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ロッドウルム編 ミチ復活
♢
「すまない。迷惑をかけた」
卿次(きょうじ)さんに連れられ、奥の衣裳部屋から出てきたミチは黒いシャツに細身の白ズボンという姿だった。
首から下げた翻訳機が見えそうなほど薄い生地は夏にぴったりで、ボタンは全て銀。髪とマッチしている。長い脚に負けない長いズボンと、やはり裸足。
まだ万全じゃないのか、気だるげな表情も相まって、また可愛斗(きゅうと)がバ〇スされていた。
「ふざけんなぁぁぁぁ……っ‼」
眩い光を防ぐようなポーズをしている可愛斗の横で、リスさんと戯れていた俺は固まる。
卿次さんはにっこりと手を合わせた。
「いや~。初めて会った時から、こういう服着せたかったんだよね。ミチくんに。謎にサイズの合ってないジャージだったからさ」
ミチはまっすぐ歩いてくる。
「ほとり。可愛斗。怪我はないか? 悪かった。無様に気絶してしまった」
「俺が気絶しそうだわふざけろ……」
倒れた可愛斗の尻の上にリスさんが乗っかり、丸くなる。
「……? ほとり?」
指先が頬に触れ、はっと我に返る。我に返るが動けない。
ギクシャクしていると、顔の横に銀の髪が一房、垂れ下がる。
「ほとり? 呆れてしまったか? お前を守ると言ったのに、果たせなかったこと。それともお前のジャージをボロボロにしてしまったことか?」
「そんなことどうでもいいわ! ただミチのことが心配で……」
人前だろうと構わなかった。
ミチに抱きつく。
目を見開いたが苦笑を滲ませると、ミチはすぐに抱きしめ返してくれる。
「もう大丈夫だ」
ミチは本心を口にしてくれたのだろうが、俺は額を押し当てたまま、首を左右に振る。
「まだ、辛そうな顔してる……」
「え? そうか?」
卿次さんが見せてきた手鏡を覗き込み、ミチは舌打ちした。
「何か飲めば良くなる」
「じゃあ……」
「水飲め、水! ルンバが脱水症状とか言ってたぞ! あといつまで抱きついてんだダボがぁ‼」
可愛斗に背中を押され、ミチが運ばれていく。ああっ。もう少し抱きしめていたかっ……いやいや! ミチの身体が第一だ。
「はい。どうぞ」
卿次さんが冷蔵庫から水の入ったペットボトルを出して、ミチに差し出す。受け取ったミチがラベルを確認している。
「いくらだ?」
「まさか。タダで飲んでいいよ」
ミチはしゃがむと、ペットボトルをルンバさんに乗せた。ぴぴっと音が鳴る。
『無毒です』
「じゃ、いただこう」
「やっぱ信用ない? 俺……」
肩を落として泣いていたが、無理もないと思います。
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