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ロッドウルム編  マリア

 ほとりのところに行くにはこの黒いのと銃女を退ける必要がある。  他の乗客がざわめき出す。  「なんだ今の揺れ」「地震か?」「なにあれ。撮影?」と、席を立つ人間も現れる。ほとりたちは縮こまるので精一杯だ。ボックス席が仇となった。銃口から逃げられない。 『緊急停止します。乗客の皆様は手すりに掴まり下さい――』  アナウンスが流れ、電車が耳をつんざくブレーキ音と火花を立てる。  普段以上に揺れる電車。  黒い人モドキはミチに襲い掛かった。 (人間の作った人型の兵器? ――いや)  黒い腕は伸び、鞭のようにしなる。  しゃがんで躱したミチの頭部すれすれを通り過ぎていく。ほぼ反射で動いたがギリギリだった。座席とつり革、窓を横一文字に切断する。  割れたガラスが降りそそいだ。 「ぎゃああっ」 「何⁉」  ミチは舌打ちした。 「狭いのに暴れるな!」  蹴りつけたが、腕でガードされる。 (硬い!)  念動力を使い続けているため、身体に力が入りづらい。こいつはミチと同じ、地球外生命体だ。早く電車の外に放り出さなくては。  銃を持つ女が黒い人モドキに目を遣った。 「マリア。念動力で固められているのに疲れてきちゃった。早くその虫を無力化なさい」  黒い人モドキ――マリアはこくっと頷くと、鞭のような腕を縄跳びのように振り回した。切れ味は凄まじく、紙切れのように電車を細切れにしていく。身軽なミチでも、狭い車内で一発も掠らないというのは不可能だった。  裂かれたジャージ破片が舞う。 「地球外生命体を嫌っているくせに、地球外生命体の力を借りるのか⁉」 「んふ。言いたいことは分かるわ。マリアは良いのよ。私たちと志は同じ……。私のオトモダチ、なんだから」  立っていられずに座席の下で屈んでいた人々が、ちらほらと視線を向けてくる。  マリアはミチではなく、一番近くに居た乗客を狙った。鞭のような腕を振るう。 (――⁉)  マリアの行動の意図が分からず、一瞬無視しようとしたミチだが―― 「……このっ」  人間があれに当たれば、簡単に斬り裂かれてしまう。  間に滑り込み、自分の身体を盾に黒い鞭を受け止めた。腕に鞭が絡みつく。 「?」 「庇うと思った。人間想いなのね。汚らわしい」  女がニタリと嗤う。  いきなり火花が炸裂し、ミチの意識は飛んだ。

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