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ロッドウルム編 警察に……
♢
襲撃にあった俺は心の傷が完治していないこともあり、ますますビビりになってしまったようだ。
いい天気。卿次さんが「散歩に行く?」と声をかけてくれたが、足を踏み出せない。
「……」
「ほとり? どうした?」
可愛斗が顔を覗き込んできた。
「んー……。なんか、まだ外出るの怖いかも。また襲われるんじゃないかとか、思っちゃって」
せっかく外出できるようになったと思ったのに。逆戻りだ。
目を逸らし、卿次さんが耳痛そうに頭部を掻いている。
「そっか? じゃ、ゆっくりしとこうぜ。どうせ外あっちぃし」
縁側に腰掛ける可愛斗。俺はその隣に腰を下ろした。
「へへっ。ほとりの隣独り占めだぜ。あのイケメンはもうちょい寝ててもいいな!」
上機嫌だ。腕を枕にして、堂々と寝っ転がる。
「卿次さん」
「はいっ⁉」
俺が声をかけると、何故か彼はビクッとした様子だった。
「卿次さんはどうして悪事を働こうと思ったんですか?」
「……真っすぐに聞いてくるね」
人数分の座布団を持ってきた卿次さんが座布団を渡してくる。俺は尻の下に敷き、可愛斗は腹に乗っけて布団代わりにしていた。
彼は俺の斜め後ろに座り、柱にもたれる。
「人に裏切られまくってきてね。人を信用できなくなってさ。薬で従えさせることを覚えたら。もうやめられなくて。信頼関係を一から築くより楽じゃん! って。楽な方に走っちゃったんだぁ……。宇宙生物って正攻法じゃ手に入らないしさぁ~。どんどんあくどいことするようになったよ」
元はただの農家の息子だったが、重なる裏切りにより道を踏み外したのが始まりだった――と。
「友達もいないから、ぶん殴ってでも道を正してくれる人がいなくって。便利だよ~? 人を操るのに、薬って」
「俺みたいな一般人にも躊躇わずに薬を打っていましたもんね」
「いや~。ごめんねほんとに」
エトナさんがプリントされたウチワで扇いでいる。
「お詫びと言っちゃなんだけど。ロッドウルムは俺が壊滅させておこうか?」
俺は丸くした目で、可愛斗はじとーっとした目で彼を見る。
「え? それはそういう……?」
「ま、今の俺じゃ戦力的に勝てないけどさ。部下も解散させたし。でもあっちの戦力をいくらか削ぐことはできるよ?」
にこにこ笑っている。どこか寒々しかった。
嘆息と共に俺は肩を落とす。
「やめてくださいよ……。鉄砲玉や自爆特攻とかされても嬉しくありません」
「いいじゃねぇか、させたら」
腹の上の座布団をずらして可愛斗の顔に乗せる。
「ロッドウルムでしたっけ? ミチと一緒にいるだけで、これからもずっと狙ってくるんですか?」
「そうなんじゃなーいの? 俺の周辺にも変な奴がうろついていたことあったし。多分ロッドウルムの人間……か、宇宙生物だね。ま、人間だろうけど。ぽんぽん使い潰すには、宇宙生物たちは貴重だしねぇ」
可愛斗の腹の上の座布団に、リスと猿のキメラのような宇宙生物が飛び乗って、丸くなる。
「あ、こいつ」
可愛斗は一瞬払いのけようとしたが、何もせず手を引っ込めた。退かす必要がないほど、軽かったのだろう。
「え、かわいい」
「ほとりの方が可愛い!」
「……」
ムキになって張り合ってくる。恥ずかしいんだけど!
「もお」
リスよりは大きく、猿よりは小さい毛玉を人差し指で撫でる。ふにゃふにゃしていた。
「俺たちは、どうしたらいいでしょうか? 警察に言うべきですかね?」
「なんて説明するの?」
「……電車を、あんな風にした人たちに、襲われました。とか、です……?」
「円盤とミチくんを見せたら信用してくれるとは思うよ? ミチくんたちは取り上げられて、隔離されるかも知れないけどね」
「……」
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