不審者だぁあ⁉」
スマホとほとりの恨みが色濃く残っている可愛斗は憤慨した。「渡さねぇぞ」とほとりを抱き締めている。
「ミチ。怪我はなかった⁉」
コアラ可愛斗をくっつけているほとりがジャージの裾を摘んでくる。控えめなところがハートをぶん殴ってくる。もっと全身でくっついてくればいいのに。そこのコアラみたいに。
「ああ。円盤の中でギタボコにしてきた」
待て。日本人相手に暴力を振るったと教えるのは良くないんじゃないか? 怖がらせてしまう。
「――円盤の中で聞き出したんだ。あまりいい情報は吐かなかったけど」
「……あはは。お、お疲れ様。ミチに怪我がないなら、いいんだ」
「そうか。ギッタギタにしたのか。暴力賛成派イケメンヤクザがよぉ。あんまりほとりに近寄るなよな」
苦笑しているほとりの横でコアラが空気を読まない。俺がせっかく言い直したのに。
「赤髪の一味ではなさそうなんだ」
「そっか……。なら安心、もできないな」
「こりゃああ! ひっぱふは!」
コアラの頬を伸ばしてやる。いつまでほとりにくっついてんだ君は。
でも今のほとりの心理的には、誰かがくっついている方が良いのか?
じゃあ、俺も。
「……っ」
ほとりに身を寄せると、可愛い反応を見せてくれる。むっとしたコアラがほとりの顔を覗き込む。
「なんだよ。こいつにくっつかれた時だけ頬染めて‼」
「そそそそんなことないわ! ばかああぁ!」
可愛斗の顔を鷲掴みにしている。俺もコアラもノンデリ(ノンデリカシー)風味の生き物なので、ほとりは苦労するな。
顔面指の形に凹んだコアラがスマホを見せてくる。
「警察に報せた方が良くないか? またほとりに何かあったら嫌だしよ!」
「ふむ……。紳士帽子の口ぶりからして、狙われているのは俺のようなんだ」
可愛斗が背を向けてテレビを付けた。ほとり以外には関心を示さない生き物のようだ。ほとりが「あからさま過ぎだろ」と背中を揺すっている。いいよ別に。俺も狙われているのがほとりでないのなら、八割がたどうでもいい。
「だから今回は、ほとりは気に病まなくて構わない」
「駄目だよ。何言ってんの⁉ ミチに何かあっても嫌だって、俺言ったよね?」
顔を近づけ、胸ぐらを掴んでくる。
ほとりに心配されただけで顔が緩みそうになる。
「あ」
ほとりもハッとしたのか、手を放……さない。
ほとり、目が大きいし、髪もふわふわで可愛いな。ちょんとした鼻は小さく、きらきらな瞳に俺が映り込んでいる。
「「……」」
見つめ合っていると座布団を持ったダミ声可愛斗が割り込んできた。
「あーどっこいしょー。いいテレビやってねぇなー」
座布団を俺の顔に押しつけ、片手でほとりを遠ざける。
「俺がいるのにいい雰囲気になれると思うなよオラァ‼」
「「……」」
ドヤ顔で吠える可愛斗。ちょうど真ん中に来たので、俺とほとりで挟み込んでやった。
ぎゅっ。
「ぎゃああああああ! いやああああ――――‼ ほとりにだけにして! ほとりは嬉しい。お前は離れろボケアアアアア‼ 鳥肌すごい鳥になる! 空も飛べちゃうううンンンンッ‼」
拒否反応がすごい。
「確かに、俺が引っ付いている左側だけ鳥肌立ってるな」
「冷静に分析してないで離れろ四万キロくらい‼」
「地球一周して戻ってくるだろソレ……」
両手で座布団ごと押しのけようとしてくるが、そんなんで俺の力には勝てないぞ。
「キエエエエエ」と怪鳥のような悲鳴を上げまくる可愛斗を挟んだまま、ほとりが話しかけてくる。
「宇宙生物を狙う組織とかあるのかな? 宇宙人を好きな人はいても、嫌ってる人はいないと思ってたのに」
「どうなんだろうな……。明日もう一回訊問してくる。その間はルンバさんか怪鳥の近くにいるようにしてくれ。ほとりが巻き込まれたらたまらない」
「ミチもだよ? ミチに何かあっても、俺は嫌だよ?」
「分かってる。俺は自分を守れるから。マジで何があっても俺は俺を守るから心配しないでくれほら俺無傷だったし」
「なんで急に早口になるの?」
小鳥のように首を傾げてくる。可愛いな。
ルンバさんが定位置からちらっとこっちを見てるんだよ。冷や汗が止まらんわ。
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