50 / 67

ロッドウルム編  襲撃

 眠っていたようだ。  ミチに起こされる俺と可愛斗。 「ふが?」 「んぅ……。なぁに、ミチ。朝ぁ……?」 「次が如月駅だとアナウンスがあった。如月に着くぞ。二人とも」  熟睡していた。電車の中ってどうしてこんなに眠くなるのか。  右肩が重いのは、可愛斗の枕になっていたからかな。  両手を上げてううんと背伸びをする。 「なんだ。子どもじゃないの」  新聞と缶コーヒーを持った乗客が足を止めた。 「は?」  反応したのは通路側に居た可愛斗だった。俺はその乗客の存在にすら気づいていない。 「こんにちは。坊やたち。地球を這いまわる外虫と仲良くするのなら、あなた方も同罪とみなすわ」  可愛斗が目を見開く。新聞紙に隠された隙間から覗くのは鉄の筒。  日本ではまず見ない、銃口である。 「え――」  乗客は迷わず引き金に指をかけた。  が、指は動かない。 「っ?」 「平和の国の住人に、二度もそんなものを向けるな」  ミチの瞳が白目まで真っ青だ。  念動力を使っている。俺はようやく事態を飲み込めた、かもしれない。  銃をこちらに向けているのは女性だった。  艶のある黒髪をなびかせ、異国の血が混じっていそうなブラウンの瞳。袖なしのフリルブラウスに、スリットが眩しいタイトスカート。  咄嗟に可愛斗を庇うように抱きしめた。  一瞬、ミチの能力に驚いたようだったが、真っ赤な唇は妖しい笑みを広げる。 「なるほどね。こういう能力、か。えっちなことをするのに最適じゃない」  ミチが腰を上げる。 「……あの紳士帽子の仲間か?」 「紳士帽? ああ。あれはただの雇われの殺し屋みたいなものよ。あなたの力を見たくてね。おかげでデータは取れたわ」  ハッとしたミチが顔を上げる。電車の天井に、黒い、蜘蛛のような生き物が貼りついていた。人間よりもはるかに大きく、足は四本。頭部は黒いマネキンに酷似しており、人間も見えなくもない。  それはミチ目掛けて、真っすぐに落ちてくる。 「チッ」  ミチは通路側に避けたが、黒い蜘蛛はキャスケットと電車の椅子を踏み潰した。ドドンと衝撃が電車を揺らし、線路から車輪が一ミリほど浮く。あり得ない重さである。  黒い人モドキは自重で潰れる様子もなく、二本の足で立ち上がった。人間のように。キッとミチに顔を向ける。 (くそっ! ほとりたちから離された!)

ともだちにシェアしよう!