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ロッドウルム編  逃げるが勝ち

「駅まで迎えに来たら騒ぎになってたからイヤな予感がしたんだ。そうしたら……お前らかよ」  赤髪はうざそうに頭部を掻く。  女は、マリアの手を借りて立ち上がる。 「……宇宙生物収集家。薄汚い、地球外生命体を集める男」 「おいおい。この美しさが目に入らねーのか?」  赤髪は両腕を広げる。背後に漂う、クラゲを自慢するように。  女はぎっと睨む。 「……っ汚らわしい!」 「俺たちは一生分かり合えねーな。エトナ。ミチくんを回収してくれ」  カーテンのような触手がミチに伸びる。 「! 駄目! マリア。そのスライムを渡さないで!」  倒れているミチに走るが、クラゲが桜に似た妖精の羽を震わせた。  目に見えない衝撃波が波紋状に広がり、女とマリアだけを吹き飛ばす。 「!」 「ギャア!」  電車の一車両を完全に破壊し、女と宇宙生物は別車両の屋根に叩きつけられた。マリアは即起き上がるが、人間の女は瞼を下ろしたままだ。  クラゲからパスされた赤髪が、ミチの寝顔を見つめる。 「ミチくん。弱ってるな。うーん……。このまま持ち帰っちゃ、駄目かな?」  ルンバさんが入ったリュックを荷物棚から引きずり下ろすと、フルスイングした。赤髪の頭部をぶん殴る。  ゴン、とわりといい音が鳴った。 「――ガッ⁉」  横転した赤髪からミチを奪い取る。 「ミチ! ミチ……!」  意識の無い彼を抱き締める。もう誰にも渡したくない。 「いでで……。冗談だって。やべ。人が集まってきたな。トンズラすっか」  赤髪のスーツのボタンを外すと服の中から、無数の目を持つ蛇っぽい生き物がにゅるんと出てくる。 「うわ! なんだこいつ」  ほとりを背で庇っていた可愛斗が目を飛び出させる。 「お願いね」  蛇っぽい生き物に赤髪がキスをした。蛇はまんざらでもなさそうに身を捩る。  無数の目が閉じられると、透明なベールが降りてきたように、ほとりたちの姿は他者から見えなくなった。  マリアは、ほとりたちを見失う――

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