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ロッドウルム編 ケンカになりそうだったけど
人数が増えたので畳の間に移動した。各自、座布団を敷いてその上に座す。
「ロッドウルム? 聞いたことがあるような……」
気絶している間の話を聞き終えたミチが顎に指をかけた。
「ねえねえ! ロッドウルムの写真とか持ってない?」
ウキウキした卿次さんに首を振っている。
「大昔の話だ。それに俺もうっすら聞いたことがある程度だしな」
「恐竜時代より前から生きてるミチの言う昔って?」
出された栗羊羹を食べていた可愛斗が噴き出す。
「イケメン野郎! お前いくつだ⁉」
「数えていない。そうか。俺たちを嫌悪している人間がいるのか。どうしたものか」
外に出て行こうとするルンバさんを小脇に抱えたミチが腕を組む。
「俺が持ってようか?」
「ん」
パスされたルンバさんを抱き締めておく。ミチを傷つけられた仕返しをしたいのだろうけど。危険だよ、ルンバさん。
撫でていると可愛斗が羊羹の切れ端をルンバさんに近づける。
「この羊羹めっちゃうめぇぞ。ほれ。お前は食べれるのか?」
『あら。ありがとうございます。いただきます』
ゴミの吸い取り口っぽいところから、無人レジがお札を吸い込むように羊羹が吸い込まれていく。
「おおー。おもしろ」
「ルンバさん、食べれたんだ。俺のご飯とか、食べてくれてよかったのに」
『ありがとうございます。お二人とも。ですが、私もそれほど食事を必要とはしませんので』
「ルンバさんって、どういう宇宙生物なの⁉ 宇宙生物に詳しそうだし。俺にくれたりしない?」
前のめりになる卿次さんに、ミチの目が据わる。
「そうだ。お前でサッカーをしようと思ってたんだ」
「ええっ⁉」
俺はルンバさんごとミチに抱きつく。
「待って待って。助けてくれたから一応」
「感謝している。だがそれとこれとは話が別だ」
腰を上げるミチと腰を抜かす卿次さん。
だが彼を守るようにクラゲのエトナさんが舞い降りる。怒りに呼応するように、ふにゃんとしていた妖精の羽根が張り詰めた。
睨み合う宇宙生物。
一触即発の空気を感じたのか、可愛斗は羊羹を持ったまま部屋の隅っこまでさがる。
「ミチ。お願いだよ。まだ病み上がりでしょ? 無茶しないで。お願い!」
「……」
ミチはしがみついている俺を見下ろすと眉を八の字にした。
人間の目に戻ったミチが殺気を引っ込めてくれる。
「ほとりの気持ちは分かった」
「そう? よかった!」
「つまり万全になってから殴れという意味だな?」
「違いますが?」
ひとまず蹴りかからないよう抱きついておく。卿次さんもエトナさんを下がらせていたが、彼(彼女?)は周囲から離れない。
ミチに抱きついている俺の背中に可愛斗がひっついてくる。暑い。
「……あれ? 俺は二人に、ルンバさんが宇宙生物だと言ったか?」
不思議そうなミチに、可愛斗が黒文字(和菓子用の爪楊枝)で卿次さんを指す。
「あいつの宇宙生物センサーが反応したらしい」
赤い髪をさらっと払う。
「いやぁ。俺の前では無機物のフリをしても誤魔化せないよ」
「そうか。キショイな。ルンバさんに近寄らないでくれ」
「嘘だろ⁉」
泣きついてきた男を、エトナさんが雑に慰めている。
「というかお前。宇宙生物たちと生きることを選んだんだな」
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