59 / 64

ロッドウルム編  亀裂の入った友情を

 リスさん「を」潰さないように可愛斗の腹上で突っ伏す。 「どうすれば~」 「ほとりー。出るって。アイス出る」  ちょんちょんと背中をたたいてくる。  面白そうに見えたのか、リスさんが俺の背中に乗っかってきた。小さい足が背中を歩いている。くすぐったい。 「こらこら。おいで」  くすぐったさに耐えていると、卿次さんがリスさんを抱っこしてくれた。 「俺の最大戦力がエトナなんだけど。あのマリアと互角っぽいし。確実に守ってやるとは言えないのが悔しいね。……いや、エトナを兵士にするつもりはないけど」  エトナさんが卿次さんのシャツを引っ張っている。「えー? 戦うのにー」と言っているように見えた。見えただけです。 「ま、焦らず、ミチくんが起きるのを待てばいいよ。どうせ夏休みでしょ? ゆっくりしていきなよ」 「いや俺バイトあっから」 「無暗に行かない方が良いんじゃない? あいつら、バイト先に襲撃するかもしれないよ。一般人相手に平気で発砲するしさ」  愉しげに目を細める卿次さん。何か言いたそうな顔をしながら、可愛斗はスマホを取り出した。 「じゃ、サボるって連絡入れておくか」 「ごめん。可愛斗。俺が巻き込んだんだ。働けない間の分の給料、払うよ」 「いらんわ。バカ」  即答だった。 「ええっ⁉」  絶対喜ぶと思ったのに! 「どうした⁉ 可愛斗。腹か? 腹の具合が良くないのか⁉」  わんこをわしゃわしゃする勢いでお腹を撫でまくった。可愛斗は飛び上がる。 「だから出るってアイスが‼ 押すな、腹を‼ ……俺は、貯金額をお前に見せてドヤ顔する目的があんだよ! お前から金もらってどうする」  宇宙生物たちの頭上にもハテナが浮かぶ。 「なんで俺に見せるの?」 「はあ? ……だ、だから! 俺はこれだけ、自分のことできるようになったって言いたい、というか。……お前に見直して、もらいたいって言うの? 俺がバカだから。友情に亀裂入れたじゃん。それを……その。修復したいなーって。少しでも」  青春の波動を感知したのか、卿次さんが奥の部屋に走り去っていく。エトナさんは屋根の上に。廊下に出かけたルンバさんも部屋にUターンしていった。  すごく、二人きりにさせようという気遣いを感じる。  いらないですその気遣い‼ 「……あー。そ、そうだったの」 「まあ……うん。だから、目標金額に達するまで。死んでも金は受け取らない」 「俺。可愛斗のこともう、見直してるよ?」  ここ数日の可愛斗を振り返る。ライバルがそばにいたというのも影響しているのだろうが。亀裂の原因となったノンデリ成分は減っているように感じた。  茶色の髪を振る。 「駄目だ! 俺が納得できない。せめて知り合いから『友達』枠に昇格させてもらわないと。あのイケメンジャージと競うこともできない! 俺は、ほとりを諦めてねーから!」  可愛斗の真剣な顔。 「……」  ぐっと、言葉に詰まった。  今まで可愛斗のことは大型犬にしか見えていなかったが、ようやく、一人の人間として見られるようになったかも、しれない。 「お前はあのイケメン宇宙生物が好きなんだろうけど。俺は『二人の幸せを祈って身を引きます』とかしねーから」  ぶわわっと顔が熱くなった。暑さとは違った汗が噴き出す。え、え、えっ? 「んな何言ってんだよ⁉」 「……え? いやいや。バレバレだって。お前があいつ好きなの。隠すなってバレてっから」  可愛斗に呆れた目を向けられ、俺は蹲った。 「うあああああっ⁉」 「嘘だろお前。バレてないと思ってたんか? 誰だって気づくっての。ほとり、あのイケメンが近くに来るだけでどんな顔してると思っ」 「それ以上言うな―――っ」  可愛斗にタックルをかます。バイト先が表示されたスマホは飛んでいった。

ともだちにシェアしよう!