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ロッドウルム編 助けてくれたのは
「――ミチ⁉」
ミチが倒れ込んだ。それと同時に女が自由を取り戻す。
鬱陶しそうに髪を払う。
「二百度に耐えられるあなたの弱点は電気――。ね? 水銀スライムさん?」
駆け寄りたいのに、銃口はいまだ突きつけられている。可愛斗は俺を守ろうとしてくれているが、表情は困惑に満ちていた。
女はマリアにもたれかかる。
「マリアは電気を操れるの……。あなたと相性は最悪。……スライムの天敵ってわけよ」
ねっとりと話す女に、マリアは目を細める。笑っているようだった。
「おい! イケメン野郎‼ 返事をしろ」
可愛斗が唾を飛ばすも、床に広がる銀の髪はピクリともしない。
女はちらりと外を見た。
「電車が止まりそうね。お暇しましょうか。……マリア。その害虫を捕獲して。持って帰りましょ」
マリアが意識の無いミチを抱きかかえる。
「ま、待ってください! ミチを、どうするんです⁉」
たまらず駆け寄ろうとしたが、可愛斗に羽交い絞めにされる。
「バカ! ほとり。迂闊に近寄るな。電気とか言ってたろ!」
「でもっ」
「その茶髪くんの言う通りよ。大人しくしてなさい。このスライムは私たちの兵隊として、こき使ってあげるの。クスッ……。あなたたち、可愛いわね。殺すのが勿体ないわ」
電車のドアが開く。
俺たちを殺して、逃げるつもりなのだと理解した。
――殺されるのも嫌だが、このままミチが持っていかれる方が嫌だ!
でも、俺に何ができる?
一歩下がるだけで壁に背が当たった。
オープンカーのように風通しの良くなった電車内。女の細い指が引き金に乗る。
「さようなら。坊やた――?」
高級な革靴が、女の横顔にめり込んだ。
頭蓋骨がひしゃげそうな音が響き、女の足が床から離れる。
蹴り飛ばされ、吹っ飛んだ女をマリアが受け止めた。抱えていたミチを手放して。
線路に銃が落ち、ボックス席の横に、飛び蹴りをかました男が舞い降りた。
白い縦線の入った上等そうなスーツに、ファー付きの黒コート。
鈍く輝く指輪に、ほのかにくすぐる香水のにおい。
燃えるような赤い髪。
「あ、あなたは……」
「よう。ほとりくん。誓いを破って悪いな。でも助けてやるから大目にみてくれ」
白い歯が輝く。
巨大で美しいクラゲを従え、かつてほとりを誘拐した男がウインクしてきた。
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